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第28話
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「……なんだこれ。」
この目にしたのは特徴的な赤い屋根だった。しかし、肝心なことを忘れていたのである。そんなことを、目の前に佇む地元料理の老舗を傍観しながら考えていた。
「まあ首里城こんなに低いわけないよな。」
斗真の苦笑はまだ余裕があるようで、この後も目的地へ辿り着く体力を備えていると簡単に感じて取れた。
しかし、だ。年老いた店主らしき人物の両手に掲げられたトレイの上に居座っているものは紛れもなく海鮮丼だった。その輝かしい海の幸へ吸い込まれるよう、勝手に始まった班内会議の末に『8』と書かれたテーブルを囲んでいた。
写真等貼り付けられずに文字だけの羅列で作られたメニュー表を手に取り、その素材となる紙の触感が右手を伝う。上段の3番目に記された「究極海鮮丼 500」の文字を見て、先ほど目にしたものはこれだと脳が教えている。
ていうか、これ以外に海鮮丼のメニューは無かったという理由なのだが。
「500…?あのボリュームの割に安くね?」
確かに求められるなら四桁へ簡単に突入しそうな盛り付けであった。学生に優しいお値段である。
「おじさーん!『究極海鮮丼』四つお願いしまーす!」
先走り勝手に注文をした紫苑さんであったが、誰一人として異論は出なかった。ノープランで始まったときは、腹の虫が活動を始める時間帯に森の中とかに居たらどうしようとか考えていたので安堵である。
食事が来るまでの間を談笑で繋ぎ止めていた最中、外を歩く我が校の生徒が目に映った。8番テーブルは店の中央あたりなので、声はかろうじて拾うことができた。
「みろよ月見がハーレム気付いてるぞ。」
「うっわ羨ま…いや、まあそうか。結局運動できて顔がいいやつだけがああ成れるんだよな…」
一瞬本音を押さえ込んだかと思ったが、やっぱり本音臭いことが出ている男子生徒はものすごくわかりやすい妬みの表情をしている。お前らも男女比2:2だろと言ってやりたいところだが、やはり他から見ればそうなのだろうと一人で悲しくなる。
「寧ろこの中でハーレムしてるのは日向ちゃんなのにね。夏休み最終日とか…」
ここで御影ちゃんによる巨大ボディブロー級爆弾発言と斗真が必死に笑いを堪えながら送る視線に殺されてしまう。
「日向ちゃん案外押しに弱かったやつねー」
もう黙ってくれないか君達。
このメンバーが絡みだすにつれて増えていく黒歴史で済みそうにない出来事は、概念を超越して八雲日向の精神を抉るのに最適な形をしているのではないかと思う程までに至る。
「あいっ、『究極海鮮丼』四つね。」
しばらくして、店主っぽい人が両手に二杯ずつ器を持ちテーブルにやってきた。盛られたその器には驚かされるばかりであった。
圧倒的な量は勿論、盛られた海鮮の色や質までが某100円均一回転寿司チェーン店が泣いて逃げ出すレベルのものであった。だってこれで500円だもん。
高級だと偏見を持っていた食材も贅沢に使用されており、これで500円。うん。本当にお得の一言に尽きる。
四人で声を上げ、両手を合わせた後には誰もが「美味しい」と口にして箸を止めることは無かった。あっという間に醤油の染みた米粒が数粒残された器がそこに四つ、綺麗に並んでいたのだった。
「いやー、最高だねここ。すっごい美味しかったよー!」
今日この後、紫苑さんの口から出る「美味しかった」の数は計り知れない量となる。いや、別に面白おかしいとかそういうつもりではなく、普通に同感なのである。
「まあでもあれだな。日向お前また太るな。」
「別にいいんじゃないかな…修学旅行くらい…!」
3日後、案の定体重が増えていたのはまた別のお話。
この目にしたのは特徴的な赤い屋根だった。しかし、肝心なことを忘れていたのである。そんなことを、目の前に佇む地元料理の老舗を傍観しながら考えていた。
「まあ首里城こんなに低いわけないよな。」
斗真の苦笑はまだ余裕があるようで、この後も目的地へ辿り着く体力を備えていると簡単に感じて取れた。
しかし、だ。年老いた店主らしき人物の両手に掲げられたトレイの上に居座っているものは紛れもなく海鮮丼だった。その輝かしい海の幸へ吸い込まれるよう、勝手に始まった班内会議の末に『8』と書かれたテーブルを囲んでいた。
写真等貼り付けられずに文字だけの羅列で作られたメニュー表を手に取り、その素材となる紙の触感が右手を伝う。上段の3番目に記された「究極海鮮丼 500」の文字を見て、先ほど目にしたものはこれだと脳が教えている。
ていうか、これ以外に海鮮丼のメニューは無かったという理由なのだが。
「500…?あのボリュームの割に安くね?」
確かに求められるなら四桁へ簡単に突入しそうな盛り付けであった。学生に優しいお値段である。
「おじさーん!『究極海鮮丼』四つお願いしまーす!」
先走り勝手に注文をした紫苑さんであったが、誰一人として異論は出なかった。ノープランで始まったときは、腹の虫が活動を始める時間帯に森の中とかに居たらどうしようとか考えていたので安堵である。
食事が来るまでの間を談笑で繋ぎ止めていた最中、外を歩く我が校の生徒が目に映った。8番テーブルは店の中央あたりなので、声はかろうじて拾うことができた。
「みろよ月見がハーレム気付いてるぞ。」
「うっわ羨ま…いや、まあそうか。結局運動できて顔がいいやつだけがああ成れるんだよな…」
一瞬本音を押さえ込んだかと思ったが、やっぱり本音臭いことが出ている男子生徒はものすごくわかりやすい妬みの表情をしている。お前らも男女比2:2だろと言ってやりたいところだが、やはり他から見ればそうなのだろうと一人で悲しくなる。
「寧ろこの中でハーレムしてるのは日向ちゃんなのにね。夏休み最終日とか…」
ここで御影ちゃんによる巨大ボディブロー級爆弾発言と斗真が必死に笑いを堪えながら送る視線に殺されてしまう。
「日向ちゃん案外押しに弱かったやつねー」
もう黙ってくれないか君達。
このメンバーが絡みだすにつれて増えていく黒歴史で済みそうにない出来事は、概念を超越して八雲日向の精神を抉るのに最適な形をしているのではないかと思う程までに至る。
「あいっ、『究極海鮮丼』四つね。」
しばらくして、店主っぽい人が両手に二杯ずつ器を持ちテーブルにやってきた。盛られたその器には驚かされるばかりであった。
圧倒的な量は勿論、盛られた海鮮の色や質までが某100円均一回転寿司チェーン店が泣いて逃げ出すレベルのものであった。だってこれで500円だもん。
高級だと偏見を持っていた食材も贅沢に使用されており、これで500円。うん。本当にお得の一言に尽きる。
四人で声を上げ、両手を合わせた後には誰もが「美味しい」と口にして箸を止めることは無かった。あっという間に醤油の染みた米粒が数粒残された器がそこに四つ、綺麗に並んでいたのだった。
「いやー、最高だねここ。すっごい美味しかったよー!」
今日この後、紫苑さんの口から出る「美味しかった」の数は計り知れない量となる。いや、別に面白おかしいとかそういうつもりではなく、普通に同感なのである。
「まあでもあれだな。日向お前また太るな。」
「別にいいんじゃないかな…修学旅行くらい…!」
3日後、案の定体重が増えていたのはまた別のお話。
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作者ツイッター: twitter/minori_sui
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