ふぉーえばーステップ!〜なんで私がアイドルやってんだ⁉︎〜

軍艦あびす

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第4話 光の名を教えよう

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「社長…どうしてあんな事を…?」
「まあ、構わないじゃないか。きっと、それまでに彼女らは充分過ぎるほど鍛錬を積み重ねるだろう?」
「そうでしょうが…やはりそのようなことは…」
 峯森の口から発せられる言葉には、下向きの語感があった。宮古と社長の会話を聞いていた時からの違和感は、今も根強く残っている。
 ——そのようなオーディションは存在しない。と。
「Quartettoは、鍛錬が第一だと思っている。だからこそ彼女らが受かるかどうかも不安な事柄の為にどれだけ成長してくれるのか…楽しみで仕方ないよ。」
「社長、やはり彼女達には伝えるべきでは?」
「それじゃあ意味がないんだ。夢に向かって、無垢なまま育ってほしいんだよ。」
 あの後社長は、オーディションなんてしなくてもデビューさせてやると伝えた。しかしその行為が本当に彼女らを今後育てる糧になるのだろうか。
 峯森は考えていた。今、この与えられた3ヶ月だけが勝負ではないのだと。

 数時間の経過。今日これまでに消費した500mlペットボトルは3人分を合計して軽く2桁に到達していた。過酷だとか、疲れだとかは何も感じていなかった。きっと、今ここで体の限界を迎えてへたり込むまで己の感情は喜怒哀楽の『楽』一点張りだったのだろう。
「お疲れ蕣ちゃん。中々の上達スピードだよ、これなら本番までには絶対最高の出来になる!」
「あっ…ありがとうございます…‼︎」
 喉の渇きが激しい様だが、これはそんなものじゃない。なんというか、久しく全力で走った時の吐き気と息切れが程よく混合した感覚だ。無論、年中運動不足の私からすれば自分でも何をいっているのか分からないのだが。
「そしてくまいろー。どう?正式加入の決意は…」
 ストレッチの類を動作するいろはちゃんに宮古さんの声がかかる。少し考えたのち、彼女は真面目な表情を向けた。
「…もしそのオーディションに受かったとして、数年ユニットに居ればそのあとはソロになれる?」
「保証は出来ないけど、私はQuartettoに居る限りこれがくまいろーの夢へ向かう最短ルートだと思うよ」
 いろはちゃんはしばらく黙り込み、ストレッチを止めて仁王立ちになる。その後彼女は頬を染めて、口を開いた。
「くっ…くまいろーって呼び方、やめてくれるなら入ってあげてもいいよ…」
 少々尖った様な表情だが、頬を染めている。可愛い系の真髄的なものを見た気がした。
「そうか…それは残念だ」
「宮古さん⁉︎」
「冗談だよ。それじゃ…よろしくね、彩白」
握手の動作を前に差し出す宮古さんの右手に反応し、いろはちゃんの右手もこちらに伸びる。
 こうして、私たちはまた一歩と前進したのだった。
「…よし蕣ちゃん。私たちも呼び方統一しよう。これからはお互い呼び捨てでも構わない?」
 一歩、一歩と飛躍しすぎる気もするが、こういった精神面も一環の特訓だろう。私は承諾を飛ばした。
「それじゃ…よろしくね、蕣」
「うっ…うん。み、宮古……」
 実際、呼び捨てという概念に触れるのはかなり久々の出来事だ。無邪気だった小学生の頃辺りは乱用したものだが、中学への入学あたりで捨ててしまった概念だったからだ。
「よしっ…まだ時間あるし、ユニット名でも考えますか⁉︎」

「それでは、第一回ユニット名コンテスト‼求めるものは日本のトップクラスユニット『ETERNAL BEAT』みたいなカッコいい名前‼︎︎」
 いつ描かれたものなのか分からない適当な落書きが施されたホワイトボードの前で宮古は語る。
 そして一応説明を。ETERNAL BEATとは。日本を代表する二人組ユニットで、アイドルと言えばの代名詞である。美しい歌声を持つ華凪 雪音と歌代 調の2人が繰り広げるステージは万物を魅了すると言われている。
「はい!ベアーズがいいと思います!」
 そういうが早いかいろはちゃんはマジックペンを手に取り、ホワイトボードに「ベアーズ」と書き込んだ。
「いろはちゃんクマ好きだね…」
「え?くまさん可愛くない?」
 確かに彼女の持つ謎のクマ推しは本物だ。自らをくまいろーと名乗り、中学2年の彼女はクマの描かれた下着を着用していた。なんならお団子ヘアーもクマを意識しているのではと疑わしい。
「却下‼︎私たちが求めているものは演劇じゃないんだよ‼︎」
「ああ!くまさんが‼︎」
 ベアーズの文字を全力で消しにかかる宮古とそれを見て叫ぶいろはちゃん。物凄い光景だなと思う。
「蕣、何か案ある?」
「そう…ですね。やっぱり3人ですし、そういったメンバーの総称的な文字を入れたい…かな?」
「なるほど。スリー、トロワ、ドライだとか…で合ってる?」
 少しずつ先程の息切れ的なものを抑え込めてきたので、私は頷いた。しかしこういったネーミングセンスが問われるものは、微妙に苦手だったりするのだ。自分ではそれが分からないので、相手の感覚が気になって仕方がない。
 その後、討論は3時間ほど続いた。その間に登場したクマ関連のユニット名はもう少しで3桁に到達しそうな数となっていた。
「…これで……いいかな?」
「今度は…クマ何ですか……?」
「蕣…クマに侵食されてるよ…」
「くま入ってないの?」
 こうして私たちは、時計の短針が7を指すあたりまで討論を繰り返していた。
 そうして生まれたのが、私たち。
「それじゃあ…私たちは今日から…!」
『Tri clap』
 3人の言葉が見事に重なった。今の私たちは、その名に違いない。
 直訳で「3つの拍手」だ。3人が手を叩き、手を取り合い、3人みんなで奏でる。
 不恰好でも、音がズレていても、『3人で鳴らす音』ということが一番大切なことだ。

私たちは今日から、3つの拍手だ。
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