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ギルドの仲間たちと、狐耳の大誤解
しおりを挟む「ふぅ……ようやく着いた……」
重くなった腰に手を当てて、リド――いや、狐耳の美少女姿のリドは、ギルドの立派な扉を見上げた。
いつもなら余裕の表情で入っていく場所だが、今日は気が引ける。
なにせ、誰がどう見ても美少女なのだ。
しかもド直球の狐耳。しかもゆらゆら揺れる尻尾付き。
(……冷静に考えて、俺がギルドにこういう姿で来るって、どういう事案だよ……)
だが、この姿を解決する手がかりがあるとすれば、信頼できる仲間たちしかいない。覚悟を決めて扉を押す。
中は朝の騒がしさそのまま、冒険者たちがわいわいと集っていた。
「いらっしゃ――」
受付の少女が言葉を飲む。
それもそのはず。狐耳の美少女がひとりで入ってきたのだから。
しかも、明らかに只者ではない魔力を纏っている。
「あの……お名前をお伺いしても?」
「……リド・ルキリスだ。登録番号《0037-AR》だ。昨日の夜、俺はこうじゃなかった」
「へ? ……へぇええええええええええええ!?!?!?!?」
受付嬢が椅子から転げ落ちる。
ギルドの喧騒が一瞬にして止まり、皆の視線が一点に集まる。
「今、なんつった!? リド様だとォ!?」「え!? あの、アルゼン最強のイケメン魔術師!?」「嘘だろ、狐耳の美少女になっちまったのかよ!?」「趣味か!?」
「ちがぁあああああああう!!!!!」
リドの叫びがギルドに響く。
その時だった。
ギルド奥の扉が開き、二人の仲間が姿を現す。
一人は背が高く、冷静沈着な女剣士、《レイナ・ヴァルシュタイン》。
銀の髪に鋭い眼光を持つ美人で、リドの長年の戦友。
もう一人はぼさぼさの髪に片眼鏡をかけた青年錬金術師、《ジーノ・ベルグ》。常に何かのフラスコをいじってる研究狂。
「……狐耳の……小娘? なんでここに……って、あ?」
レイナは狐耳少女の瞳を見て、ピクリと眉を動かす。
「……その眼。リド、なの?」
「やっと気づいてくれるまともな奴がいた……!」
「マジで!? マジなの!? え、え!? これ人体変換魔術!? それとも祝福系!? 転生!? 亜人融合!? やべぇ!! めっちゃデータ取りたい!!」
「落ち着けジーノ!! お前はまず俺の話を聞け!!」
リドは息を整えながら、自宅での出来事をざっくり説明した。
――飲みすぎたこと
――起きたら魔方陣の中だったこと
――お稲荷像が「契約成立」とか叫んだこと
――気がついたら狐耳美少女だったこと
「…………」
レイナとジーノは無言で顔を見合わせる。
「つまり、お前は狐神の加護か何かを酔った勢いで召喚・契約した……ってことね」
「そうなるな。しかも解除法が分からん。ジーノ、お前何か知らんか?」
「知らん!」
「即答かよ!!!」
「でもさ、でもさ! すっげー面白いよ!? ていうかリド、今魔力の流れすげー綺麗だよ! 体が軽くなってない? 精神的にはアレだろうけど、魔術師としては今、完全に"最適化状態"だよ!」
「それでも戻りたいんだよ!! 俺はイケメンのままでいたいんだ!!」
「贅沢な悩みね……こっちは年齢戻したくても戻せないってのに」
「それは知らんがな!」
周囲は騒然、リドは大混乱、ジーノは大興奮、レイナは半笑い。
そんな中、ギルドの掲示板にひとつのクエストが貼られる。
『【緊急依頼】
失われた狐の神具「白尾の宝珠」を探索せよ。
報酬:未定(大変貴重な遺物の可能性あり)』
その依頼文を見て、リドの尾がふわりと震えた。
(――あれだ。何か、体の奥が反応してる。間違いない)
リドは前を向き、口を開く。
「よし。元の姿に戻るためにも、このクエストを受ける。みんな、付き合ってくれ」
「任されたわ、相棒」「最高の研究対象!!」「狐耳最高……うぁっ、鼻血出た」
「だがアレン。テメェは駄目だッ!!」
「……へ?」
「やっぱ俺の人生、今日からハードモードだな……!!」
こうして、リドたち(アレンを除く)は“元に戻るための冒険”へと歩み始めた。
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