追放公爵ベリアルさんの偉大なる悪魔料理〜同胞喰らいの逆襲無双劇〜

軍艦あびす

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第2部

第4話 神の悪意

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「だいたいなんだよ、天国って。お前は今に満足してねえのか」
 マモンは問う。サマエルの表情が歪むのに対し、こちら側は袋の中身を気にするばかりだ。早く終わらせたいというのに、妙な好奇心が質問を繰り出したのだった。
「……いや、少し興味が湧いただけだよ。しかしお前が拒否の姿勢を見せたというのは……あれだな」
 瞬発的な行動にて姿勢を低くして、己の視界下半分にその姿を収める。懐に入り込み、攻撃に移すつもりだろうか。
「さっさと終われって言ったじゃねえか‼︎何しやがんだアイス溶けんだろ⁉︎」
「強欲ならば乗る話だと思ったんだが……本当に残念だ」
 サマエルの拳が腹部を掠める。仰反って攻撃から逃れるも、すぐにもう片方の腕から放たれるストレートがめり込むだろう。
「これやってたせいでアイス溶けてたらテメェのせいだからな……‼︎」
「それじゃあ、お前も同じようにしてやろうか?」
 案の定放たれるもう一撃。事前に予測を組んでおいたおかげで、なんとなくの形ながらもその拳が掠める事はなかった。
 両手を軸にして、アクロバットの容量で後ろへ飛び間合いを取る。その中途にてビニール袋を地に置き、そのまま蹴飛ばして戦線を離脱させた。
「そんなに俺と一緒に天国へ行きてえのか?」
「別に、堕天使なら誰でも構わないんだ。お前が近くを通りがかるもんだからよ」
 サマエルは、餌に飢えた四足獣を彷彿とさせるフォームをとる。大きく開いた瞳孔が、闇夜になりかけたこの場を制する一つの道標のようだった。
「だったら俺らはなんで戦ってんだよ。限定品のアイスでウッキウキのテンションぶち壊しやがって」
 己の強欲に従い、ただ欲するものを得て満たされた欲望。それらを一瞬にて破壊するには、この現状で充分らしい。
「アガリアレプトですら従ったというのに、お前が反抗するとは思わなかった。だから少しイラッと」
「めんどくせえな。お前モテなさそう」
 先程と変わらぬ、俊敏な動きですぐに直撃の位置まで近づいている。今はまだ対処出来るとしても、いつかは体力と共に衰えてしまうであろう感覚に頼っている現状はあまり優勢とはいえないだろう。
「それに、人間と友好な関係を持つ奴なら尚更だ」
「もうなにこいつ……めんどくせえ……」
 一直線に顎を狙うサマエルの拳に、右脚をかけて軌道を変える。揺らいだその姿をしっかりと捉えたのち、顔面の横側を下から掠めた腕を掴んでサマエルを引き寄せる。そして、己の腹部から針を錬成し、サマエルの胴体を串刺しに。
 そう出来れば有効打になっただろうが、残念な事にこの攻撃は不発となる。なので、針は仕舞い込んで膝を使う事にした。
「そろそろ終わろうぜ。アイス溶けるわ」
 完全にクリーンヒットするであろう。そんな一撃となる力を込めて、宙に浮いていたサマエルの腹部へと膝を突き上げた。
 サマエルの口から、最早何なのかわからない液体が飛び出す。だが、この程度でどうにかなるような相手ではないというのもしっかり理解はしている。
「もういいよな、俺帰っても」
「良いわけあるか。しっかり死にやがれ」
 そう言って笑う表情に、悪寒が走る。何か違和感があったのだろうか。ただ、それを感じ取るのに最適な能力が備わっているのは、眼球なのだろう。
 唯一放置されていた方向の腕は、体勢的に扱えるものではないと思っていた。だが、肝心な事を忘れていたのだ。
 サマエルの姿が基盤として持つものは、この人間体ではない。鮮血に塗れた、紅の蛇だ。
 表情の左側から、血管が膨れ上がる。破裂しそうなそれは血液で満たされているらしく、ドクトクと音を響かせながら変化を始めていた。
「おい食欲失せるじゃねえか」
 この言葉は、多分負け惜しみだ。何も成せないまま終わるであろうこれからに、未練を込めてなのだろう。
 予想した通り、首を動かして確認する間も無く首へと何かが巻きつく。強烈な痛みを生み出し、喉を破壊せんとばかりする赤いそれは、サマエルの腕から伸びていた。
「最後の晩餐はなんだったか、しっかり思い出してから死ねよ」
 よく考えてみれば、強欲といえども殆どの欲望が食欲で構成されていたと思う。別に腹が減っているわけでもないので暴食とは違うだろうが、ただ美味いものを食べたいという強欲に従っていただけなのだろう。
 ゆっくりと、視界が狭くなる。暮れた空と視界の端は、既に狭間を確認するのも不可能らしい。
 顔面に何かが飛び散る感覚を最後に、完全な闇が己の眼を支配した。
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