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第1章「始まり」
第13話「氷姫の信念」
しおりを挟む「し、しずくっ……なんで一緒にお風呂なんて言いだすんだよ」
「何、お兄ちゃんは私と入るのは嫌なの?」
「別に、嫌とかじゃないけど……だって俺高校生だし、雫だってもう中学生だし……恥ずかしいのかなって」
「恥ずかしくないよ? だって家族だしっ」
「それはずるいだろ……」
「えへへぇ~~」
湯船に浸かる俺と雫。
一応、念のため言っておくが俺と雫が入っているのは一人用の湯船だ。体がほぼ大人になった男女が入れば流石にパンパンでお湯も今にも溢れそうだった。
にしても、二人で入るのは何年ぶりだろうか。
多分、中学生……いや、小学生ぶりか。俺が16歳で雫が14歳だから意外と歳近いんだよな、俺たち。普通に俺のクラスにいる女子とまったく遜色ないくらい発達している。
って、そんなこと言っても、妹には発情しないけどな。
昔、本当の妹に恋するアニメがあったと孤児院のおじちゃんが言っていたけど、さすがに恋心は抱かない。
ただまぁ、愛してはいる。
綺麗な体だ。起伏があり、胸も中学生にしては大きめ。将来は有望株。モテすぎて恋愛が嫌になるくらいの女性だろう。
「お兄ちゃん。さっきからえっちな目でどこ見てるの?」
「んな!? だ、誰がえっちな目をしてるんだよっ!!」
「だって、さっきから私の胸ジロジロ見てくるじゃん……変態っ」
「っんぐ」
妹からの「変態」は胸にくるものがあった。
そして、雫の頬が若干赤くなっているのは気のせいだろうか?
「……どうして、赤くなってるんだよ」
「え、赤く? 私が?」
「そうだよ。雫の方こそ変なこと考えてるんじゃないのか?」
そう訊ねると少し悩んだ顔をして答えた。
「私、お兄ちゃん好きだからかな?」
「は、え?」
「もちろん、家族的な意味だけどね。でもお兄ちゃんすっごく雫のこと考えてくれるし、大好きだよ?」
急な言葉には俺の顔は熱くなった。
なんだ、これ。めっちゃ嬉しいんだけど。てか最高だな、俺のマイラブリーシスターエンジェルしずくたん!
「でも……さすがに私の発情するのはやめてね? 私、好きな人いるんだから」
「別に発情なんてしてなーーってえ!? すき、好きな人がいるのか!?」
「まぁそれはうん。いるけど……」
なんだ、誰だよ俺の妹に唾つけてやがる男は!
俺の眼前に現れてみろ、ぶっ叩いて……っていや、いつから俺は怖い頑固親父になったんだ。
驚きながらも胸を落ち着かせて「ふぅ」と一息。
「ま、まじか……雫に好きな人が」
「うん……っでも、なんか言うのは恥ずかしいね、へへっ」
俺が一丁前に恋愛をする妹に感服していると、雫は頬を赤ながらにへらと笑う。
体もくねくねと動かしているのが俺の目には可愛く映った。
「まぁ、そうだなぁ」
「お兄ちゃんは好きな人とか、いないの?」
すると、恥ずかしそうに顔を赤くした雫は俺に話を振ってきた。
「俺は……そうだなぁ。好きな人って言われると難しいなぁ」
好きな人。
そんな響きはもうかれこれ数年間聴いていない。小学生の時は施設でよく遊んでいた女の子が好きだったことはあったけど、その子とは今も連絡は取れずじまいだし、結局中学に入ってからは地獄のような勉強の日々でそんな匂いは一ミリもなかった。
そして、今高校生になって青春できるーーっていうわけでもなく。やっぱり探索者の学科では、強い人が圧倒的にモテるし、俺みたいな雑魚は女子に相手にすらされないからな。
そう言う意味では好きな人なんていない、かな……。
そんなふうに考えたところで、ふと顔が浮かんできた。
『——できるとかどうかじゃないわ。私がやらなきゃだめなのよ』
あの、力強く言って見せた彼女の顔がふとおもいうかんだんだ。
それを思い出して、俺は思う。
そうか、俺は彼女のことが好きなのか?
あの強さの中に見える弱さが自分と似ているというか、重ねてしまっていた。
いや、好きと言うよりも憧れか。
「憧れの人でもいいけど……」
それなら、言える人は一人いるかもしれない。
「そうだな。憧れの人は見つかったかな?」
――――――――――――――――――――
※追記
その翌日の話。
こんばんは、どうも世界一何も持っていないF級探索者、國田元春です。
今日も今日とてジン君とクサビ君にパンを買ってこいといじめられ、挙句の果てには狭い部屋に閉じ込められています。
あぁ、ちょっと語弊があったかもしれません。
実はその、閉じ込めているのはいじめっ子のクサビ君とジン君ではありません。
うん、あなたが今思いついただろう場所。
申し訳程度についた仕切りでほぼ隠れていないトイレに、小さな冷たい水しか出ない洗面台。そして、羽毛なんてまったくと言って入っていない、形だけにせた日本の伝統式寝具、お布団。
極めつけには小さすぎて開けられもしない窓に、反対側の鉄格子。
「……どうしてこうなった」
その翌日。
俺はなぜか、探索者犯罪拘置所の刑務所に入っていたのだ。
なぜか――そう言うとまるで俺が何もしていないのに捕まった犯罪者みたいに聞こえるが、実際のところ。
もちろん、理由は理解している。
俺のレベルがバグっているからだ。
まぁ、上限100のレベルで99999になっているのは色々とおかしい。俺さえも疑っていたが、最近はものにしようと努力している。
しかし、その――ものにしようとしたことが仇になった。
直接的な原因はあのEランク迷宮区に入ろうとした時。
自衛官にステータスを見せた時だ。まさか、通報していたとは思わなかった。だって、そうはいってもF級だよ、俺?
ただ、自衛官がしたことは間違っていないのも確か。
「くそぉ……ここからの人生、つんだな」
もちろん、デバイスもすべて奪われていて雫とも連絡つかないし、下校中に拘束されたからもう19時は過ぎているだろう。
色々と終わった。
どうしよう、せめて、換金したお金を家に預ければよかった。
でもまぁ、雫のことは下田さんが何とかしてくれるかな。そう信じるしか、今はできない。
うすぐらい鉄格子のなかでぼそぼそと呟きながら考えていると、目の前に二人の刑務官が立ち止まる。
「これが例のやつか?」
「はい。F級のレベル99999の人です」
「はぁ……鑑定士には見せたのか?」
「一応、ステータスまでは見れませんでしたが……レベルはしっかりと。それに、改ざんされている跡もありませんでした」
うん、だって俺は何もしていない。
急に神様がいたずらしただけなんだから。
「まぁ、にしてもなぁ、俺的にはこいつがレベルが99999には見えないけどなぁ」
「ははっ。私にも見えませんよ」
いくら容疑者だからってここまでディスられると悲しい。
だいたい、俺だって最近まではそこまで上がっているとは知らなかったからだ。
それに、急にジン君とクサビ君が怖くなったことだって変に余裕ができたからだと思ってたくらいだ。
しかし、そんなところで奥からもう一人、刑務官がやってきた。
デバイスを起動し、驚いた顔で少しだけ重苦しい声を上げている。
「あ、あのっ。探索者ギルドの方から連絡があって——」
「何? ギルドが?」
おそらく、地位が高いだろうおじさんは俺を一瞥して呟く。
「あいつら、また俺たちの仕事にちゃちゃを入れるのか」
「はい。なんか、無罪放免で逃がしてやれと」
「くそぉ、いくら下部組織だからってそう簡単に犯罪者を逃がしてたまるかよ……」
さっきまで俺の事はディスっていたのに、どうやら逃がしたくはないらしい。
「……ですが、一応。上の判断ですし」
「っく。仕方ない」
というわけで、なぜか分からないが——約4時間後。
俺は捕まって解放されたのである。
意味のない、時間を過ごしたのはこれで二度目だった、そんな風に思いながら家に帰り、雫に泣きつかれたのは言うまでもないだろう。
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