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第2部
第22話 認めたくない本心
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宮沖トウヤの死亡から、三日が経過。
行われる葬式に当人の姿は無く、その骸は未だベリアルの中に存在し続けているのだった。
陰鬱な空気が漂う3課は、いつまでも代わり映えのしない面々を並べている。数少ない隊員で構成された部署というのもあって、一人を失ってしまったことによる精神的な疲弊は皆を襲うばかりである。
「……そろそろ、行くか」
「結局、山藁さんも連絡つきませんでしたね」
本日行われる空虚な葬儀には、三人の人間だけが参列することになった。有給を取っていた山藁宗二に連絡は付かず、宮沖先輩その両親は歳を取っているのもあってか到着が数日遅れるという。
日本のしきたりに従った葬儀に悪魔を参列させることは難しいとの達しを受け、ベリアルとマモンは立ち入ることすら許されないというのだ。
かつて宮沖先輩の座っていた3課の自動車の運転席に、一年と少しの記憶を馳せていた。
ベリアルに昼ご飯を食べられた時の為に、少しだけの空腹を満たすことができる栄養食を車内に隠していたのを私は知っている。その残骸が、アクセルの横に備えられた小さなゴミ箱に残っていた。
まだ新しいであろうそれに、数日前まで共に働いていた尊敬すべき先輩が死した事実を再び痛感させられる。こんなふとした出来事でさえ、この数日に何度涙腺を壊したことだろうか。
まだ泣くのは早いのだろう。当然だ。これからもっともっと思い知らされるのだから。
「……隊長、今日は俺が運転しますよ。浦矢のこと頼みます」
「……この車初めてだろ、気をつけろよ」
「まったく、面倒だなぁ人間の伝統つーかしきたりつーか……」
「……あぁ、そうだな」
同時刻。公園のベンチでたい焼きを片手に肩を並べるベリアルとマモンの姿は、双方が陰鬱な空気を孕んでいた。
「俺だってトウヤには世話になったんだぜ。最後の別れくらいさせてくれたっていいじゃねえか、なぁ」
「……」
「お前、ここ数ヶ月で変わりすぎたな」
「あ?」
マモンが一口をかじり、粒あんが溢れ出す。冬の風に冷えた身に染みわたる熱々の生地が、体内をだんだんと温めていく。
「邪道極まる糞みたいなメシばっか食ってさ、ちと気に食わねえとすぐ殺しちまうような奴だったのに、今はこんな落ち込んじまってるんだぜ」
確かに、自身でもそう思う事はある。たった一人の人間が死んだだけで、ラファエルに対してあそこまでの嫌悪を示したのだ。
己の利益目的というだけで殺さなかった宮沖トウヤという男、そのたった一人が散ってしまったそれだけで。
DRとの最終決戦の際、ネビロスに語った言葉は間違いだったのだろうか。
「人間ではないのだから、そう数年で変わるものは無い」という言葉は、間違っていたのだろうか。
「……認めたくねえけど、そうなんだろうな。メシくれるからってだけじゃねえ。よく分かんねえけど、トウヤに死んでほしくなかったのはオレ様の本心だ」
「ま、そう思うのが当然なんだぜ。それと何十年先になるか分かんねえけど、蓮磨が寿命迎えた時は俺んこと励ましてくれよな」
立ち上がり、残ったカケラのたい焼きを強引に口へねじ込んだマモンは立ち去る。
「……どこ行くんだ?」
「俺まだやることあるんだわ。お前の話し相手はこいつに任せたからよ」
マモンが指を鳴らし、針を呼ぶ穴を生み出す。しかしそこから現れたのは、無機質なそれではなかった。
「だいぶ落ち込んでんなぁ、お前」
「サマエル……」
姿を見せた一人の男は、相変わらずの様子で白い髪を揺らして語る。
「何の用だテメェ」
「別に~?ルシファーに言われたんだよね、ベリアルんとこ行けって」
「あの野郎なに考えてやがんだ」
先程のマモンの位置を陣取り、結果として肩を並べる二つの影。いがみ合いとしか言えないような雑談を繰り返している内に、かれこれ一時間が経過していた。
「……さて、そろそろ本題話すか」
「あぁ?」
立ち上がり、向かい合うよう移動したサマエル。すると突然、自ら胸元を抉り取って赤い血を流す。
「何してんだテメェ⁉︎」
「……ベリアル。俺のコアを食え」
唐突に告げられた言葉に、全く理解が追いつかなかった。先程まで嫌悪の言葉を投げ合っていた空気から、絶対にありえない発言だったからだ。
「この件が全て終わったら、人間を殺した罪を償わなくちゃならなかったんだよ。その罰としてルシファーに言われたのがコレだ」
「……なんでだよ。訳分かんねえ」
「俺の力は、自分よりも強い力を無効化する。もしお前の中にいる人間が俺のコアを掴むことができれば、お前から分離できる筈だ。あとはブエルでもなんでも使って生き返らせろ」
唐突に語られた内容は、よく分からなかった。だが、この言葉を聞いてからは何か、希望のような道がじんわりと見えている気がするのだ。
「本当に……出来んのか、それ」
「俺の命差し出してんだよ。生き返らなかったら許さねえぞ」
有無を言わさず、餡子の香りが漂う口内へとサマエルのコアが突っ込まれる。自身の喉がそれを胃に落とすと共に、眼前の男が倒れ込んで姿を眩ませた。
行われる葬式に当人の姿は無く、その骸は未だベリアルの中に存在し続けているのだった。
陰鬱な空気が漂う3課は、いつまでも代わり映えのしない面々を並べている。数少ない隊員で構成された部署というのもあって、一人を失ってしまったことによる精神的な疲弊は皆を襲うばかりである。
「……そろそろ、行くか」
「結局、山藁さんも連絡つきませんでしたね」
本日行われる空虚な葬儀には、三人の人間だけが参列することになった。有給を取っていた山藁宗二に連絡は付かず、宮沖先輩その両親は歳を取っているのもあってか到着が数日遅れるという。
日本のしきたりに従った葬儀に悪魔を参列させることは難しいとの達しを受け、ベリアルとマモンは立ち入ることすら許されないというのだ。
かつて宮沖先輩の座っていた3課の自動車の運転席に、一年と少しの記憶を馳せていた。
ベリアルに昼ご飯を食べられた時の為に、少しだけの空腹を満たすことができる栄養食を車内に隠していたのを私は知っている。その残骸が、アクセルの横に備えられた小さなゴミ箱に残っていた。
まだ新しいであろうそれに、数日前まで共に働いていた尊敬すべき先輩が死した事実を再び痛感させられる。こんなふとした出来事でさえ、この数日に何度涙腺を壊したことだろうか。
まだ泣くのは早いのだろう。当然だ。これからもっともっと思い知らされるのだから。
「……隊長、今日は俺が運転しますよ。浦矢のこと頼みます」
「……この車初めてだろ、気をつけろよ」
「まったく、面倒だなぁ人間の伝統つーかしきたりつーか……」
「……あぁ、そうだな」
同時刻。公園のベンチでたい焼きを片手に肩を並べるベリアルとマモンの姿は、双方が陰鬱な空気を孕んでいた。
「俺だってトウヤには世話になったんだぜ。最後の別れくらいさせてくれたっていいじゃねえか、なぁ」
「……」
「お前、ここ数ヶ月で変わりすぎたな」
「あ?」
マモンが一口をかじり、粒あんが溢れ出す。冬の風に冷えた身に染みわたる熱々の生地が、体内をだんだんと温めていく。
「邪道極まる糞みたいなメシばっか食ってさ、ちと気に食わねえとすぐ殺しちまうような奴だったのに、今はこんな落ち込んじまってるんだぜ」
確かに、自身でもそう思う事はある。たった一人の人間が死んだだけで、ラファエルに対してあそこまでの嫌悪を示したのだ。
己の利益目的というだけで殺さなかった宮沖トウヤという男、そのたった一人が散ってしまったそれだけで。
DRとの最終決戦の際、ネビロスに語った言葉は間違いだったのだろうか。
「人間ではないのだから、そう数年で変わるものは無い」という言葉は、間違っていたのだろうか。
「……認めたくねえけど、そうなんだろうな。メシくれるからってだけじゃねえ。よく分かんねえけど、トウヤに死んでほしくなかったのはオレ様の本心だ」
「ま、そう思うのが当然なんだぜ。それと何十年先になるか分かんねえけど、蓮磨が寿命迎えた時は俺んこと励ましてくれよな」
立ち上がり、残ったカケラのたい焼きを強引に口へねじ込んだマモンは立ち去る。
「……どこ行くんだ?」
「俺まだやることあるんだわ。お前の話し相手はこいつに任せたからよ」
マモンが指を鳴らし、針を呼ぶ穴を生み出す。しかしそこから現れたのは、無機質なそれではなかった。
「だいぶ落ち込んでんなぁ、お前」
「サマエル……」
姿を見せた一人の男は、相変わらずの様子で白い髪を揺らして語る。
「何の用だテメェ」
「別に~?ルシファーに言われたんだよね、ベリアルんとこ行けって」
「あの野郎なに考えてやがんだ」
先程のマモンの位置を陣取り、結果として肩を並べる二つの影。いがみ合いとしか言えないような雑談を繰り返している内に、かれこれ一時間が経過していた。
「……さて、そろそろ本題話すか」
「あぁ?」
立ち上がり、向かい合うよう移動したサマエル。すると突然、自ら胸元を抉り取って赤い血を流す。
「何してんだテメェ⁉︎」
「……ベリアル。俺のコアを食え」
唐突に告げられた言葉に、全く理解が追いつかなかった。先程まで嫌悪の言葉を投げ合っていた空気から、絶対にありえない発言だったからだ。
「この件が全て終わったら、人間を殺した罪を償わなくちゃならなかったんだよ。その罰としてルシファーに言われたのがコレだ」
「……なんでだよ。訳分かんねえ」
「俺の力は、自分よりも強い力を無効化する。もしお前の中にいる人間が俺のコアを掴むことができれば、お前から分離できる筈だ。あとはブエルでもなんでも使って生き返らせろ」
唐突に語られた内容は、よく分からなかった。だが、この言葉を聞いてからは何か、希望のような道がじんわりと見えている気がするのだ。
「本当に……出来んのか、それ」
「俺の命差し出してんだよ。生き返らなかったら許さねえぞ」
有無を言わさず、餡子の香りが漂う口内へとサマエルのコアが突っ込まれる。自身の喉がそれを胃に落とすと共に、眼前の男が倒れ込んで姿を眩ませた。
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