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第1章「始まり」
第11話「探索者ギルド」
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大体1時間程 Eランク迷宮区に潜っていたので来た道を戻るのも時間がかかってしまった。
そのせいで入り口に立っている自衛官に免許を見せる頃には空は夕暮れ時すらも超えて真っ暗になっていた。
ちなみに迷宮区は異常なほどの警戒体制を24時間とっている為に、入る時に加えて出る時にも免許を見せる必要がある。
理由は幾つもあるが人型の魔物が解き放たれるのを防ぐためが一番とのことらしい。
昔は今と違って入る時だけに提示させるという方式だったが30年以上前のとある事件をきっかけに変わったらしい。
Eランクの迷宮区ではあまり意味はないと言っても過言ではないがAランク以上の迷宮区から魔人や天人と言われる亜人の一種が人間の探索者のふりをして出てきたのだ。
俺はあの時代を知らないからなんとも言えないが、飛び出したのはAランク以上の魔物。
脅威と言えば簡単だが、その恐怖は凄まじいものだっただろう。
俺もこのまま順調に進めばいつか戦うかもしれない。頭の隅には入れてくといいかもしれないな。
「よし通れ、坊主」
一〇〇式小銃が揺れて、戦闘服をきた自衛官が俺の肩を押した。
探索者もかっこいいが自衛官も相当にかっこいいな。
「F級スキルでもよぉ頑張る。応援してるぞ」
サングラスの下から見える眼光とドスのきいた低い声。
サムズアップする自衛官の背中を押す笑みに少し胸が跳ねた気がした。
「あ、ありがとうございますっ」
「おうよ!」
何か、元気が出た気がした。
世の中にはまだこんなにあったかい人がいるのなら捨てたものじゃないんだな。
「本日はどのようなご用件でしょうか、國田様」
迷宮区から地下鉄で十数分。
普段ならこの距離も鍛えるために歩くようにしているが今日は時間が時間のために電車で向かった。
ギルドに入って受付でいつも通り整理番号を受け取って数分待つと、いつも見る顔になった下田さんが無愛想に真面目な顔で訊ねてきた。
「下田さんはいつも変わらないですね」
「はいはい。ご用件は、なんでしょうか? お話をしにきたのならギルドの2階にある相談受付所に足を運んだらどうでしょうか?」
丁寧な説明口調ではあったが顔は一ミリも変わっていなかった。
別に、少しくらいは砕けて話してくれたっていいじゃないか。まぁ、俺が子供で相手にされていないのもあるんだとは思うけどさ。
笑ってくれたらきっと可愛いだろうに。
とはいえ、さすがに今は何言っても返してもらえなさそうなので俺は自分の収納デバイスを開いた。
「換金お願いできますか?」
「換金ですね。わかりました。ではこの番号札を……あ、あの?」
すると、俺の方を見て目を細める下田さん。
いつもなら無愛想にあっちに行ってくださいと説明してくれるところなのだが、今日は少し驚いたような表情をしている。
「どうかしましたか?」
訊ねると少し悩んで質問で返してきた。
「あの、その大量の毛皮ってゴブリンじゃないですよね?」
「え、まぁ……そうですけど」
「それじゃあ、ホブゴブリンでもないですよね?」
「はい……」
質問に答えるもの悩んでいる表情は晴れない。
しかし、ハッとして彼女はカウンターから乗り上げるように俺の腕を掴んで腕に巻き付けてあるデバイスから免許証を写した。
「もしかして……君っ」
急な「君」呼びに胸がドキッとする。
普段のあの無愛想な顔が今は少しだけ眉間に皺がよっていた。
慌てて、何かを調べだす下田さんはパソコンをタイプすると、自分の頭を押さえてため息を吐き出した。
「あ、あの……俺何かしたんですか?」
「っ!」
訊ねると唐突な鋭い目つきで睨まれた。
「え……ちょ、ちょっと、急に怖いですよ……」
「怖いじゃないです。というより、私の方が怖いですよ。なんなんですか、これは!」
バシッと指をさしたのは俺の行動記録だった。
いつもは見せない喜怒哀楽の怒の表情に少し圧倒される。
「これって、いや別に普通に迷宮区》に行っただけですけど……」
「普通にってなんですか、これ! 普通じゃないですよね? この、Eっていうやつ!」
「それはたまには冒険してみようと思っただけっていうか」
「思った? 何言ってるの? 君のスキルはFだよね? 自分に見合っていない迷宮区《ダンジョン》に潜るのは危険なことなんだけど、わかるかしら?」
理由は心配だったようだ。
いつもは心配してくれないからちょっと嬉しかったが俺だって意見はある。
そこまで言わなくてもいいじゃないかと言い返すも下田さんの目は本気だった。
「だめです! 今の君のようにたった1日通用して数日後には死んだ人を何人も見たんです。これ以上、学生さんを死なせるわけにはいかないんです!」
気持ちのこもった声。
隣の探索者に少し見られて注目を買ってしまったが彼女は止まらない。
「明日からは、絶対に行かないでくださいっ」
断言に耳が痛くなる。
ただ、俺も俺で引くわけには行かない。初めて見せてくれた優しさに応えるように言い返した。
「下田さん、これ見てください」
そう言って、腕のデバイスの個人情報を表示させる。
「俺のステータス見てください」
バババっと表示される俺の個人情報。
写されているのは名前からレベルにオリジナルステータス、そしてオリジナルスキルに今日手にしたスキルの数々。
それを見ると下田さんは驚いたように見入っていた。
「き、君……これは一体!? まさか、改ざん……?」
「改ざんはしてないですよ、俺にそんな技術ありませんから」
「ま、まぁ、そうよね……。でもこれって、こんなのっておかしい……わ」
下田さんの反応はおかしくはなかった。
むしろ、この場合は俺がイレギュラーだ。
少し食いついたように眺めて、俺の目を見てこう聞いた。
「いつ、こうなっていたの?」
「ま、前ここにきた時にはなっていましたね」
「前……じゃあ、今までは?」
「それは俺も分からないんですよ。たまたま開いたらこんなふうになってて」
「じゃ、じゃあこの新しいスキルは何よ? ここに書いてあるスキル、普通はオリジナルスキルで得られるようなものばっかりじゃない?」
「それは……なんか、急に声が聞こえたっていうか」
「声?」
意味が分からない、そんな顔をしていた。
「はい」
「……わ、分からないわ。どうして急にこんな数値に……それにレベルなんて超えてるじゃない、上限を」
「俺も本当にわからないんですよ、気づいたらこうなっていたっていうか。でも、それみたらEランク以上、いけるのかなって」
「まぁ、それはその通りだけど……ま、まぁ、そうね。一応このことはギルド長に報告しておくわね」
「それは、ありがとうございます」
「えぇ。そ、それじゃとにかく、さっさと換金して今日は帰ってください。私は色々と書類作らなきゃいけないので」
「じゃあ、そのよろしくお願いします」
そう言うと下田さんは慌てたように受付の窓を閉めてヒールを鳴らしながらどこかに走って行った。
そんな彼女の横顔を見てふと思う。
下田さんって表情が変わるとこんなにも可愛いんだな。
もっと明るかったら絶対にモテるのに。
——なんて。
しかし、この時の俺はまだ知らない。
俺の呑気さがいずれ国を巻き込む大きな闇に変化していくことを。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【スキルリスト】
『神託予見』『知覚向上』『魔物特性』『高速移動Lv.1』
そのせいで入り口に立っている自衛官に免許を見せる頃には空は夕暮れ時すらも超えて真っ暗になっていた。
ちなみに迷宮区は異常なほどの警戒体制を24時間とっている為に、入る時に加えて出る時にも免許を見せる必要がある。
理由は幾つもあるが人型の魔物が解き放たれるのを防ぐためが一番とのことらしい。
昔は今と違って入る時だけに提示させるという方式だったが30年以上前のとある事件をきっかけに変わったらしい。
Eランクの迷宮区ではあまり意味はないと言っても過言ではないがAランク以上の迷宮区から魔人や天人と言われる亜人の一種が人間の探索者のふりをして出てきたのだ。
俺はあの時代を知らないからなんとも言えないが、飛び出したのはAランク以上の魔物。
脅威と言えば簡単だが、その恐怖は凄まじいものだっただろう。
俺もこのまま順調に進めばいつか戦うかもしれない。頭の隅には入れてくといいかもしれないな。
「よし通れ、坊主」
一〇〇式小銃が揺れて、戦闘服をきた自衛官が俺の肩を押した。
探索者もかっこいいが自衛官も相当にかっこいいな。
「F級スキルでもよぉ頑張る。応援してるぞ」
サングラスの下から見える眼光とドスのきいた低い声。
サムズアップする自衛官の背中を押す笑みに少し胸が跳ねた気がした。
「あ、ありがとうございますっ」
「おうよ!」
何か、元気が出た気がした。
世の中にはまだこんなにあったかい人がいるのなら捨てたものじゃないんだな。
「本日はどのようなご用件でしょうか、國田様」
迷宮区から地下鉄で十数分。
普段ならこの距離も鍛えるために歩くようにしているが今日は時間が時間のために電車で向かった。
ギルドに入って受付でいつも通り整理番号を受け取って数分待つと、いつも見る顔になった下田さんが無愛想に真面目な顔で訊ねてきた。
「下田さんはいつも変わらないですね」
「はいはい。ご用件は、なんでしょうか? お話をしにきたのならギルドの2階にある相談受付所に足を運んだらどうでしょうか?」
丁寧な説明口調ではあったが顔は一ミリも変わっていなかった。
別に、少しくらいは砕けて話してくれたっていいじゃないか。まぁ、俺が子供で相手にされていないのもあるんだとは思うけどさ。
笑ってくれたらきっと可愛いだろうに。
とはいえ、さすがに今は何言っても返してもらえなさそうなので俺は自分の収納デバイスを開いた。
「換金お願いできますか?」
「換金ですね。わかりました。ではこの番号札を……あ、あの?」
すると、俺の方を見て目を細める下田さん。
いつもなら無愛想にあっちに行ってくださいと説明してくれるところなのだが、今日は少し驚いたような表情をしている。
「どうかしましたか?」
訊ねると少し悩んで質問で返してきた。
「あの、その大量の毛皮ってゴブリンじゃないですよね?」
「え、まぁ……そうですけど」
「それじゃあ、ホブゴブリンでもないですよね?」
「はい……」
質問に答えるもの悩んでいる表情は晴れない。
しかし、ハッとして彼女はカウンターから乗り上げるように俺の腕を掴んで腕に巻き付けてあるデバイスから免許証を写した。
「もしかして……君っ」
急な「君」呼びに胸がドキッとする。
普段のあの無愛想な顔が今は少しだけ眉間に皺がよっていた。
慌てて、何かを調べだす下田さんはパソコンをタイプすると、自分の頭を押さえてため息を吐き出した。
「あ、あの……俺何かしたんですか?」
「っ!」
訊ねると唐突な鋭い目つきで睨まれた。
「え……ちょ、ちょっと、急に怖いですよ……」
「怖いじゃないです。というより、私の方が怖いですよ。なんなんですか、これは!」
バシッと指をさしたのは俺の行動記録だった。
いつもは見せない喜怒哀楽の怒の表情に少し圧倒される。
「これって、いや別に普通に迷宮区》に行っただけですけど……」
「普通にってなんですか、これ! 普通じゃないですよね? この、Eっていうやつ!」
「それはたまには冒険してみようと思っただけっていうか」
「思った? 何言ってるの? 君のスキルはFだよね? 自分に見合っていない迷宮区《ダンジョン》に潜るのは危険なことなんだけど、わかるかしら?」
理由は心配だったようだ。
いつもは心配してくれないからちょっと嬉しかったが俺だって意見はある。
そこまで言わなくてもいいじゃないかと言い返すも下田さんの目は本気だった。
「だめです! 今の君のようにたった1日通用して数日後には死んだ人を何人も見たんです。これ以上、学生さんを死なせるわけにはいかないんです!」
気持ちのこもった声。
隣の探索者に少し見られて注目を買ってしまったが彼女は止まらない。
「明日からは、絶対に行かないでくださいっ」
断言に耳が痛くなる。
ただ、俺も俺で引くわけには行かない。初めて見せてくれた優しさに応えるように言い返した。
「下田さん、これ見てください」
そう言って、腕のデバイスの個人情報を表示させる。
「俺のステータス見てください」
バババっと表示される俺の個人情報。
写されているのは名前からレベルにオリジナルステータス、そしてオリジナルスキルに今日手にしたスキルの数々。
それを見ると下田さんは驚いたように見入っていた。
「き、君……これは一体!? まさか、改ざん……?」
「改ざんはしてないですよ、俺にそんな技術ありませんから」
「ま、まぁ、そうよね……。でもこれって、こんなのっておかしい……わ」
下田さんの反応はおかしくはなかった。
むしろ、この場合は俺がイレギュラーだ。
少し食いついたように眺めて、俺の目を見てこう聞いた。
「いつ、こうなっていたの?」
「ま、前ここにきた時にはなっていましたね」
「前……じゃあ、今までは?」
「それは俺も分からないんですよ。たまたま開いたらこんなふうになってて」
「じゃ、じゃあこの新しいスキルは何よ? ここに書いてあるスキル、普通はオリジナルスキルで得られるようなものばっかりじゃない?」
「それは……なんか、急に声が聞こえたっていうか」
「声?」
意味が分からない、そんな顔をしていた。
「はい」
「……わ、分からないわ。どうして急にこんな数値に……それにレベルなんて超えてるじゃない、上限を」
「俺も本当にわからないんですよ、気づいたらこうなっていたっていうか。でも、それみたらEランク以上、いけるのかなって」
「まぁ、それはその通りだけど……ま、まぁ、そうね。一応このことはギルド長に報告しておくわね」
「それは、ありがとうございます」
「えぇ。そ、それじゃとにかく、さっさと換金して今日は帰ってください。私は色々と書類作らなきゃいけないので」
「じゃあ、そのよろしくお願いします」
そう言うと下田さんは慌てたように受付の窓を閉めてヒールを鳴らしながらどこかに走って行った。
そんな彼女の横顔を見てふと思う。
下田さんって表情が変わるとこんなにも可愛いんだな。
もっと明るかったら絶対にモテるのに。
——なんて。
しかし、この時の俺はまだ知らない。
俺の呑気さがいずれ国を巻き込む大きな闇に変化していくことを。
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