歪ミノ咎学園

第22話 暇つぶし

　渡辺は平林が退院して一日目の朝にゴミを殴り続け、生徒指導室…即ち、この場所に送られてきた。
　その際に、横で立っていただけと言えども一部始終を知っていた名護は井ノ尾の発言に違和感を感じた。
「お前の心境とあの猿共を殺すのに何の関係がある？猿共からの危害はお前には無いだろう」
　毒の瓶を手に取り、視線の位置で揺らす井ノ尾は無機質な声で呆れたように言う。
「私の愛する人が汚い猿の血で汚れるくらいなら、そうなる前に私がその血を被ってやろうっていう考えですよ。別に私は汚れてもなんとも思いませんし」
　ついでに嫌いなゴミを一掃することも出来ます、と、続けて井ノ尾は教室に戻っていった。
「一番邪魔な木智山は最後のお楽しみか…」
　名護は見え切った井ノ尾の娯楽を軽く嘲笑った。
　
　放課後。
「西船橋帰るよ、忘れ物無い？」
　机の横に吊るされた体操着を忘れていることに気づいた。
「ん。無い無い。帰ろっか」
　体操着を鞄に詰め込んだ。
「井ノ尾さん、まだ教室にいるなら悪いけど帰るとき鍵閉めてもらっていい？」
「別に良いけど…」
　机に向かいノートに文字を殴り書く彼女に鍵を渡し、教室を後にした。
　
「…あまりいい趣味とは言えないなぁコソコソと人を観察して」
　教室の外から視線を感じていたのは西船橋と綱手が教室を出た十分程後の事だった。
「まぁ、そう言うなよ。お互いそれ以上に変な趣味を持っているだろ？」
「手を染めるってのは、他者からの意見がどうであれ立派な趣味です。自分の手を染めないセンセには分かんないですよね」
「そりゃあ、出来るだけ自分の手は汚したく無い主義だし、そんな事で教師はやめたく無い。君みたいに面白い生徒がいっぱいいるからね」
　井ノ尾は立ち上がり、教室を出た。
「…何処に行くんだ？」
　井ノ尾は笑顔で『暇つぶし』と呟いた。