転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

文字の大きさ
162 / 242
第12章 VS暗殺者・パルス

第162話 終わりは乱入5秒前

しおりを挟む
 ◆ ◆ ◆


 この時、ミドリーさんは途方に暮れていたという。

 異様な部屋の光景。そこに寝ころばされている囚われの自分。後ろ手で鎖で拘束されており、自慢の筋肉でも身動きが取れず、こんなにも近くに宿敵パルスがいるのに文字通り手も足も出ないでいた。

 見た目通り腕っぷしには自信があった。だが、それは肉弾戦での話で、魔法を使われると話は変わる。彼はやはり非戦闘員。あくまでも【治療師ヒーラー】なのだ。

 一方、パルスは小さな窓を無言で見つめていた。彼をここに連れてきてからずっとこの調子で、静かに空を見上げていたらしい。

「……そんなに空が気になるのか?」

 緊張しながらもミドリーさんはパルスに尋ねる。すると、パルスは「おや?」と意外そうな声をあげてミドリーさんを見下ろした。

「僕の観察なんて、随分と余裕ですね」

「質問には答える気はないと?」

「いや……なんてことはない。空模様を見ていただけですよ」

「嵐でも来そうか?」

「さあ、どうでしょう……嵐で済めばいいですが」

 クスッと笑ったパルスはそっと窓から離れ、ミドリーさんに歩み寄る。

「さて、早ければそろそろと行ったところでしょうか……どう思います? ミドリー神官」

 パルスの問いかけにミドリーさんは口を閉ざす。口元は笑みを含んでいるが、眼差しは好戦的でぎらついていた。俺たちの到着を今か今かと待っているのはミドリーさんだけではなかったようだ。

「それにしても……手が空いてしまいましたね」

 軽い口調とは裏腹に、パルスはミドリーさんの腹部に蹴りを入れる。

 なんの躊躇ない攻撃にミドリーさんは目を剥き、たまらず唾を吐き出した。

 当たりどころが悪く、腹部の激痛と呼吸の苦しさにミドリーさんは痛みでうずくまる。それを見てもパルスは「おやおや」と言うだけで、相変わらず涼しい顔をしていたらしい。

「すいません。暇すぎてつい癖でみぞおちを蹴ってしまいました。でも、あなたはご自分で治せるから大丈夫ですよね?」

 あっけらかんと言うパルスだったが、目は笑っていなかった。冷酷で、愚民でも見るような卑下した眼差し。口調が穏やかな分、なおさら恐怖を感じた。

 咄嗟にもがいてパルスと距離を取る。しかし、治癒魔法を唱えても何も反応しなかった。しかも魔法を唱えるたびに頭の中が真っ白になり、体の力が抜けて行く。

 ミドリーさんがからくりに気づいた時、今度はパルスに顔面を蹴られた。

 口が切れ、口内に血の味が広がる。だが、この程度普段なら詠唱破棄してでも治せるはずなのに、やはり魔法が発動されない。それもそのはずだ。今の彼にはマジックパワーが吸われているのだから。

「――この鎖だな?」

 絶え絶えの息でミドリーさんはパルスに答えを求める。

 おそらくこの鎖がなんらかのマジックパワーが籠っており、対象者の魔法を封じている。この世界では誰も彼もが魔法を使えるから、こういった拘束具があっても不思議ではない。ただ、それを誰が持っているのか……という問題だけで。

「……昔の仕事道具も、役に立つものですね」

 そう言ってパルスはほくそ笑みながら眼鏡をクイッと上げる。奴は始めからミドリーさんに自分を回復させる気はなかった。

「まあ、どちらにしろその鎖が外せれば治せるからいいじゃないですか。外せれば、の話ですが」

 それは遠回しに「助けがくれば」と言っているのと同じだった。奴は弄んでいるのだ。ミドリーさんの命をかけた
「人探しゲーム」とミドリーさんの我慢大会と。彼が暇つぶしとして遊ぶにはミドリーさんは格好の的だった。

 蔑んだ目のまま、パルスはもう一発ミドリーさんの体を蹴ったあと、彼の頭部に足を置く。じりじりと踏みにじり、こめかみに痛みと、屈辱を与える。

 体中の痛みを感じながらも、彼ができたのは恨めしい眼差しを彼に向け、神官らしからぬ言葉を吐き捨てるだけだった。

「貴様のような者は……魔界に堕ちればいい」

 しかし、どんなに怒りの目を向けられても、パルスは淡々としていた。

「ご安心を……もう堕ちましたから」

 その言葉の意味にミドリーさんは思わず眉をひそめたが、この時はわからずじまいだった。


 ――それが、俺たちがここにたどり着く数十分前の出来事。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...