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第2部
第5話 輝く者
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「……相変わらず空気読めねえのな」
地に伏すマモンを完全に放置して、最早何が表している赤なのか分からない蛇を元の形へと戻す。張り裂けた部位から弾けた血液が、辺り一面を支配していた。
「アガリアレプトからの報告があった。ベルゼブルが築いている関係を壊すような問題は、獄の中でやってほしいな」
人気のない公園は、何本も並んだ木々が大きな影を作り出している。それらに付着して闇と同化した血液が、鉄の匂いを漂わせていた。
「人間と共生ねぇ。俺は出来るとは思わねえけどな」
「お前のような存在が居るからな。消して仕舞えばこちらも楽だが」
「俺も無謀な戦いするほど阿呆じゃねえよ、ルシファーさん」
三代支配者序列一位のルシファー自らが降り立ち、政策の妨げとなる存在へと攻撃を繰り出した。結果として、未だマモンの命は散らず残っているという。
「詳細は聞いたが……お前は何がしたい?」
「……ルシファー、お前も堕天使らしいな。俺も、ベルゼブルもアスタロトも」
人間が創作した悪魔学とやらに記されていた、堕天使という存在。ならば天使という者がいなければおかしいではないかという話だが、あまりに不可解な点は多く残るのだ。
「質問を変えようか。お前は天国へ行って、何がしたいんだ?」
サマエルは、血まみれの腕を庇うように。だが、痛がる様子は微塵も見せずに語る。
「堕天使ってのは、神に逆らって地に落とされた存在。天国は、死んだ良い奴らが集まる場所。だったら元は俺らも天使って訳だ」
そのままサマエルは、ため息の後に、口の両端を引き攣らせて高笑いを響かせる。そしてそのまま、綺麗な掌と血まみれの掌で顔面を覆った。
「最悪じゃねえか。死んだ後に楽してえとかいう腐った理由で、生きてる間に自分のしたいこともせず偽善を尽くしたクソ野郎が俺の生前なんて」
顔の半分を赤く染め、未だ浮き上がる血管をよそに笑い続ける男。彼にとっての最悪とは、どうやらこの脳では理解に至らないらしい。
「だから俺は、天使なんていう奴らに会って言ってやりてえんだ。『偽善の塊で神様気取ったクソが見下してんじゃねえ』って」
下らない。叛逆分子を増やす為にマモンを勧誘し、断られたら即殺害に出るといったイカれた思考が企てる一連の答えは、本当に下らないの一言に尽きるのだった。
「……関係のない悪魔を巻き込むな。そんなもの、お前一人でやるんだな」
どうせ、天使だなんだとそういうものは存在しないと踏んで、行動は許可した。まあ、コイツが素直に従うわけも無いという理由もあるのだが、これ以上サマエルによる殺害が人間界の街中で起きようものなら、ベルゼブルの努力も一瞬にして崩れ去るだろう。
「……お前の言うことは出来るだけ聞いてやるよ。ただしお前も俺の邪魔すんな」
「出来るだけ……か」
「キッチリ従うほどお人好しじゃねえ。つーかそう思うなら根本から却下してんだろ」
そう残して、サマエルは闇へと姿を眩ませる。とりあえず、マモンと飛び散った血をなんとかしなければならないなと、解決法を探した。
唐突に、ノックの音が響く。闇に呑まれた夏の夜空が写る時間というのも、既に八時を回った辺りだろうか。こんな時間に訪ねてくるというのも珍しく、戸の前に立つ人物が誰なのかはわからなかった。唯一3課に入り浸っている奴は、今頃甘いものを頬張りながら鼻歌でも奏でているのだろうと考えられるからだ。
「トウヤ、出てくれ」
「はーい」
隊長が、なんだかよくわからない書類を次々に片付けながらこちらに言葉を飛ばす。現在位置的に扉に一番近いのは、自身だった。
「どなたですかー……⁉︎」
軋む扉の、錆びかけた鉄のドアノブを回転させて外の景色を確認する。そこには、とある男が大きなものを抱えて立っていたのだった。
「お届けものですよっと……」
男は、背に抱えていた物体をそのままに3課の扉を潜る。蛍光灯に照らされたことによって、彼の抱えていたものが一体なんなのかを知ることになった。
「なっ……マモン⁉︎」
「安静にしてやってくれ。恐らく死ぬことは無いだろうが、すぐに復帰することは無理だろう」
男は、ぐったりとしたまま一向に動こうとしないマモンをその地に下ろして横にした。詳細の掴めない現実に、また何か面倒なことが起こりそうな予感を察知した。
「貴様っ……マモンに何をした⁉︎」
蓮磨が、大きな音を立てて椅子を転がしこちらへ詰め寄る。男の襟を掴み、引き寄せて問い詰めた。
「俺は連れてきてやっただけだが……お前らにも関わるかもしれない事だ。しっかりと伝えるべきだろうな」
男は、蓮磨の手を払い立ち上がる。視線は、いつも通り机の下でなんらかを貪る小さな身体を向いていた。
「おいベリアル、お前またなんか食ってるだろ」
「あぁ?別に構わねえだろオレ様が何食おうが……っていうかなんで居るんだよルシファー」
何を食っているのか。という疑問も、瞬時に消し飛ぶような単語がベリアルの口から発せられる。その名は獄の三代支配者に属するうち一人であり、その中でも最高の地位を持つ存在。明けの明星との名を冠する、そんな存在だ。
「なっ……なんでそんな悪魔がこんなとこに……?」
浦矢の、蚊の鳴くような声が届いた。ベリアルと出会った日の監視でここに泊まり込んだ際に一度聞いた、彼女の寝言とそんなに変わらない声量だ。
ちなみに山藁さんは、好奇心に従うまま興奮した感じの雰囲気を醸し出していた。
「現在、とある輩が情勢を乱して回っている。奴の目的自体がそれではないと言えど、ベルゼブルや6柱が組んでいる人間との関係を崩しかねない一件だ」
「そいつに、マモンがやられたと?」
「まぁ、そうだな」
マモンは、七つの大罪うち一つの『強欲』を司る悪魔である。序列で見れば、かなりの上位に居たはずの彼が意識を失うほどの重体を負っているというのだ。
「あのマモンさんが負けるくらいの悪魔……」
先程とは変わり、しっかりと聞き取ることのできる浦矢の声。彼女がマモンと友好な関係を持っているという感覚がそれなりに謎だが、確かにそのような存在は脅威でなんら変わりないと捉えられる。
「奴の名はサマエル。本人に聞いたところ、天国とやらを見つけてそこに行きたいらしい。それに同意する堕天使を集め、叛逆軍でも作るつもりだろう」
「天国……?」
そんなものがある筈はない。と、過去の己ならば笑い飛ばしていただろうか。だが、こんな奴らがいる世界というのもあってか、仮に存在していたとても不思議ではない。
「どうやら人間が過去に書いた悪魔学とやらには、堕天使なるものが示されていたらしい。それに該当されるのがサマエル含め俺たちってわけだ」
「なんだよそれ。オレ様らは悪魔だろ」
DRに入る際に、それなりの知識はつける勉強をしたので理解はできる。堕天使というのは、かつて天使だった存在が神に叛逆して地に落ちた存在であると。
「あれ……お前ら、堕天使の自覚無いの?」
「あぁ、全くと言っていいほどな。だが、それを突き止めていく過程でとある疑問に衝突したわけなんだが」
疑問というのは、これだけの話では無限に溢れるだろう。いったい何の話をしているのかは分からない。
だが、とりあえずベリアルが食べていたものが先日の鍋パーティーで使われた晩酌の余り物であるスルメイカだということは分かった。全く関係ない上に必要もない情報が、脳に現れてしまった。
「悪魔学というものが記された書の奥付には、今から約四百年前の日付が書かれていた。獄と人間界が繋がったのが約十年前というのに、おかしい話じゃないか?」
ルシファーが語る通り、確かに悪魔学が発達していたのは十六世紀や十七世紀だ。それに記された通りの悪魔が現代になって姿を表して、能力や姿、名前などが完全に一致しているというのもおかしな話である。
「……これが書かれた頃に、獄と人間界の交流は無かったのか?」
「そもそも、他の世界と繋がっていたというのは今回が初耳だな。どこかでひっそりと起こっていたのかもしれないが、この頃に記された悪魔本人に聞いてみても誰も知らないと言うんだ。もちろん俺も、何百年と前に人間と出会った覚えはない」
ここにきて、大きな疑問が現れてしまった。当然四百年も前の人物が生きている筈もないので、著者本人に問うということもできないだろう。全種の詳細が一致というのも、偶然なんて言葉で片付けられる筈もない。
「話が長くなったな。今日俺が伝えたかったのは、ベリアルにも警戒してほしいという事だ」
「あ?なんでオレ様が」
「お前も堕天使ってやつらしいからな」
「あーどうしよっかな、どうしよっかなぁ」
夜景は美しい。と、そんな概念を持ち合わせている人間は多いだろう。だが考えてみれば、巨額の金を動かして人を束縛する社会が生み出した光だ。
人々が汗水を流し、社会に尽くす。日が暮れた後も、身を削る努力を行なっている。そんなものを美しいなどと宣える者は、精一杯を尽くして育った雑草を見ても同じことを言うのだろうか。
無論、自身はそんな事を思える筈もない。だからこそ、嘲笑の対象と見做すことが出来るのだ。
「ルシファーに目ぇつけられてんなら下手なこと出来ねえし……何が得策なんだよ」
美しいと感じることができない、むしろ汚らしいとまで感じる夜景を見下ろして思考をフル回転させる。己が天使や天国といった知識を持たないとすれば、他の堕天使も何一つの記憶を持たないだろう。いったい、何をすれば求めるものに辿り着くことが出来るのだろうか。
「あ、そうか。分からねえなら自ら調べに行けばいいのか?でも、ルキフグ関わると絶対めんどくせえからなぁ……」
ふと思いついた手段というのも、かなり面倒な要素をしっかりと残している。だが、現状で決定打になるものはそれ以外見当たらないのだ。
「よしっ、じゃあ行くか」
見下ろしていた夜景に向けて、ここらで一番大きなタワーの最上より飛び出して自由落下する。人間と悪魔が共存するなどという理想を並べただけの街へ向けて、己の身を重力に任せた。
地に伏すマモンを完全に放置して、最早何が表している赤なのか分からない蛇を元の形へと戻す。張り裂けた部位から弾けた血液が、辺り一面を支配していた。
「アガリアレプトからの報告があった。ベルゼブルが築いている関係を壊すような問題は、獄の中でやってほしいな」
人気のない公園は、何本も並んだ木々が大きな影を作り出している。それらに付着して闇と同化した血液が、鉄の匂いを漂わせていた。
「人間と共生ねぇ。俺は出来るとは思わねえけどな」
「お前のような存在が居るからな。消して仕舞えばこちらも楽だが」
「俺も無謀な戦いするほど阿呆じゃねえよ、ルシファーさん」
三代支配者序列一位のルシファー自らが降り立ち、政策の妨げとなる存在へと攻撃を繰り出した。結果として、未だマモンの命は散らず残っているという。
「詳細は聞いたが……お前は何がしたい?」
「……ルシファー、お前も堕天使らしいな。俺も、ベルゼブルもアスタロトも」
人間が創作した悪魔学とやらに記されていた、堕天使という存在。ならば天使という者がいなければおかしいではないかという話だが、あまりに不可解な点は多く残るのだ。
「質問を変えようか。お前は天国へ行って、何がしたいんだ?」
サマエルは、血まみれの腕を庇うように。だが、痛がる様子は微塵も見せずに語る。
「堕天使ってのは、神に逆らって地に落とされた存在。天国は、死んだ良い奴らが集まる場所。だったら元は俺らも天使って訳だ」
そのままサマエルは、ため息の後に、口の両端を引き攣らせて高笑いを響かせる。そしてそのまま、綺麗な掌と血まみれの掌で顔面を覆った。
「最悪じゃねえか。死んだ後に楽してえとかいう腐った理由で、生きてる間に自分のしたいこともせず偽善を尽くしたクソ野郎が俺の生前なんて」
顔の半分を赤く染め、未だ浮き上がる血管をよそに笑い続ける男。彼にとっての最悪とは、どうやらこの脳では理解に至らないらしい。
「だから俺は、天使なんていう奴らに会って言ってやりてえんだ。『偽善の塊で神様気取ったクソが見下してんじゃねえ』って」
下らない。叛逆分子を増やす為にマモンを勧誘し、断られたら即殺害に出るといったイカれた思考が企てる一連の答えは、本当に下らないの一言に尽きるのだった。
「……関係のない悪魔を巻き込むな。そんなもの、お前一人でやるんだな」
どうせ、天使だなんだとそういうものは存在しないと踏んで、行動は許可した。まあ、コイツが素直に従うわけも無いという理由もあるのだが、これ以上サマエルによる殺害が人間界の街中で起きようものなら、ベルゼブルの努力も一瞬にして崩れ去るだろう。
「……お前の言うことは出来るだけ聞いてやるよ。ただしお前も俺の邪魔すんな」
「出来るだけ……か」
「キッチリ従うほどお人好しじゃねえ。つーかそう思うなら根本から却下してんだろ」
そう残して、サマエルは闇へと姿を眩ませる。とりあえず、マモンと飛び散った血をなんとかしなければならないなと、解決法を探した。
唐突に、ノックの音が響く。闇に呑まれた夏の夜空が写る時間というのも、既に八時を回った辺りだろうか。こんな時間に訪ねてくるというのも珍しく、戸の前に立つ人物が誰なのかはわからなかった。唯一3課に入り浸っている奴は、今頃甘いものを頬張りながら鼻歌でも奏でているのだろうと考えられるからだ。
「トウヤ、出てくれ」
「はーい」
隊長が、なんだかよくわからない書類を次々に片付けながらこちらに言葉を飛ばす。現在位置的に扉に一番近いのは、自身だった。
「どなたですかー……⁉︎」
軋む扉の、錆びかけた鉄のドアノブを回転させて外の景色を確認する。そこには、とある男が大きなものを抱えて立っていたのだった。
「お届けものですよっと……」
男は、背に抱えていた物体をそのままに3課の扉を潜る。蛍光灯に照らされたことによって、彼の抱えていたものが一体なんなのかを知ることになった。
「なっ……マモン⁉︎」
「安静にしてやってくれ。恐らく死ぬことは無いだろうが、すぐに復帰することは無理だろう」
男は、ぐったりとしたまま一向に動こうとしないマモンをその地に下ろして横にした。詳細の掴めない現実に、また何か面倒なことが起こりそうな予感を察知した。
「貴様っ……マモンに何をした⁉︎」
蓮磨が、大きな音を立てて椅子を転がしこちらへ詰め寄る。男の襟を掴み、引き寄せて問い詰めた。
「俺は連れてきてやっただけだが……お前らにも関わるかもしれない事だ。しっかりと伝えるべきだろうな」
男は、蓮磨の手を払い立ち上がる。視線は、いつも通り机の下でなんらかを貪る小さな身体を向いていた。
「おいベリアル、お前またなんか食ってるだろ」
「あぁ?別に構わねえだろオレ様が何食おうが……っていうかなんで居るんだよルシファー」
何を食っているのか。という疑問も、瞬時に消し飛ぶような単語がベリアルの口から発せられる。その名は獄の三代支配者に属するうち一人であり、その中でも最高の地位を持つ存在。明けの明星との名を冠する、そんな存在だ。
「なっ……なんでそんな悪魔がこんなとこに……?」
浦矢の、蚊の鳴くような声が届いた。ベリアルと出会った日の監視でここに泊まり込んだ際に一度聞いた、彼女の寝言とそんなに変わらない声量だ。
ちなみに山藁さんは、好奇心に従うまま興奮した感じの雰囲気を醸し出していた。
「現在、とある輩が情勢を乱して回っている。奴の目的自体がそれではないと言えど、ベルゼブルや6柱が組んでいる人間との関係を崩しかねない一件だ」
「そいつに、マモンがやられたと?」
「まぁ、そうだな」
マモンは、七つの大罪うち一つの『強欲』を司る悪魔である。序列で見れば、かなりの上位に居たはずの彼が意識を失うほどの重体を負っているというのだ。
「あのマモンさんが負けるくらいの悪魔……」
先程とは変わり、しっかりと聞き取ることのできる浦矢の声。彼女がマモンと友好な関係を持っているという感覚がそれなりに謎だが、確かにそのような存在は脅威でなんら変わりないと捉えられる。
「奴の名はサマエル。本人に聞いたところ、天国とやらを見つけてそこに行きたいらしい。それに同意する堕天使を集め、叛逆軍でも作るつもりだろう」
「天国……?」
そんなものがある筈はない。と、過去の己ならば笑い飛ばしていただろうか。だが、こんな奴らがいる世界というのもあってか、仮に存在していたとても不思議ではない。
「どうやら人間が過去に書いた悪魔学とやらには、堕天使なるものが示されていたらしい。それに該当されるのがサマエル含め俺たちってわけだ」
「なんだよそれ。オレ様らは悪魔だろ」
DRに入る際に、それなりの知識はつける勉強をしたので理解はできる。堕天使というのは、かつて天使だった存在が神に叛逆して地に落ちた存在であると。
「あれ……お前ら、堕天使の自覚無いの?」
「あぁ、全くと言っていいほどな。だが、それを突き止めていく過程でとある疑問に衝突したわけなんだが」
疑問というのは、これだけの話では無限に溢れるだろう。いったい何の話をしているのかは分からない。
だが、とりあえずベリアルが食べていたものが先日の鍋パーティーで使われた晩酌の余り物であるスルメイカだということは分かった。全く関係ない上に必要もない情報が、脳に現れてしまった。
「悪魔学というものが記された書の奥付には、今から約四百年前の日付が書かれていた。獄と人間界が繋がったのが約十年前というのに、おかしい話じゃないか?」
ルシファーが語る通り、確かに悪魔学が発達していたのは十六世紀や十七世紀だ。それに記された通りの悪魔が現代になって姿を表して、能力や姿、名前などが完全に一致しているというのもおかしな話である。
「……これが書かれた頃に、獄と人間界の交流は無かったのか?」
「そもそも、他の世界と繋がっていたというのは今回が初耳だな。どこかでひっそりと起こっていたのかもしれないが、この頃に記された悪魔本人に聞いてみても誰も知らないと言うんだ。もちろん俺も、何百年と前に人間と出会った覚えはない」
ここにきて、大きな疑問が現れてしまった。当然四百年も前の人物が生きている筈もないので、著者本人に問うということもできないだろう。全種の詳細が一致というのも、偶然なんて言葉で片付けられる筈もない。
「話が長くなったな。今日俺が伝えたかったのは、ベリアルにも警戒してほしいという事だ」
「あ?なんでオレ様が」
「お前も堕天使ってやつらしいからな」
「あーどうしよっかな、どうしよっかなぁ」
夜景は美しい。と、そんな概念を持ち合わせている人間は多いだろう。だが考えてみれば、巨額の金を動かして人を束縛する社会が生み出した光だ。
人々が汗水を流し、社会に尽くす。日が暮れた後も、身を削る努力を行なっている。そんなものを美しいなどと宣える者は、精一杯を尽くして育った雑草を見ても同じことを言うのだろうか。
無論、自身はそんな事を思える筈もない。だからこそ、嘲笑の対象と見做すことが出来るのだ。
「ルシファーに目ぇつけられてんなら下手なこと出来ねえし……何が得策なんだよ」
美しいと感じることができない、むしろ汚らしいとまで感じる夜景を見下ろして思考をフル回転させる。己が天使や天国といった知識を持たないとすれば、他の堕天使も何一つの記憶を持たないだろう。いったい、何をすれば求めるものに辿り着くことが出来るのだろうか。
「あ、そうか。分からねえなら自ら調べに行けばいいのか?でも、ルキフグ関わると絶対めんどくせえからなぁ……」
ふと思いついた手段というのも、かなり面倒な要素をしっかりと残している。だが、現状で決定打になるものはそれ以外見当たらないのだ。
「よしっ、じゃあ行くか」
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