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ストーリー
リュカスの記憶
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陽が昇り、太陽が完全に顔を出した頃、ペディアは目を覚ました。藍色のローブの子は既に目を覚ましていたらしく、洞窟の壁に背を預けながらこちらを見ている風…だった。フードを目深に被っているので、顔は分からないが多分そうだと思う。
「…おはよう。昨日は辛そうだったけど、今日は大丈夫?」
ペディアは出来るだけ明るく笑顔で言ったが、無反応だった。リュカスにしか関心がないのか、それとも警戒しているのかは分からないが、リュカスの頬をしきりに撫でている。
『主、我は彼奴に例の山について説明する。聞きたくなければ出て行くが良い』
藍色のローブの子は、ぎゅっとリュカスを抱きしめた後、洞窟の奥へと入っていった。あの距離だと聞こえると思うんだけど…。いいのかな?
リュカスはあまり気にした様子はなく、念押ししてから話し始めた。
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
さて、お主。これから我の話すことは全て真実であり、嘘はない。質問は最後にしろ。
我が知るお前のいた山は、もう何百年も前の話になる。当時、"執念の森"として恐れられていたあの山は、極悪人とも呼べる者共の集まりだ。
彼らの行いは様々だが、主に殺人や奴隷商売、賭博が原因だろう。特に賭博に関しては、死人が出るほどの争いもあったものだ。中には善なる者でも山に入ることはあったが、それは稀だな。
彼らは自分中心の裕福な生活を目標にしていたから、ほかの者が愉しそうにしているのが気に食わなかったのだろう。恨み、妬み、そして憎悪の感情を持ち続けた結果、あの異様としか言えない山になったのだろう。
あの山はそういった感情を持つ者の集まりだからな。
お主は…、水の他に光属性魔法も持っているだろう?
その2つしか持たぬお前が、あそこまで持ち堪えたのは奇跡としか言えぬ。闇属性魔法を持つ者なら、多少の耐性はあるが、それでも強力故に潰されてしまう者の方が多かろう。
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
リュカスはここまで言って、ひと息ついた。話を真剣に聞いていたペディアは、藍色のローブの子の様子に気づかなかった。
「え…?!大丈夫??」
洞窟の少し影ったところで、フードの上から頭を抱えて蹲っていた。
『主っ!無理にこの話を聞く必要はないと…!!小娘!頭痛薬を作れ、薬草はここを出て左側だ』
「う、うん!」
薬草を採りに急いで洞窟を出ると、涙目になったアガーべがいた。
「アガーべ…?!どうしたの??」
「ペディ姉…頭痛いよう…」
「大丈夫?頭痛薬作るから、あなたも飲む?」
「…僕は、効かないから要らない」
ペディアは薬草を採り、水魔法で葉を洗ってからアガーべに言う。
「洞窟にくる?白い狼さんいるの。助けてくれるかもしれない」
アガーべは首を振って、しゃがんだまま動かなくなった。藍色のローブの子を放っておく訳にはいかないので、急いで戻り、薬研を拝借して薬を作る。
薬研:昔の薬を作るための手作業の道具。船型の容器とそれに嵌る円盤に左右の取っ手がついたもの用いる。草木や穀物を円盤状のもので上下に擦り潰すことができる。
(分からなかったら、『薬研 薬』で検索すれば出てくると思います。by作者)
『小娘!まだか?!』
「いま出来ました!」
薬草から採った葉液を水魔法で少し薄めて、藍色のローブの子に手渡す。渡された薬水に警戒しているようだった。
『大丈夫だ。我が見ていた。毒は入っておらぬ』
ペディアとリュカスを交互に眺めて、ようやく時間をかけて薬水を飲んだ。
それを見て安心していたペディアだったが、突如訪れた左腕の熱さに膝をついた。
「…な、に……」
急いで左腕に巻いていた布を剥ぎ取ると、アガーべと契約を結んだ印が朱色に光っていた。
「……契約したときは、黄色だったのに…。なんで赤色になってるんだろ?」
疑問は浮かぶが、時折来る鋭い痛みのせいで思考が飛びかける。藍色のローブの子がペディアの契約印を指さし、顔を背けた。
見たくないのかもしれない。
ペディアはその場から離れつつ、リュカスに言う。
「……リュカス、洞窟の外にアガーべがさっきいたの。ちょっと心配だから、様子を見てくるわ。あなたはここで、その子と一緒にいてあげて」
『心得ている』
「…おはよう。昨日は辛そうだったけど、今日は大丈夫?」
ペディアは出来るだけ明るく笑顔で言ったが、無反応だった。リュカスにしか関心がないのか、それとも警戒しているのかは分からないが、リュカスの頬をしきりに撫でている。
『主、我は彼奴に例の山について説明する。聞きたくなければ出て行くが良い』
藍色のローブの子は、ぎゅっとリュカスを抱きしめた後、洞窟の奥へと入っていった。あの距離だと聞こえると思うんだけど…。いいのかな?
リュカスはあまり気にした様子はなく、念押ししてから話し始めた。
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
さて、お主。これから我の話すことは全て真実であり、嘘はない。質問は最後にしろ。
我が知るお前のいた山は、もう何百年も前の話になる。当時、"執念の森"として恐れられていたあの山は、極悪人とも呼べる者共の集まりだ。
彼らの行いは様々だが、主に殺人や奴隷商売、賭博が原因だろう。特に賭博に関しては、死人が出るほどの争いもあったものだ。中には善なる者でも山に入ることはあったが、それは稀だな。
彼らは自分中心の裕福な生活を目標にしていたから、ほかの者が愉しそうにしているのが気に食わなかったのだろう。恨み、妬み、そして憎悪の感情を持ち続けた結果、あの異様としか言えない山になったのだろう。
あの山はそういった感情を持つ者の集まりだからな。
お主は…、水の他に光属性魔法も持っているだろう?
その2つしか持たぬお前が、あそこまで持ち堪えたのは奇跡としか言えぬ。闇属性魔法を持つ者なら、多少の耐性はあるが、それでも強力故に潰されてしまう者の方が多かろう。
☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆
リュカスはここまで言って、ひと息ついた。話を真剣に聞いていたペディアは、藍色のローブの子の様子に気づかなかった。
「え…?!大丈夫??」
洞窟の少し影ったところで、フードの上から頭を抱えて蹲っていた。
『主っ!無理にこの話を聞く必要はないと…!!小娘!頭痛薬を作れ、薬草はここを出て左側だ』
「う、うん!」
薬草を採りに急いで洞窟を出ると、涙目になったアガーべがいた。
「アガーべ…?!どうしたの??」
「ペディ姉…頭痛いよう…」
「大丈夫?頭痛薬作るから、あなたも飲む?」
「…僕は、効かないから要らない」
ペディアは薬草を採り、水魔法で葉を洗ってからアガーべに言う。
「洞窟にくる?白い狼さんいるの。助けてくれるかもしれない」
アガーべは首を振って、しゃがんだまま動かなくなった。藍色のローブの子を放っておく訳にはいかないので、急いで戻り、薬研を拝借して薬を作る。
薬研:昔の薬を作るための手作業の道具。船型の容器とそれに嵌る円盤に左右の取っ手がついたもの用いる。草木や穀物を円盤状のもので上下に擦り潰すことができる。
(分からなかったら、『薬研 薬』で検索すれば出てくると思います。by作者)
『小娘!まだか?!』
「いま出来ました!」
薬草から採った葉液を水魔法で少し薄めて、藍色のローブの子に手渡す。渡された薬水に警戒しているようだった。
『大丈夫だ。我が見ていた。毒は入っておらぬ』
ペディアとリュカスを交互に眺めて、ようやく時間をかけて薬水を飲んだ。
それを見て安心していたペディアだったが、突如訪れた左腕の熱さに膝をついた。
「…な、に……」
急いで左腕に巻いていた布を剥ぎ取ると、アガーべと契約を結んだ印が朱色に光っていた。
「……契約したときは、黄色だったのに…。なんで赤色になってるんだろ?」
疑問は浮かぶが、時折来る鋭い痛みのせいで思考が飛びかける。藍色のローブの子がペディアの契約印を指さし、顔を背けた。
見たくないのかもしれない。
ペディアはその場から離れつつ、リュカスに言う。
「……リュカス、洞窟の外にアガーべがさっきいたの。ちょっと心配だから、様子を見てくるわ。あなたはここで、その子と一緒にいてあげて」
『心得ている』
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