転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第17章 戦いの終わりに

第239話 出たところから戻るだけ

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 いつの間にか、東の空がオレンジ色に輝き始めていた。その光に反応するように、俺の体も透けて見えた。

「……こんな感じ、ね」

 水平線から昇ってくる陽光に手をかざす。しかし、いくら手をかざしても、俺の手のひらは陽光を遮ることはない。

 俺の異変に気づいたようで、セリナも体を起こして俺から離れた。

「ムギトさん……?」

 透明になっていく俺にセリナが戸惑いながらも立ち上がる。どうやら、お別れの時が来てしまったらしい。

 別れを察したのか、家からアンジェとリオンも出てきた。体が透けている俺を見て二人は驚いたように目を剥いたが、すぐに察してくれたみたいだ。

「じゃーな、みんな」

 またいつか。

 最後にそう付け足し、精いっぱい笑ってみせた。その笑顔にみんなも口角を上げて、そして涙を流した。

 陽の光が強くなる。温かくて、優しい光に体が溶けていく。

 光に誘われるように顔を向けると、言葉を失うくらい綺麗な光景が広がっていた。どこまでも広い空と、どこまでも続いていく海。海から顔を出した太陽が水面に反射して、空と海をオレンジ色に染め上げる。

 ああ、うん。護れてよかった。

 そう思わせてくれるくらい、この世界は美しかった。

 その光景を最後に、俺の意識はそこで途切れた。この感覚も、なんだかとても懐かしく思えた。


 ◆ ◆ ◆


「ごきげんよう、勇者様」

 ノアの声で目を開ける。

 飛び込んできた景色は、先ほどまでの美しさとは打って変わって殺風景なものだった。何もないだだっ広い空間。真っ白な地面と地平線。生命の息吹のかけらも感じないこの場所は「世界の狭間」と呼ばれる。そんな世界にノアはいた。正確に言えば彼女がここに俺を連れてきた、のだと思う。

「あやつらとの別れは済んだか?」

「まあ、一応」

「だろうな。目が真っ赤だ」

「うるせえ。というかお前、知っていて聞いただろ」

「そらそうだ」

 腕を組みながらノアが「ククッ」と笑う。こうして肩を揺らしながら悪戯っぽく笑う彼女を見るのもこれで最後だろう。それでも、ムカつくものはムカつくが。

 不貞腐れそうになる一方で、急に真顔になったノアが徐に手を伸ばした。
 くうに青いモニター画面が出る。そこに写るのは『エムメルク』の世界だった。画面は四分割にされており、それぞれ別の街の映像が流れていた。

 魔王に一番近い街『イルニス』では、大人たちが街の復興作業をしている中、子供たちがボールをリフティングしながら無邪気に遊んでいた。

 貿易の街『カトミア』では、俺たちを泊めてくれた灯台守のアイーダばあさんが息子らしき男性たちと共に朗らかな顔で青空を見上げていた。

 ザラクの森を越えた『エルフの里』では、エルフの人たちが街を発展させようと汗を流しながらせかせかと動いていた。みんながみんな疲れながらもどこか楽しそうに笑っている。そんな里の人たちをライザは嬉しそうに見つめていた。

 拠点にしていた『オルヴィルカ』では、フーリとミドリーさんがアンジェの父親と妹のイルマの墓に花を供えていた。声は聞こえないが、「終わったよ」と言っている気がした。

 人々は希望に満ち溢れていた。そして、取り戻した空はどの地方でも清々しく、どこまでも青く澄み渡っていた。

「貴様のおかげで世界は救われた。付き合ってくれてありがとう、ムギト」

 驚きながらも顔を向けると、穏やかな顔で笑ったノアと目が合った。
 お前、やっと俺の名前を呼んだな。

 呆れながらも、実際はくすぐったくて仕方がなかった。けれどもまったく嫌な気分はせず、むしろ胸がスーッとなった。ここでようやくノアと契約者あいぼうらしい関係になれたように思えた。

「こちらこそ。楽しい世界だった」

 そう言って手を差し出すと、一瞬驚いたノアだったが、すぐに口角を上げて俺の手を取った。最初で最後の、固い握手だった。

 だが、その握手もすぐにノアにほどかれた。

「さっさと行くぞ。こういうのはぐずぐずしたくない」

 そう言ってノアが目の前の青いボードに両手をかざした。

「ムギト・オオダテ。転生回帰」

 その言葉を合図に青い画面が光りだす。青い光が強くなり、俺の体を包み込む。全身の力が抜け、意識がどんどん遠くなる。二度目の経験だ。だからわかっていた。俺は、もう一度転生する。

「──夢の終わりだ。せいぜい頑張って生きるがよい」

 青い光に包まれながら、どこかでノアの声が聞こえてきた。冷やかすように言い捨てる口調なのに、別人のように棘がなく、優しい声だった。

 しかし、感情に浸る暇もなく俺の意識は一瞬でぷっつりと切れた。これもまた、泣きたくなるほど懐かしく思った。
 
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