転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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終章 ただいま、世界

第241話 夢じゃない

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 喪失感に苛まされている俺をよそに、母親は「そうそう」と話題を変えた。

「そういえば、あなた倒れた時にこれを握っていたのよ。こんなおしゃれなものを持っていたのね」

 そう言って、母親は棚の引き出しから何かを取り出した。

 出てきたのは、セリナが作ったコアの首飾りだった。コアはこれっぽちも光っていなかったが、確かにあの世界でもらったものだ。

 この首飾りが、俺が『エムメルク』で過ごした日々が夢でないことを証明してくれた。そう思うと、途端に胸が熱くなって、目から雫が溢れてきた。

「あらあら。そんなに大事なものだったのね」

「うん……うん……」

 セリナの首飾りを握りながら、祈るように指を絡ませる。どうか、遠くの世界にいる人が、友が、好きな人が、ずっと幸せでありますように。

 涙を流す俺を不思議そうにしながらも、母親が微笑ましそうにして見守る。そんな最中、母親のスマホが震え出した。着信主を見て、母親は「あ」と驚いた声をあげた。

「頼人からだわ。ちょっと出るわね」

「あ、うん」

 母親が電話に出る。こういう時、個室でよかったなと思う。母親が気兼ねなく父親たちと連絡が取りあえるし、俺も母親と頼人の会話の様子を見られる。

 いったい何を話しているのか。残念ながら会話は聞こえないが、嬉しそうな母親から察すると悪い状況ではなさそうだ。俺がこんなに元気なのだ。一日早く目が覚めた頼人はもっとピンピンしているに違いない。

 そう思った矢先、母親が「え?」と声をあげた。

「麦人? 起きてるわよ。今、代わるね」

「あ?」

 思わず素っ頓狂な声が出た。しかし、母親はお構いなしに俺に自分のスマホを手渡してくる。

「お母さん、飲み物買ってくるから。ゆっくり話してなさい」

 と、人の気も知らずに母親は笑顔で病室を出ていった。

 電話の先に頼人がいる。非常に気まずいが、逃げてばかりはいられない。でないと、なんのためにこの世界に戻ってきたのだ。俺は一旦深呼吸して心を落ち着かせ、震えた手でスマホを耳に持っていった。

「……よお」

「へえ、思ったより元気そうじゃん。鼻声なのは、ずっと寝ていたせい?」

 電話に出た途端、「ああ、頼人だ」と思った。一見落ち着いていると見せかけて、この人を小馬鹿にした口調。こっちの世界に戻っても変わりはないらしい。

「魔王様は先に目が覚めただけあって、すっかり回復したようですな」

 鼻で笑いながら言ってやると、電話越しから「くっ」と悔しそうな声が漏れた。どうやらあっちで魔王様になったことは頼人にとって黒歴史と化したらしい。ここに来て奴の弱みを握れて「してやったり」と思った。

 いや、違う。そういうことをしたい訳ではない。

「なあ」

「あの」

 声がかぶった。かぶったことで一気に微妙な空気になってしまった。どうしてこういう時だけ双子のシンクロをしてしまうのだろう。

 すっかり気まずくなって言いよどんでいると、頼人が仰々しくも再び俺に話かけてきた。

「──ごめん。あっちでのことも。今までのことも」

 その声は真剣そのもので、こんな神妙な感じで謝られたことがなかったから一瞬呆気に取られた。しかし、声だけでも頼人の真摯的な態度を察してしまい、俺も自然と口が動いた。

「俺こそ、お前を傷つけて悪かった」

 あっちの世界でも。これまでも。

 そこまで言わなくても頼人には通じたようで、電話越しで「フッ」と笑った。

 頼人がさらに話題を振る。

「年末、実家に帰るだろ?」

「帰るけど、お前は?」

「僕も帰るよ。その時でいいからさ、二人でご飯食べに行こう。奢るから」

「あ? お前と? なんでまた」

 あまりに意外な提案に素っ頓狂な声が出る。こうして電話をすることすらなかったというのに、そんな俺たちが二人で外食だと? まったく想像できない事態に訝しく思っていたが、当の頼人は真剣だった。

「教えてほしいんだ。僕が壊そうとした世界のこと。じゃないと、いつまでもけじめがつかない」

 その発言にハッと息を呑んだ。こいつなりに償おうとしているのだ。怖そうとしてしまった世界のこと。そして、犠牲になってしてしまった人たちのこと。この世界でその事実を知っているのは俺しかいない。

「わかった。俺も話させてくれ。お前にしか話せない」

 そう言うと、頼人が笑ったような気がした。

「じゃ、約束な。忘れるなよ」

 そう言って、頼人は一方的に電話を切った。

 少し先の約束。たったそれだけのことなのに関係性が変化している。それが電話を切ってからのほうがじわじわと実感して、なんだか胸が熱くなった。

 ──アンジェ。俺、仲直りできそうだよ。

 もうこの世界にいない友人に告げる。答えは勿論、帰ってこない。

 そんなことを思いながら虫食い模様の天井を見つめていると、病室の扉がガラガラと音を立ててスライドした。母親が飲み物を持って戻ってきたのだ。
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