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ジョニーとエミリー
しおりを挟む赤い花。
花弁が五、六枚ついていて、土からまっすぐ、背伸びをするみたく生えている。
僕はこの花の名を知らない。
「これを持っていったら、エミリー、喜ぶだろうか。エミリーは、きっとずいぶん出ていないだろうし、珍しいだろうけど」
ジョニーはその、燃えるような赤い色をした花を、じっと見つめた。
まるで今から消えてしまう灯火の最後を、見届けるように。
「……これをとってしまったら、エミリーが追いかけてきたときに、迷ってしまうだろう。だから、とるのはやめておこう」
ジョニーは自分に言い聞かせるように言って、そのままその場をあとにした。
(ああ、見てくれよエミリー。この花を。この葉を。この森を。君は、たった一部しか見たことが、ないだろう…)
煌めく太陽で木漏れ日がちらちらと足元を照らす。
まるで誰もいない特別な世界を、独り占めした気分だった。
「…僕は、君と一緒でなきゃ何事も、楽しくないんだよ。エミリー」
ぽつり、こぼすとジョニーは、流れていた風景を止めた。
まるで、映画を見ているときに、一時停止ボタンを押したように、空間自体が止まってしまったように感じた。
「こわいものって…なんなんだろう。この森にも、あるのかな」
ジョニーは、好奇心旺盛な若者だった。
何事も、当たってくだけ、失敗を恐れない。
逆にエミリーは、臆病で繊細な若者だった。
何をするにも、信用や確かな事がないと、そこから動くこともできない。
そんなエミリーと友達になるために、ジョニーはたくさん苦労をした。
こちらから歩み寄っても、近づくどころかエミリーは離れていく。
仲間の間で独りぼっちになっていくのだって、時間の問題だった。
孤立したエミリーに、それでも仲良くなりたいジョニーは懸命に話しかけに行った。
そしてジョニーの努力はある日、報われることになる。
嵐の日だった。
ものすごい轟音が辺り一体を包み込んで、強風に体は右往左往。
耳の近くでなんどもなんどもビュウ、という音がなって、まだ子供の彼らは恐かった。
仲間皆でほらあなにくるまっていると、エミリーは思い出したように、いきなりほらあなの外へ飛び出した。
「エミリー!?危ないぞ!」
「行かなきゃいけない、どうしても!」
エミリーはそれだけしか言わなかった。
他のみんなは、くすくす笑ったり、見下すようないやな言葉を溢していたけれど、ジョニーだけは笑わなかった。
見かけがよく、頭もいいから、みんなはエミリーのことをよく思うのが、いなかったみたいだ。
ただ、ジョニーだけはちがかった。
彼を心配して、なんとエミリーを追って、彼も嵐の中飛び出していったのだ。
彼の母親が静止の声をあげるも、ジョニーは一目散にエミリーを追いかけた。
「エミリー!エミリー!!」
力一杯声をあらげながら、ジョニーはエミリーを探した。
「くそ…!雨のせいで、においが分からない…!」
濁る視界に、利かない嗅覚。
ジョニーはそれでも、一生懸命エミリーを探しに走った。
ーーーーそしてついに、ジョニーの目にエミリーの姿が移りこんだ。
ジョニーは、エミリーを見つけるなり、「どうして外なんかに飛び出したんだ」という説教は、垂れなかった。
「エミリー!」
「…?!君は……なんで君が来たんだ!」
「そんな説明は後でするし、どうでもいい!早く、掘らなければならないんだろ!」
エミリーは、この嵐で崩れた土砂の下敷きなった仲間を助けようと、泥だらけになりながら土を掘っていた。
そうだと思われる仲間は、わずかに足が出ているだけだ。
早く助け出さなければ、手遅れになる。
ジョニーは頭で考えるよりも、直感的に察したのだろう。
「…え……!」
エミリーは一瞬、困惑の顔を浮かべ、その手を止めたが、
「……ああ!」
と、ジョニーに返事をして、再び手を動かした。
寒い中での豪雨暴風は、彼らの体力をどんどん奪っていった。
それでも、助かるかもしれない仲間を前に、彼らの気持ちは揺るがなかった。
「…よし!せーので引っ張るぞ、エミリー!」
「うん!……せーのっ!」
どれくらいかけたか分からない。
七割方体が見えた辺りで、あとはふたりで土から引っ張り出した。
だらりと力なく倒れているその姿を見て、ふたりは、手遅れだったと、歯を強く噛み締めた。
悔しさや後悔を、ジョニーがその口から飛び出そうとした時、
「………く、はッ!!」
確かに生きているものの音がした。
助けた仲間は、生きていた。
むせる仲間を見て、ふたりは目を見合せ、
「やったな!」
「……うん!」
と、泣きそうになりながらいった。
それがきっかけとなり、ジョニーが話しかけると、エミリーもそれに応えておずおずと、話し始めた。
少しずつ言葉を交わす量が増えて、いつしか二人は仲のよい二人になった。
(知っているよ、エミリー。君は誰よりも優しいってことを)
枯れた花の事を教えてくれたのはエミリーだった。
木の上の雛がかえったのを教えてくれたのも、嵐の中母親を助けに飛び出したのも全部、エミリーだった。
エミリーの母親は、あの嵐が原因で早死にしてしまったが、引きこもるエミリーを連れて外を駆け回るのが、ジョニーのささやかな願いだった。
「待っていて、エミリー。君の言うこわいものは、僕にはまだわからないけど、そんなものどうでもなくなるような話を、見つけてくるから。」
ジョニーは静かに微笑んでから、エミリーがわくわくしながら自分の話を聞く様を想像して、今度は嬉しそうにくくっと笑った。
そうして彼は、森の奥へ眠っている物語たちの蓋を、覗いていくのだった。
「………やあ、君か。また、来たんだね。」
第二話・終
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