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第2部
第8話 ひとつの可能性
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飯の為ならなんでも出来る。そんな言葉を残したベリアルは、顎への打撃を受けたサマエルを続け様に殴打して繰り返す。
どうやら、久しいのもあってか段々と慣れていくイメージだ。少しずつだが、威力が大きくなっている気がする。
「どーしたお前こんな弱くねえだろ、なぁ」
多くの傷を残したサマエルは息を荒くさせて、その場に佇む。所々から血液が見えていたが、全く気にしてはいない様だった。
「制御してんだ。テメェくらいなら殺せっけど、今はルシファーに抑制されてる。悲しいかな弱肉強食には逆らえねえんだよ」
「んなボロッボロの奴に言われても納得できねえよ」
確かに、負け惜しみとしか取れないくらいに言葉と姿が反比例していた。ベリアルの優勢に進んでいたこの戦闘も、その言葉に納得を委ねられるものではない。
「別に悪魔殺そうが何だろうが困らねえんだろ。だが、人間と環境に危害が入ったら俺がルシファーに殺されんだ」
一瞬納得しそうになったが、先程思いきり破壊された建造物の姿を思い出してからは、何が正しいのか分からなくなった。恐らくサマエルの中にある基準があるのだろうが、今回は人間である自身がベリアルの中にあるというのが理由だろうか。
「けどな、大人しくやられてやるほどお人好しじゃあねえよ。んなことテメェも分かってんだろ」
崩れた瓦礫の真ん中ではあったのものの、しっかりと建造物は四方八方に立ち並んでいる。サマエルがベリアルを殺せないという事柄を踏まえた上でこの場にいるという事。それが仇となってしまったのは言うまでもない。
飛び上がったサマエルは左腕を鮮血の色に染め、リーチを伸ばした腕を振るう。飛び上がった際の土煙で視界を奪われていた為、単なる攻撃と捉えてしまったのだ。
無論、サマエルの狙いは建造物。あらゆる方向からバランスを失った鉄骨とコンクリートの山が降り注ぐ。それになす術なく、サマエルの逃走を許してしまったのだ。
「あぁ⁉︎何逃げてやがんだあの野郎‼︎」
ベリアル自身はサマエルの意図を理解していないので、当然これ以上も戦闘を続けることと予想していただろう。勿論これにはベリアルの沸点がとんでもないことになるに違いない。
『おい上見ろって‼︎』
「んだトウヤうるせってうぉぉぉぁどぉ⁉︎」
迫る瓦礫に気付く事すらなく、この身は押し潰される。普通に命的な危険は無いだろうが、脱出には暫く時間が掛かりそうだ。当然、サマエルの姿は見失ってしまった。
「さて……それじゃ、働いて貰うぜ」
「何を企んでいる……⁉︎事によっては支配者にまで報告を……」
「うっせぇ。黙ってろ」
とある国道に設けられたトンネル内の非常口付近にて、片手で吊し上げたワニとサマエルが対峙する。ベリアルとの戦線を離脱したサマエルは、逃走途中だったアガレスを捕獲して人目の少ない地点へと飛んでいた。
「素直に従ってくれたら殺さねぇし返してやる。とりあえず重いから人型になれ」
やはり戦力の差というものか。いや、簡単に感じられるそれは威圧だとかそういうものを通り越し、単なる生命の危機と言ったところだ。ルキフグの支配下という立場では、サマエルに対し敵うわけも無い。
「……私は何をすれば良いのだ?」
「話が早くて助かるぜ。それじゃ早速だが……十六世紀まで俺を飛ばせ」
アガレスの能力は、時間軸の移動と言語の知識。時間軸を移動するというのは、容易いものだ。目的の場所はここではないものの、時間軸さえ移動して仕舞えば後はどうにでもなる。
「すぐに用事を終わらせろよ……」
その言葉に続き、瞬間的に景観が変わる。しかし国道のトンネル内から直接飛んだ訳なので、しっかりとその身は土に埋もれた訳だが。
「……帰るぞ。トンネル出てからもう一度だ」
十六世紀の日本。当然山奥なので、人気は少なく整地もされていない森の中である。
十六世紀の日本といえば、種子島に流れ着いた輩によって物騒なものが伝えられたり、桶狭間の戦いで室町幕府が滅んだりした時代だ。当然技術力は微塵も進展しておらず、現代から見れば屑のような歴史の断片でしかない。
まあそんな事はどうでもいいので、目的に向けて動きだす事にした。
「この時代にヨーロッパで使われている言葉の知識を全て教えろ」
「本当に、何に使うつもりだ……?」
「なに、俺らの始まりを調べに行くんだよ」
アガレスを乱雑に掴み、地を蹴って飛び上がった。現代と方角が変わっているわけも無いので、このまま進めば目的地へと辿り着ける筈だ。
「どこ行きやがったクソ蛇ぃぃ‼︎」
「いやだから……逃げられたんだよ。アイツは俺のこと殺せねえからお前も殺せねえんだ」
瓦礫から脱出したのち、ベリアルが建造物を破壊したという濡れ衣を回避するためにその場からそそくさと去り、コンビニの中へと逃げ込んだ。まあこの辺の過疎具合はよく知っているので、そう人が集まるとは思えなかったが一応逃げておいた。家主には申し訳ない限りだ。
「そういやお前、アイツがアガレス拐って何しようとしてるのか分かるって言ってたよな。あれなんなの?」
「あぁ?アガレスが時空移動と全言語の知識持ってんだから、アガレス連れて悪魔学説いた奴に色々聞きに行ったんだろ」
妙に納得のいく答えだった。確かにこの双方が揃えば、答え合わせに最適な手段と言えるだろう。
「まぁオレ様も気になるつったら気になるんだがな。最悪の可能性ってのが本当なら、オレ様達は生きてる意味を見失う」
「最悪の可能性?なんだそれ」
そのような話をしていた記憶は無いが、どこかでベリアルに伝えた人物が居たのだろうか。その可能性があるとすれば、ルシファーになる訳だが。
「簡単に言えば『悪魔が人間の手によって生み出された創作物である』可能性だな。獄とここが繋がる前に人間が持ってた情報が多すぎるんだよ」
その言葉に、固唾を呑む。不意に突きつけられたもしもの話に、何故か恐ろしいものを感じたからだ。
「オレ様たち悪魔は人間と違って何千何万という時を過ごす。だからこそ四百年前なんてつい最近みたいなもんだが、その時に人間界と繋がった記憶は無い。悪魔と人間で、持ってる互いの情報量が違いすぎんだよ」
仮にそうだとして、人間こ創作物をこのように実現できる能力があるならば確実に驚くだろう。
だが、今まで共に過ごした悪魔たち。それも6柱や支配者、マモンにベリアルといった数多くの存在が、誰かの妄想の産物である可能性というものがあまりに恐ろしかった。
「……仮にそうだったら、お前はどうするんだ?」
特に何かできるわけでも無いが、問う。自身がそんな存在であると知らされた日にどんな反応を見せるか、なんとなく簡単に分かってしまったから確かめたくなったのだ。
「何にも変わらねえ。コア食って飯食って……って言いたいとこだが、悪魔全体が人間に屈服するだろうな。プライド云々言ってる場合じゃねえ。作る能力が人間にあるなら、当然消すことも出来るだろうからな」
予想とは少し違った答えだが、確かにそういった考えもあるのだろう。下卑していた存在に作られたなんて発覚すれば、社会情勢は今の状態をそのままひっくり返したようになるだろう。
「……世の中、知らない方が良いこともあるんだな」
「まぁ、一個の可能性の話だ。確定するまでは今まで通りさせてもらうぜ」
そう言ったベリアルは、買い物カゴにささみのパックを詰め込み始める。お財布から千円札がまた一枚旅立ってしまった。
どうやら、久しいのもあってか段々と慣れていくイメージだ。少しずつだが、威力が大きくなっている気がする。
「どーしたお前こんな弱くねえだろ、なぁ」
多くの傷を残したサマエルは息を荒くさせて、その場に佇む。所々から血液が見えていたが、全く気にしてはいない様だった。
「制御してんだ。テメェくらいなら殺せっけど、今はルシファーに抑制されてる。悲しいかな弱肉強食には逆らえねえんだよ」
「んなボロッボロの奴に言われても納得できねえよ」
確かに、負け惜しみとしか取れないくらいに言葉と姿が反比例していた。ベリアルの優勢に進んでいたこの戦闘も、その言葉に納得を委ねられるものではない。
「別に悪魔殺そうが何だろうが困らねえんだろ。だが、人間と環境に危害が入ったら俺がルシファーに殺されんだ」
一瞬納得しそうになったが、先程思いきり破壊された建造物の姿を思い出してからは、何が正しいのか分からなくなった。恐らくサマエルの中にある基準があるのだろうが、今回は人間である自身がベリアルの中にあるというのが理由だろうか。
「けどな、大人しくやられてやるほどお人好しじゃあねえよ。んなことテメェも分かってんだろ」
崩れた瓦礫の真ん中ではあったのものの、しっかりと建造物は四方八方に立ち並んでいる。サマエルがベリアルを殺せないという事柄を踏まえた上でこの場にいるという事。それが仇となってしまったのは言うまでもない。
飛び上がったサマエルは左腕を鮮血の色に染め、リーチを伸ばした腕を振るう。飛び上がった際の土煙で視界を奪われていた為、単なる攻撃と捉えてしまったのだ。
無論、サマエルの狙いは建造物。あらゆる方向からバランスを失った鉄骨とコンクリートの山が降り注ぐ。それになす術なく、サマエルの逃走を許してしまったのだ。
「あぁ⁉︎何逃げてやがんだあの野郎‼︎」
ベリアル自身はサマエルの意図を理解していないので、当然これ以上も戦闘を続けることと予想していただろう。勿論これにはベリアルの沸点がとんでもないことになるに違いない。
『おい上見ろって‼︎』
「んだトウヤうるせってうぉぉぉぁどぉ⁉︎」
迫る瓦礫に気付く事すらなく、この身は押し潰される。普通に命的な危険は無いだろうが、脱出には暫く時間が掛かりそうだ。当然、サマエルの姿は見失ってしまった。
「さて……それじゃ、働いて貰うぜ」
「何を企んでいる……⁉︎事によっては支配者にまで報告を……」
「うっせぇ。黙ってろ」
とある国道に設けられたトンネル内の非常口付近にて、片手で吊し上げたワニとサマエルが対峙する。ベリアルとの戦線を離脱したサマエルは、逃走途中だったアガレスを捕獲して人目の少ない地点へと飛んでいた。
「素直に従ってくれたら殺さねぇし返してやる。とりあえず重いから人型になれ」
やはり戦力の差というものか。いや、簡単に感じられるそれは威圧だとかそういうものを通り越し、単なる生命の危機と言ったところだ。ルキフグの支配下という立場では、サマエルに対し敵うわけも無い。
「……私は何をすれば良いのだ?」
「話が早くて助かるぜ。それじゃ早速だが……十六世紀まで俺を飛ばせ」
アガレスの能力は、時間軸の移動と言語の知識。時間軸を移動するというのは、容易いものだ。目的の場所はここではないものの、時間軸さえ移動して仕舞えば後はどうにでもなる。
「すぐに用事を終わらせろよ……」
その言葉に続き、瞬間的に景観が変わる。しかし国道のトンネル内から直接飛んだ訳なので、しっかりとその身は土に埋もれた訳だが。
「……帰るぞ。トンネル出てからもう一度だ」
十六世紀の日本。当然山奥なので、人気は少なく整地もされていない森の中である。
十六世紀の日本といえば、種子島に流れ着いた輩によって物騒なものが伝えられたり、桶狭間の戦いで室町幕府が滅んだりした時代だ。当然技術力は微塵も進展しておらず、現代から見れば屑のような歴史の断片でしかない。
まあそんな事はどうでもいいので、目的に向けて動きだす事にした。
「この時代にヨーロッパで使われている言葉の知識を全て教えろ」
「本当に、何に使うつもりだ……?」
「なに、俺らの始まりを調べに行くんだよ」
アガレスを乱雑に掴み、地を蹴って飛び上がった。現代と方角が変わっているわけも無いので、このまま進めば目的地へと辿り着ける筈だ。
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「いやだから……逃げられたんだよ。アイツは俺のこと殺せねえからお前も殺せねえんだ」
瓦礫から脱出したのち、ベリアルが建造物を破壊したという濡れ衣を回避するためにその場からそそくさと去り、コンビニの中へと逃げ込んだ。まあこの辺の過疎具合はよく知っているので、そう人が集まるとは思えなかったが一応逃げておいた。家主には申し訳ない限りだ。
「そういやお前、アイツがアガレス拐って何しようとしてるのか分かるって言ってたよな。あれなんなの?」
「あぁ?アガレスが時空移動と全言語の知識持ってんだから、アガレス連れて悪魔学説いた奴に色々聞きに行ったんだろ」
妙に納得のいく答えだった。確かにこの双方が揃えば、答え合わせに最適な手段と言えるだろう。
「まぁオレ様も気になるつったら気になるんだがな。最悪の可能性ってのが本当なら、オレ様達は生きてる意味を見失う」
「最悪の可能性?なんだそれ」
そのような話をしていた記憶は無いが、どこかでベリアルに伝えた人物が居たのだろうか。その可能性があるとすれば、ルシファーになる訳だが。
「簡単に言えば『悪魔が人間の手によって生み出された創作物である』可能性だな。獄とここが繋がる前に人間が持ってた情報が多すぎるんだよ」
その言葉に、固唾を呑む。不意に突きつけられたもしもの話に、何故か恐ろしいものを感じたからだ。
「オレ様たち悪魔は人間と違って何千何万という時を過ごす。だからこそ四百年前なんてつい最近みたいなもんだが、その時に人間界と繋がった記憶は無い。悪魔と人間で、持ってる互いの情報量が違いすぎんだよ」
仮にそうだとして、人間こ創作物をこのように実現できる能力があるならば確実に驚くだろう。
だが、今まで共に過ごした悪魔たち。それも6柱や支配者、マモンにベリアルといった数多くの存在が、誰かの妄想の産物である可能性というものがあまりに恐ろしかった。
「……仮にそうだったら、お前はどうするんだ?」
特に何かできるわけでも無いが、問う。自身がそんな存在であると知らされた日にどんな反応を見せるか、なんとなく簡単に分かってしまったから確かめたくなったのだ。
「何にも変わらねえ。コア食って飯食って……って言いたいとこだが、悪魔全体が人間に屈服するだろうな。プライド云々言ってる場合じゃねえ。作る能力が人間にあるなら、当然消すことも出来るだろうからな」
予想とは少し違った答えだが、確かにそういった考えもあるのだろう。下卑していた存在に作られたなんて発覚すれば、社会情勢は今の状態をそのままひっくり返したようになるだろう。
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