いつか君とこの道を

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草をかきわけ、いつものように。


獣道を歩いて落ち葉を踏んでは、乾いた音が心地よく響き渡る。


まっすぐ進んで手前の枝をどけてやると、見慣れた洞窟がそこにあった。


「エミリー」


僕はいつものように、入り口に近づきながら声をあげた。


静かで、気持ちの良い朝だ。

小鳥が遠くでピチチ、と声を出して、追いかけっこしてる。


それを少し横目で流し見してから、ひやりと冷たい岩肌に足をおき、そのままゆっくり中へ入る。


「エミリー、僕だよ。いるんだろ?」


少し向こうの方の暗がりへ、声を届ける。

すると奥で何かが動いて、立ち上がる。


「……うん、いるよ」


その声は寝ぼけていて、ろれつが回っていないようだった。


「さあ、今日は良い天気で気持ちが良いよ。すぐ近くに小池があって、光がキラキラ反射していて綺麗なんだ。」

「その話は何度も聞いているよ、ジョニー…」

重たそうに瞼を持ち上げ、エミリーは少し明るみへ歩み寄る。

「いいじゃないか。見に行こうよ。」

するとエミリーはいつものように、

「やだよ。外は、こわいもの」

と一言だけ。

「少しくらい、大丈夫さ。すぐそこなんだ。この洞窟のなかと、ちょうど同じくらいの距離しかない」

「いや、だめだよ。ぼくはここへいるから、ジョニー、君だけいってきなよ。」

「僕は、君と見たいんだよ。いつになったら出てくれるんだい?」

「さあ…ぼくはここで、長いこと過ごしているけど、不便なことはなにもないよ。なにより、こわいものだって来ないんだ」

「また、それを言うね。その、って、なんなんだい?僕は生まれてからこの山を走り回っているけど、こわいものなんて、ひとつもないよ。」


エミリーも、すこし複雑そうな顔をして、


「…違うんだ。母さんが、いつも言っていたんだよ。外には、こわいものがたくさんあるから、おまえのような子供は、うろつくなって。」

「エミリー、君の母さんは、この前死んでしまったが、君はもう子供じゃないよ。立派に、物事を見れるだろう。色々、考えられるだろう。君の母さんが言っていたのは、僕らがまだ、十分に駆けることの出来ない時のことを言っているんじゃないかい?」


エミリーの母さんは、ある日、外へ出たきり戻って来なくなった。

もう、それから、一年と秋が過ぎた。


「確かに、毒を持つ蛇のアンディは荒っぽいし、野イチゴの山の方のケビンおじさんは恐いけど、それでもみんな、友達だよ。」

「そうではないんだよ、ジョニー。」

「それじゃあ一体、どういうことなんだい?なにか、悪いことをしてしまったんなら、一緒に謝りにいくよ。」

「いいや、なにも、してないよ。ぼくはここから出てもいないしね。僕が言いたいのはね、ジョニー」

エミリーはそとの方を見た。

瞳に光がはいって、綺麗な宝石みたいになっている。

「ぼくは、恐いのさ。母さんが言っていた、こわいものって言うのがなにかは分からないけれど、外の世界が、こわいんだ。外には、ぼくを嵐や寒さから守ってくれる壁はない。誰にも取られないような水場だって、ないかもしれない。君は臆病だと言うかもしれないけれど、ぼくには外は、わからないことだらけで、こわくってたまらない。ぼくは構わないから、エミリー、君は君が楽しいように、いってきなよ。」

いつもと変わらない、エミリーの顔。

右耳がすこしだけ切れて、今はもう、すっかり傷は塞がっているけど、ぱっくりしたその切り傷は、かなり昔に、エミリーが赤ちゃんの頃に、受けた傷らしい。

エミリー本人も、それは覚えていないくらい、前の話。

だけど、それで聞きにくいのか、エミリーはいつも右耳がすこし伏せている。


「僕が無理に連れ出しても、エミリー、君は楽しくならないだろうね。けれど僕は、君が出たいと、おもわず思うような話を、毎日もってくるよ。そのときは、一緒に走ってくれるかい?」

「うん。もちろんだよ、ジョニー。ぜひ、ぼくがハッとするような話を、聞かせてくれ。今までのだって、どれも面白い話ばかりだったけれど。それを聞いているうちに、君となら、外の世界へ、行けるかもしれない。」

「ありがとう、エミリー。もっともっと、面白い話を持ってくるね。約束だよ。それじゃあ僕は、また、散歩へ行ってくるよ。木の実があったら、とってくるね。」

「うん、ありがとう、いってらっしゃい。けれど、気を付けてくれよ。」

「大丈夫さ、エミリーも来たくなったら、追いかけておいでよ。目印は、赤い花だからね。」

「うん、わかった。」




「……あ、また、言いそびれてしまったな。赤い花の名前、ついこの前、教えてもらったのに。」





第一話・終
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