脱出不可能

紗雪

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脱出不可能

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久しぶりにひどい風邪を引いてしまった。最近はろくに食べずに、休みも無く働いていたことが原因だろう。熱で火照った体を何とか動かし会社に連絡を入れる。3コールで出た上司は口では心配するようことを言っていたが、内心僕に対する不満でいっぱいだろう。この後周りの部下たち相手に吐き出すに違いない。せっかくの休みなのだからそんなブラックな職場のことは忘れてゆっくり寝よう。
そう考えたが、ふと思い立ち彼女に一応風邪を引いたことを連絡する。付き合って3年がたつが、最初の頃と比べ会う時間が少なくなった。お互い仕事が忙しいことを言い訳にしているのだろう。嫌いになった訳ではないだろうが、これがマンネリ化というやつだろうか。そんなことを考えつつ連絡を入れ終えた。風邪を引いた時にはとても心細くなり、独りでいることが辛くなる。仕事が終わったら来てくれないかな、などと若干の期待と共に眠りにつく。起きたら何か食べる物と薬を買いに行こう。意識が落ちていく。
ふと目が覚めた。外はまだ明るいが、体調はますます悪くなっていた。これ以上悪くなったら流石に動けなくなりそうだ。急いで準備をして、ふらつきながら外へ出ようとする。目が回るがギリギリ立てるな。焦りながら玄関先に向かうと急にドアが開いた。足元もおぼつかないため、びっくりしてこけてしまう。恐る恐る見上げるとそこにはスーパーの袋を持った彼女が立っていた。どうして?仕事は?などと思うが、彼女を見て察する。心配してわざわざ休みを取って駆けつけてくれたのだろう。しかも袋の大きさを見るに手料理付きだ。そんな彼女を見て心がとても暖かくなると同時に頬が緩み切る。ああ、これは最強の監禁だ。明日には完治するだろう…。
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