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第5話 はじめてのドキドキ
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「んで、結局組めたのな。良かったじゃん」
何か例えるものもないのだが、漫画ならきっと「がやがや」が効果音になっているであろう教室にて私は尾木奈さんと会話をしていた。
「オーディションに向けて練習してるんですが…やっぱり一からとなると結構体力的にキツくて…」
「じゃ、ボクと筋トレする?」
「で、できる気がしません…うぅ…」
運動不足解消など、そんな数日で完璧になる概念ではない。一般的な女子高生の体力を軽く越えなければならないというのが現状である。
「…蕣。明日は休日だから、朝9時に集合だよ」
いや、本当に慣れないのでやめて頂きたいのだが、何故いつも唐突に現れるのだろう。
「宮古…いつの間に隣に……ていうか前から思ってたんですけどテンション低くないですか?」
「校内では目立たないようにしてるだけ。それじゃ」
訳がわからないのだが、きっと何か理由があるのだろう。確かに芸能といった仕事柄目立つことはあまり好印象でない筈と私は踏んでいる。
「なに蕣ちゃんいつの間に時雨と呼び捨て合う仲にまで進展したの?付き合ってんの?」
「いや…付き合……は⁉︎」
「別におかしくはないよ、女の子同士の恋…ていうかボクは寧ろ好きだけど」
何気にさらっと恐ろしいことを口走った気がしたが、彼女の思考には語弊がある。
「べっ…別にそんなじゃないですよ‼︎ただ、これからユニットのメンバーとして…というか…なんというか…と、友達…かな?」
「ほー…んじゃ、ボクの事もそれで呼んでよ。なんなら真昼ちゃんでも構わないけど…」
こうやって、何度も関わりを深め合う運命に囚われたのだろうか。無論それが嫌だと言う気は毛頭ないし、寧ろ嬉しい。今まで出せていなかった己を曝け出せた気がする。
私は、ここ最近あまりに熱中しすぎた世界から少し目を逸らしてみる。するとどうだろうか。
学園祭が1週間後に迫っていたのだ。
本来数少ない大きな行事とは、学生にとってあまりに大切すぎるものだ。それの存在を完璧に忘却の彼方へ投げ捨てた世界の魅力を改めて感じるが、今はそれどころではない。
何かがあることはわかるのだが、そのなにかがわかれば苦労はしない。一体我々は何をするのだろうか。
とりあえず悩んでも知らない情報は出てこない。スマートフォンを手に取り、『まひる』と書かれたトークルームにメッセージを打ち込む。
するとどうだ。私はてっきり焼きそば屋だとか喫茶店だとかの返信を期待していたのだが、その文面に私はひとり真顔を決め込む。
「蕣ちゃんステージ出るんでしょ?」
…デビューもしていないのにステージへ立てというのか。確かに毎年、即席のバンドやらダンスユニットやらがはしゃいでいるというのはよく知っている。かつて通っていた姉が、あまりに騒ぎ立てすぎてステージを下されていたことは今でも記憶に新しい。
今考えたらものすごい度胸だなと感じる。よくあの人数の前であんな事を口走ったものだ。その一連は、敢えて口には出さないというか出したくない。
とりあえず今は部屋に帰ったら、宮古に相談しようと思う。
「で、学園祭にてステージライブを蕣が発案してくれた。勿論やるしかないよね彩白?」
「でももう1週間とちょっとしかないんでしょ?間に合うのそれ…」
幸い、求められるべきが学校行事レベルなのでなんとかなりそうだとは思う。だがそれを学校側が認めるかという問題である。
「大丈夫でしょ。それにもう許可とったし」
「とったの⁉︎」
仕事が早いというか…無計画というべきか。デビューすらしていないうちは、貴重なステージなので無論逃すわけにはいかないのだが。
「勿論、チャンス逃すなんてありえないからね。今回は既存曲を使えば歌詞を覚える時間も省けるから一点集中だ。それにここはQuartettoの倉庫…衣装の一つや二つ転がってるさ」
そういって、宮古は一番近くの段ボールを開け放ち埃を散らしながら中をのぞいた。そこにあったのは明らかにバラエティ番組の企画で使われたであろうひょっとこの面が入っていた。
「…まさかこれ使うんですか?」
「いやいやまさか…」
そっと段ボールを閉じ、何も見なかったと言わん態度を見せてその隣へと手を伸ばした。
次に目にしたのは、ベージュを基盤としたメルヘンチックなワンピースだった。見た目的には日曜朝の女児向けアニメを彷彿させるものだが、別に着れないということはないだろう。
「これいいじゃん!全部ラインのカラーリング違うしイメージカラーとか作れるよ⁉︎どうする?2人とも何色がいい?」
「私水色で!」
いろはちゃんの威勢の良い返事と同時に段ボールから全ての衣装を取り出す宮古。その手に置かれていたものは数えると5になっていた。
「…青ないね。白ならあるけど…」
「彩白だし白でいいでしょ」
その場に並んでいたのは赤、白、朱、桃、紫の5色だった。所望されたものは存在しなかった為、一番近いもので我慢していただこう。
「蕣は…どれ?」
「どれでも大丈夫ですよ、宮古は…」
宮古の視線が、唐突に鋭く突き刺さるような気がした。
「蕣、どれでもいいじゃないんだよ。これは私たちの第一印象そのものなんだから、ここくらいは自分で——」
あぁ、また間違えたのだろう。彼女の言いたいことは伝わっているし、反省もしている。だが、どうやってもそれは自分がそうしたいと思った結果なのである。
「別にそれが悪いなんて言わないし、むしろ肯定すべきだと思う。でも私は同じユニットとして、ここを蕣が自分の意見を言える場所にしてほしい。勿論彩白にだって、くまいろー全開で生活できる所だって作ってあげたいんだよ」
「宮古……」
彼女の言葉に何を感じたかはわからない。だが、彼女が見えないところで私たちにかけてくれている努力というものを感じ取ることができた。同時に溢れる申し訳なさが、口を動かす。
「わっ…私は…!し…朱色でお願いします…!」
その後、宮古は赤を選んだ。あまり統一性は無く、妙なバランスの紅白が並ぶことになってしまったのだがそれはそれで良いと思う。大切なのは、私たちが今ここにいる場所が『Tri clap』であるということだ。
何か例えるものもないのだが、漫画ならきっと「がやがや」が効果音になっているであろう教室にて私は尾木奈さんと会話をしていた。
「オーディションに向けて練習してるんですが…やっぱり一からとなると結構体力的にキツくて…」
「じゃ、ボクと筋トレする?」
「で、できる気がしません…うぅ…」
運動不足解消など、そんな数日で完璧になる概念ではない。一般的な女子高生の体力を軽く越えなければならないというのが現状である。
「…蕣。明日は休日だから、朝9時に集合だよ」
いや、本当に慣れないのでやめて頂きたいのだが、何故いつも唐突に現れるのだろう。
「宮古…いつの間に隣に……ていうか前から思ってたんですけどテンション低くないですか?」
「校内では目立たないようにしてるだけ。それじゃ」
訳がわからないのだが、きっと何か理由があるのだろう。確かに芸能といった仕事柄目立つことはあまり好印象でない筈と私は踏んでいる。
「なに蕣ちゃんいつの間に時雨と呼び捨て合う仲にまで進展したの?付き合ってんの?」
「いや…付き合……は⁉︎」
「別におかしくはないよ、女の子同士の恋…ていうかボクは寧ろ好きだけど」
何気にさらっと恐ろしいことを口走った気がしたが、彼女の思考には語弊がある。
「べっ…別にそんなじゃないですよ‼︎ただ、これからユニットのメンバーとして…というか…なんというか…と、友達…かな?」
「ほー…んじゃ、ボクの事もそれで呼んでよ。なんなら真昼ちゃんでも構わないけど…」
こうやって、何度も関わりを深め合う運命に囚われたのだろうか。無論それが嫌だと言う気は毛頭ないし、寧ろ嬉しい。今まで出せていなかった己を曝け出せた気がする。
私は、ここ最近あまりに熱中しすぎた世界から少し目を逸らしてみる。するとどうだろうか。
学園祭が1週間後に迫っていたのだ。
本来数少ない大きな行事とは、学生にとってあまりに大切すぎるものだ。それの存在を完璧に忘却の彼方へ投げ捨てた世界の魅力を改めて感じるが、今はそれどころではない。
何かがあることはわかるのだが、そのなにかがわかれば苦労はしない。一体我々は何をするのだろうか。
とりあえず悩んでも知らない情報は出てこない。スマートフォンを手に取り、『まひる』と書かれたトークルームにメッセージを打ち込む。
するとどうだ。私はてっきり焼きそば屋だとか喫茶店だとかの返信を期待していたのだが、その文面に私はひとり真顔を決め込む。
「蕣ちゃんステージ出るんでしょ?」
…デビューもしていないのにステージへ立てというのか。確かに毎年、即席のバンドやらダンスユニットやらがはしゃいでいるというのはよく知っている。かつて通っていた姉が、あまりに騒ぎ立てすぎてステージを下されていたことは今でも記憶に新しい。
今考えたらものすごい度胸だなと感じる。よくあの人数の前であんな事を口走ったものだ。その一連は、敢えて口には出さないというか出したくない。
とりあえず今は部屋に帰ったら、宮古に相談しようと思う。
「で、学園祭にてステージライブを蕣が発案してくれた。勿論やるしかないよね彩白?」
「でももう1週間とちょっとしかないんでしょ?間に合うのそれ…」
幸い、求められるべきが学校行事レベルなのでなんとかなりそうだとは思う。だがそれを学校側が認めるかという問題である。
「大丈夫でしょ。それにもう許可とったし」
「とったの⁉︎」
仕事が早いというか…無計画というべきか。デビューすらしていないうちは、貴重なステージなので無論逃すわけにはいかないのだが。
「勿論、チャンス逃すなんてありえないからね。今回は既存曲を使えば歌詞を覚える時間も省けるから一点集中だ。それにここはQuartettoの倉庫…衣装の一つや二つ転がってるさ」
そういって、宮古は一番近くの段ボールを開け放ち埃を散らしながら中をのぞいた。そこにあったのは明らかにバラエティ番組の企画で使われたであろうひょっとこの面が入っていた。
「…まさかこれ使うんですか?」
「いやいやまさか…」
そっと段ボールを閉じ、何も見なかったと言わん態度を見せてその隣へと手を伸ばした。
次に目にしたのは、ベージュを基盤としたメルヘンチックなワンピースだった。見た目的には日曜朝の女児向けアニメを彷彿させるものだが、別に着れないということはないだろう。
「これいいじゃん!全部ラインのカラーリング違うしイメージカラーとか作れるよ⁉︎どうする?2人とも何色がいい?」
「私水色で!」
いろはちゃんの威勢の良い返事と同時に段ボールから全ての衣装を取り出す宮古。その手に置かれていたものは数えると5になっていた。
「…青ないね。白ならあるけど…」
「彩白だし白でいいでしょ」
その場に並んでいたのは赤、白、朱、桃、紫の5色だった。所望されたものは存在しなかった為、一番近いもので我慢していただこう。
「蕣は…どれ?」
「どれでも大丈夫ですよ、宮古は…」
宮古の視線が、唐突に鋭く突き刺さるような気がした。
「蕣、どれでもいいじゃないんだよ。これは私たちの第一印象そのものなんだから、ここくらいは自分で——」
あぁ、また間違えたのだろう。彼女の言いたいことは伝わっているし、反省もしている。だが、どうやってもそれは自分がそうしたいと思った結果なのである。
「別にそれが悪いなんて言わないし、むしろ肯定すべきだと思う。でも私は同じユニットとして、ここを蕣が自分の意見を言える場所にしてほしい。勿論彩白にだって、くまいろー全開で生活できる所だって作ってあげたいんだよ」
「宮古……」
彼女の言葉に何を感じたかはわからない。だが、彼女が見えないところで私たちにかけてくれている努力というものを感じ取ることができた。同時に溢れる申し訳なさが、口を動かす。
「わっ…私は…!し…朱色でお願いします…!」
その後、宮古は赤を選んだ。あまり統一性は無く、妙なバランスの紅白が並ぶことになってしまったのだがそれはそれで良いと思う。大切なのは、私たちが今ここにいる場所が『Tri clap』であるということだ。
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