追放公爵ベリアルさんの偉大なる悪魔料理〜同胞喰らいの逆襲無双劇〜

軍艦あびす

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第2部

第3話 司令官

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 一室にて、挽いた珈琲を一口と進める昼下がり。獄の中では、人間界と違って昼夜や四季があるわけでもないが、ちょうど人間界では昼下がりなのだろう。
 ルシファーより与えられた命令へ従い、己の持つ能力でサマエルについての詮索を試みる。だが、何故だろうか。全くと言っていいほど情報が手に入らないのだ。
 今までこのような事は無かったのだが、唐突に消えてしまったサマエルの所在を示す印がありとあらゆる世界を巡って定まらない。
「ったくどこ行きやがったんだアイツ……」
 ここ二日程度を費やしているというのに、何一つとして進展しない状況には我ながら呆れる。ありとあらゆる事柄を調べられるのならば、簡単に手に入るべき情報なのだ。
 目を閉じて、ため息を吐いて身体を大きく伸ばす。少しはリラックスも必要だなと思うほどまでに詰め込んだスケジュールで働いていたのだ。
 そして、目を開いてもう一度眼前の景色に視線を向ける。この時点で既に、あまり生きた心地はしなかったが。
「呼んだ?」
「呼んではねえけど色々聞きたい事はあるな」
 その言葉には、表情を引き攣らせてそう返すしか無かったのだ。己の首筋に構えられた刃物の類が、たとえ何であろうと、この男の手に握られている時点で己の命を刈り取るのに充分となるからだ。
「サマエル、お前最近何してた?つか何しに来た?」
「ちょっと調べて欲しいもんあってね」
「俺は百科事典か」
「そんなに変わらねえだろ」
 意味不明の会話にも、無駄に消費されたであろう血の匂いがする。この男から香るそれは慣れてしまっているものだが、心地よいものかと言われればそんなわけも無いだろう。
「で、何を調べて欲しいって?」
「随分と素直だな」
 それは、己がサマエルに対抗する術を持たないという点からだ。勿論内容次第では拒否して抵抗をするだろうが、今は従ってやるのが楽でいいだろう。
「俺が聞きたいのは二つ。『堕天使の詳細』と『天国への行き方』だ」
「はぁ……?」
 こいつは、何を言っているのだろうか。聞き慣れない単語を、詳しく知るために能力を駆使してその有象無象に検索をかけた。
「……馬鹿か、お前は。どれも人間が描いたフィクションじゃないか」
 調べてみた限り、二つの単語のどちらも人間が書いた空想上の存在に過ぎないのだ。存在しないものを実現させる方法だろうか、それを彼は問うているというのだ。
「やっぱそうだよな。じゃ、人間が書いた悪魔学ってのはどうだ」
「悪魔学……」
 その単語を、詳しく調べる。どうやら、我々悪魔の詳細を隅から隅まで記した書物のようだ。
「これがどうしたってんだ?」
「奥付をよく見な」
 奥付は、書籍の巻末に位置する、著者や発行日の記された欄だ。その欄を順に辿ると、思考の中にとある矛盾が生まれた。
「……何故だ⁉︎」
「気付いたか」
 その詳細として記されていた、悪魔学に最も適していると思わしき書籍の発行日。第一版の発行された年は、人間界における年換算で約四百年前のものだった。
「獄と人間界を繋ぐゲートが発生したのは約十年前。これが書かれた時代に俺らは人間なんてものを知らなかったが、何故かこいつらは俺らのことを知ってんだ」
 圧倒的な理解不能に、いつも旺盛に現れる好奇心よりも畏怖が勝利したらしい。人間が、我々の理解できない方法を用いているというのだ。無理はない。
「単なる創作物ってならまだ分かる。だが全ての悪魔が細かく記されていて、それが全部事実だ」
「過去に一度、俺らは人間界と繋がっていたのか……いや、或いは……」
 或いは、と。この時脳裏に浮かんだ論はしっかりと形を成していたが、なによりも、我々がそれを認めて仕舞えば存在が不確定になってしまうのだ。
「まぁ、そういう事だな。俺らが知らねえ所で人間だけが知ってる事が起きてたんだ。それに、お前が調べても分かんねえだろ」
 確かに、これを論として不確定なまま放置しているというのは、己の能力が行き届いていないという事なのだ。
 これはなんでも知る事が出来る能力だが、その答えの所在があやふやになればなるほど答えの発見に時間がかかる。それが何日何年を要するのかは分からないが、すぐに辿り着ける答えではない事は確かだ。
「……お前も、考える時間いるだろ。また来るぜ」
「一応この件は支配者まで報告しておくぞ」
「勝手にしろよ」
 今まで漂わせていた血の香りをより一層ばら撒き、この一角に存在していた珈琲の香りを完全に打ち消す。残念な空気が、その場に立ち込めていた。
「そういえば……お前、なんで急に俺の能力に掛からなくなった?」
 ふと、疑問に思っていた事柄を問う。完全に帰宅の体制を取るサマエルは振り向き、微笑をこぼしていた。
「俺は強い力を無効化できるが、弱い力に体制を持たない。DRとの戦いで、支配者と六柱が人間との共生を選んだことによって、お前らの勢力が強くなったから無効化されたんだろ」
 
 
 太陽は傾き、冬の日周運動では既に沈みかけているらしい。時計の短針は、五と六の間で動いていた。
 ご機嫌な鼻歌を溢しながら、ビニール袋を右手に下げて公園を歩く。やはりこの時間帯ともなれば、少しずつ人の影も少なくなるばかりだ。
「……ん?」
 歩く道の先に、併設された木製のベンチ。そこに座る姿は、懐かしくもあまり記憶にすら無い男だ。
「よぉ。久しいなぁマモン」
「これはこれは、サマエルじゃん」
 サマエルは、立ち上がってこちらを向く。かつてと変わらぬ粗暴な顔立ちと言葉で、微笑を溢していた。
「……なぁ、マモン。俺と一緒に天国へ行く気はないか」
 突然、サマエルの口から発せられた言葉。それが何を意味するのかは分からないが、胡散臭い商売に似た何かを感じさせるのは明白だった。
「天国?一緒に心中しようってか」
「違う。お前は……そうだな、まず概要を知った方が良さそうだ」
「んー?聞いてやるけどあんま長い話すんなよ、常温保存が長引くと味が悪くなるからよ」
 ビニール袋を持ち上げ、サマエルへアピールする。今日は、限定のアイスクリームを購入した故に早く帰らなくてはならない。冬に食べるアイスクリームが美味いと聞いたので、楽しみにしているのだ。
 サマエルは、息を吐いて変わらぬ表情を向ける。寒さの季節に見合うよう、口から白い煙を出して語った。
「知ってるか?俺らは『堕天使』って言うらしいぜ」
「はぁ?」
「詳しいことはアガリアレプトに調べさせてるが、人間が記した通りならば俺たちはそう呼ばれているらしい。死した偽善者に塗れた世界で、神に叛逆した存在が俺たちだ」
 何を言っているのか、よく分からなかった。これは理解力とかそういう問題ではなく、彼自身が持つ持論で作られた代物だからだ。下らないと笑い飛ばす以外の選択肢があるだろうか。
「んー、やだ。俺は毎日昼寝して甘いもん食って帰るのに満足してっから」
 
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