ふぉーえばーステップ!〜なんで私がアイドルやってんだ⁉︎〜

軍艦あびす

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第3話 踊るみんなが主役なの

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「…だから、私は自分の選んだ方向へ進んでいきたい。お願い、お母さん…」
「あんまり詳しくはわかんないけど、私からも頼んどくよ。蕣が自分から言い出してきたのなんて初めてだからね」
 姉の了承と協力を得たのち、母へ頭を下げることにした。確かに簡単な決断で進める道ではないと分かってはいるが、それを超えた先に見た景色から私は欲に支配されていた。
「…お母さんは構わないよ。ただ、蕣が本当に後悔したり挫折しないか、それだけが心配なの。あなたが自ら進んで決めたことって初めてだから…」
「それだけ蕣がやりたいっつってんだから大丈夫でしょ、母さんは心配し過ぎなんだよ」
「でも…」
 心配性ではないはずだ。これは、単純に私という経験の甘い人物が招いた一抹の不安でしかない。悲しいことに、それを産んでしまっている自分がそこにいるというのだ。
「私は諦めたりしないよ…もしそうなったとしても、すぐに立ち上がるから」
「そう…それならいいわ。期待してる」
 身近な人間ほど、真の笑顔なんてあまり見る機会がない。でもそれが、母が見せてくれた精一杯と受け止める。
「でも今あと1人見つけないとなんないんだろ?なんなら私が入ってやらん事もないが…」
「あ、それはお断りします」
 身内と組むユニットとはなんぞやと突っ込みたくなったが、今はそんな事をしている暇はない。今すぐにQuartettoへ向けて走り出したくてうずうずしているのだ。
「宮古さん、なんて言ってくれるかな?」


 午後1時、多くの生徒は空腹をぶら下げてある者は食堂へ、またある者は弁当箱を片手に校内を彷徨う。私はそんな空間で、たった1人を求めて徘徊していた。
 年間を通して人気のない木陰のベンチに、特徴的な薄めの紅色をした髪の少女を発見する。駆け寄り、彼女の目の前に立ち口を開いた。
「宮古さん、これからよろしくお願いします!」
「ってことは…決まったんだね、蕣ちゃん」
 彼女は白い歯を覗かせ、察したように返事を返してくれた。
「はい!昨日…もがっ⁉︎」
「くらえ‼︎」
 口の中に、ほんのりとした卵の香りが広がる。その味は紛れもない卵焼きだった。温い箸が口内から出されると同時に味に続くよう出汁の匂いが鼻腔を撫でる。
「どう?私のお手製!」
「ふぉん…ふおいおいひぃれふ!んっ…でもこれお箸…」
 普通に感想を述べたが、結構すごい事をしたような気がする。勿論口に出すのはなんだか小恥ずかしいが。
「あ……」
「無意識だったんですか⁉︎」
 箸を咥えたまま顔を染める彼女は視線をこっちに向け、何かを訴えかけようとしていた。
 ちなみに私はこれが初体験である。
「とっ…とりあえずこれはいいの!今は3人目のメンバーを探さないと…」
「メンバーって何?」
 不意に聞こえた覚えのないその声は、宮古さんの頭上からだった。顔を上げると、見覚えがあるものの名前が思い出せない感じの人が立っていた。
「うわぁぁぁ⁉︎誰⁉︎」
「時雨、君そんな反応出来たんだな…いっつも菩薩みたいな顔してっから意外だわ」
 制服の上からダボダボのパーカーを羽織り、少し音の漏れるヘッドフォンを肩にかけた少女がそこでポケットに両手を突っ込んで佇んでいた。
「えっと…」
「お、七海この前は災難だったなぁ。濡れ衣なんてくらって…あぁ、まだ喋った事無かったもんな。ボクは1-Dの尾木奈真昼おぎなまひるだよ」
 軽快に繰り広げられる会話のテンポが掴めず、こちら側から会話が切り出せないでいた。
「それで、なんだよメンバーって?スポーツなら助っ人してやらん事もないぞ?」
 ヘッドフォンの音量を下げながら彼女はベンチの背もたれに触れた片腕にすべての体重をかけ、脱力したように八重歯を見せる。
「なんの競技だ?自分で言うのもなんだがボクの運動神経を舐めない方がいいぞ?」
「…それじゃあ、尾木奈 真昼。ステージに上がり歌って踊ることは出来る?」
 当然訳がわからないと言わんばかりの表情を表し、口をぽかんと開けている。

「ほーぉ。なるほどね…でもそれボク向いてなさすぎじゃね?無駄な筋肉付きまくってるんだぞほら」
 そういうと彼女は制服のスカートを持ち上げ、かっちりとした脚と水色の下着を公に晒す。
「なにしてんの真昼さん‼︎」
 ものすごい直球に突っ込んでしまったが、数日前まではこのような行為は出来なかったはずだ。宮古さんと出会い、何かが変わってきているのだろうか。まあどうであれ、とりあえずこんな屋外で下着を晒さないでほしい。
「なに言ってるんだ蕣ちゃん。ボクの貴重なサービスシーンを見逃したのか…?」
「どうでもいいですよ‼︎」
「それで、どうするの?」
 ショートコントのような端的なやりとりは宮古さんの言葉により遮断され、尾木奈さんに選択の時が訪れた。
「んー、別にボクでいいならやってもいいんだけどね…今ちょうど部活が大変な時期というか……」
「そう…ですか。それで、尾木奈さんはどこの部に?」
「ん?将棋部だけど」
「なんで⁉︎」

 Quartettoの建造物内にて、ゆっくりと歩く私と宮古さんはとある部屋を目指していた。
 なんでも、倉庫と化した一角の部屋を我々の練習部屋にしていいというのだ。お世辞にも綺麗とは言い難いほどダンボールやらテープの残骸が散乱している辺りに一つの扉を見つけ、息を呑んだ。
「社長もなんだかんだ言って私たちに期待してくれてるのかな、練習スペースが手に入ったのはすごい前進だよ」
「あんまり相場とかは分からないんですけど、そういうのってどうなんですか?」
「そうだね…基本1時間で1000円を超えるところが普通になるかな。だから私たちはラッキーだよ」
 宮古さんはそういって、埃を被ったドアノブに手をかける。何故か一箇所だけ埃のない場所が見えたような気がしたが、今はどうでもいい気がした。
「みんなのアイドル、くまいろー参上‼︎私の力であなたたちをぉ………」
 扉の先に見た景色は、ものすごく高い声で決めポーズをしていた少女だった。よく見ると自分が通っていた中学の制服を着ている。
「…なんかごめんね、くまいろー」
「うわぁぁぁぁぁぁ‼︎誰⁉︎何⁉︎ていうか忘れてぇぇぇ‼︎」
 その場で頭を抱えたまましゃがみ込んで単語を連呼するその姿は、何故か見ているこちらも恥ずかしくなるという感覚を教えていた。共感性羞恥というやつだろうか。
「えっと…誰?」
「聞いてなかったの蕣ちゃん。みんなを笑顔にする森のアイドル、くまいろーだよ」
「やめてええええええええ⁉︎そしてちょっと盛ってるし‼︎」
 遂に涙を見せる彼女の顔を見た感想としては、美しいだとかそういう感情ではなかった。
 ただ、可愛いな、と。それだけだ。
「ねえ蕣ちゃん。森のアイドルをスカウトしてみるのはどうかな?」
「たっ…確かにすごく可愛いし…その…キャラとしてもいいとは思いますけど…」
「ねえもぉやめてよぉ…‼︎」
 宮古さんが発言すれば発言するほど締め付けられるこの子が不憫でならないが、そればっかりはどうにもできない。
「貴女、名前は?」
「うぅ…なんで今言わないといけないの⁉︎」
「いやそういうのいいんで」
「ほんとにね‼︎」

 彼女はのちに、『双城彩白ふたぎいろは』と名乗った。制服から見てどう見ても歳下なので、私はいろはちゃんと呼ぶことにした。
「で、なんで彩白はこんなところで森のアイドルやってたの?ここに生い茂ってるのはダンボールだけだけど」
「もう…やめてぇ…ほんとに……」
 膝に顔を埋めながら啜り泣く様に返事を返す。彼女は本当に心の底から恥を感じていると思う。
「…私はね、本当はああいうことがしたかったの。でもここの事務所ってモデルばっかりだから…」
「すごいわかる」
 どストレートな共感が当たりを反響している。なにか必然的なものが彼女らを同じ境遇に集めたのだろうか。
「ねえ、いろはちゃん。もしよかったらなんだけど…私たちと、Quartettoではじめてのユニットを組んでくれないかな…?」
「ゆにっと……?」
「本物の森のアイドルになれるチャンスだぞ」
 ああもう宮古さん。本当に余計なことを言わないでほしいものなのだが。
 彼女は立ち上がり、ドアノブに手をかけて首だけをこちらに向ける。
「…いや、私はひとりでやりたい。貴女たちが社長に認められたっていうなら、私も大丈夫だよね?だから…次会うときはライバルだから……」
そういうと彼女は、上の階を目指し駆けていった。

 数十分後。社長に何を言われたかは大方予想がつくが、いろはちゃんは私たちと向かい合う様休憩スペースの机を囲んでいた。
「…貴女たちとゆにっとならいいよって言われた………」
 何故そこまでの執着を見せるのか、ただ単に宮古さんが苦手なのかもしれないのかと思いつつ炭酸の効いた缶ジュースを身体に流し込んでいた。
 暫しの休憩…といっても、私達は何もしていないのだが。普通に真っ白な弧を描くテーブルを囲む私達は依然として会話を続けていた。
「宮古さん…そろそろやめてあげてください」
「えーなんで?絶対この子入ってくれたら人気出るって!だって森の…」
「あぁもう‼︎ほんとそういうところだよ‼︎」
 全く自重されない宮古さんの追い討ちは森のアイドルくまいろーこといろはちゃんを貫く。その発言に続くようまじまじと見てみれば、いろはちゃんが再び泣き出しそうになっていることがわかる。
「全く…なんでそんなに私を勧誘してくるの?私は一人で登っていくって…」
「3ヶ月後にある私たちの結成をかけたオーディションが3人ユニット限定なんだ。くま…彩白の強さが加われば絶対に受かる」
「なんか今くまって聞こえたんだけど⁉︎」
「それじゃあ…一緒に練習、っていうのはどうですか?それならいろはちゃんもいつか入ってくれるかなって…」
 宮古さんの両掌がサムズアップ、そこから波状して人差し指がこちらを向く。見てわかる通りの簡単なジェスチャーで「それだ」と伝えられる。口で言えばいいのに。
「別にいいけど、邪魔にならないようにしてよねっ…」
 いろはちゃんは立ち上がり、先程の部屋へと向かう去り際にそう語った。少し不機嫌そうな顔が見てとれたが、それよりも集中を集めるものが…
「くまさんだ…」
「くまさんですね…」
「ちょっ…まだ言うか⁉︎」
「いやそうじゃなくてさ…」
 宮古さんの指さした方向は、いろはちゃんのスカート部分だった。見事なまでに制服の隙間へ侵入を許されたスカートの中から、くまさんがこちらに顔を覗かせている。
「…ん⁉︎」
 一応再度言わせて頂こう。彼女が今身に纏っているのは、私が通っていた『中学校』の制服である。

「よっし練習始めよっか。蕣ちゃん、くまいろー」
「なんで確立してるの⁉︎ねえ⁉︎」
「ふふっ…」
 少々可愛げがあっていいではないかと私は思う。まあ、それが世間で通じるのかは置いておくとしよう。
「まず!最初は基本的動作からやっていくよ。今日だけでボックス、パトブレを覚えれたら上出来かな。出来ればサルサロックまで行きたいんだけど………」
 何を言っているのか全く分からないが、きっと簡単に出来るものではないと思う。理解できるか不安だが、あまり時間をかけられないので全ての神経をこちらに費やすことにした。
「まずはボックスステップから。足元に四角形をイメージして…右足を左足の前に、左足を右足に並ぶように、右を左の後ろに、そして最後に元の位置に戻ってくる。これだけの動作をリズムに合わせながら続けられたらエクセレントだよ」
 言葉だけでは伝わるまいと思ったか、宮古さんは説明の通りゆっくりと足を動かしていく。この動作は単純そうに見えて中々難しいと見ているだけでも感じるほどだ。
「まあでも私達が目指してるステージはこんな動作しないけどね。一種の基礎として学んでおいた方がいいというか身体を動かす練習って感じ?」
「そ、そうなんですか…」
「あれ、蕣って初心者?じゃあ私のが先輩なの?」
 いろはちゃんがいきなり絡んでくるが、別に構いはしない。彼女は彼女でかなり高難易度なステップを踏んでいるようで、思わず関心を持ってしまう。
「くまいろー先輩ってなんか語呂悪いから普通にくまいろーでいいよ蕣ちゃん」
「彩白っていう選択肢はないの⁉︎」
 私はこの茶番の中、ひたすらにボックスをしていた。何故だかステップを理解するたびに…身体が覚えるたびに、楽しいだとかの感覚が大量に生まれるような気がした。
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