F級スキル持ちのモブ陰キャ、諦めきれず毎日のようにダンジョンに潜ってたら【Lv.99999】まで急成長して敵がいなくなりました

藍坂いつき

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第2章「裏世界」

第58話「Aランク迷宮区の攻略②」

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「あぁ、二人とも。エヴァぁに乗れぃ」

 高度なセキュリティシステムを超えて先に進み、会議室の中に入ると小さなテーブルを挟んで某特務機関の総司令のような恰好で待っていたギルド長が目に入った。

「あの、何してるんですか?」
「シンジぃ、エヴァぁに乗れぃ」
「え、あ、あの?」

 ネタは知っている。
 どこぞのハリウッドで雑魚な師匠――じゃなくて、有名アニメの名シーンなことくらいは知っている。

 もちろん、俺だってその程度のネタが分からないほど何も勉強していない人間ではない。

 F級と揶揄されてきたが勉強、特に近代史の勉強はしてきた方だ。

 分からない人のために言うと、現代日本はアニメというものが全くと言っていい程栄えていない。

 栄えていない、と言ったら語弊があるか。産業として、会社が全くないのだ。日本のアニメ最盛期である2000年代からかれこれ200年以上経つと世界も変わり、アニメというものがすべて外国に取られてしまっているのだ。

 そんな古き良き日本を思い出すためにも歴史では流行ったアニメを教えているという感じだ。

 とまぁ、とにかく、重要な作戦会議だと聞かされていたのに、あんなことを言われて何か返せるほどはコミュ力がある人間ではなかった。

 なんせ、相手はあの黒沢城之助という憧れの人。黒崎さんほど関係値もなければ同突っ込んでいいか分からないのは当然。

 ——俺はそう言いたい。

 と、頭の中で色々と議論を重ねていると隣にいた黒崎さんがジト目で凍るくらいに冷徹な声で呟いた。

「——くr、あ、いや、そのギルト長。面白くないんでやめてください。國田君も困ってます」

「え、もしかして面白くない?」

 唐突に向けられるギルド長の視線。
 さすがに急すぎて声が出る。

「え、俺ですかっ?」

「そうだけど?」

「ギルド長、普通に國田君が困ってます」

「あ、え、まぁっ……」

「はははっ‼‼‼ そうかそうかぁ~~俺のギャグなんかよりも、國田君國田君ねぇ~~」

 すると、今度はその小ばかにするような視線が黒崎さんに向かった。
 思わずの振りにこれまた驚く黒崎さん、どこか嫌そうな表情をしてすぐにぶるぶると顔を振った。

「あ、あの、ギルド長!!」

「ぶははははは!!!! いやはや傑作傑作!!! 面白いねぇ、そうかそうかぁ、俺が家はどこがいいか聞いてきたときはなんか味気ない顔で答えてるなぁ~~なんて思ったけど。そうかそうかぁ」

 含みのある笑みを浮かべて、机をバシバシと叩く。

 吸音材ですべてさっと雪の様に消えて聞こえなくなるも、その余韻が黒崎さんを襲っていた。

「……う、うるさいわよ!!」

「へぇ、図星かねぇ~~図星なのかねぇ?」

「あ、あんたにそんなこと言われたくないし!! い、良いでしょうが、私の家に誰を上げるかはさ!」

「うぅ~~ん? そうかね? っと、そっかそっか。そこにいるのか、本人が」

 意味ありげな言葉の羅列。
 本人、俺の事?

 訳が分からない俺の横で黒崎さんは恥ずかしそうにぶるぶると頭を振り続ける。

「——わ、私は別に。っていうか、なんでここでそれを言う必要があるのよ!!」

「駄目かな?」

「駄目に決まってるでしょ!」

「あ、あの——」

「「ん?」」

 さすがにこのまま置いてけぼりは嫌だったので俺は俺で横槍を入れることにした。

「な、何の話を?」

「それはね――」

「ああぁ、言うなぁ!!」

 ギルド長に覆いかぶさるように飛びついた黒崎さん、体を右腕だけで抑えられながらギルド長は信じられないようなことを口にした。

「——彼女、俺の娘だからね。君と一緒に住むのを俺に相談してきたって話だねっ」

 へ?
 もちろん、俺の頭の中はバグっていた。
 
 俺の娘?

 その言葉の意味が分からない。

 つまり、え?

 黒崎さんとギルド長はなんだ? 

 俺の娘……ってことは、つまり。

 父娘ってことなのか?

 いやいや、そんなわけないだろうし……苗字が違うんだぞ? 黒崎と黒沢で。

 似てる、とも言えなくはないけど。まさかそんなわけがあるなんてことはさ……?

 いやいや……。

「っも、もう何言ってるのよ!!」

「だって言うべきだろ? ほら、彼だってもうHYSOPPの一員だし?」

「あ、あんたが入れろって!」

「だからこそ――」

「ほ、ほんとなんですか?」

 焦る黒崎さんの肩を掴む。
 それにびくりと震えて、こっちを向くと目は真っ直ぐな透き通った瞳をしている。

「え、ほんとなんですか⁉」

 さすがに、これまでか。
 そんな心の折れる音がして、申し訳なさそうに俯く彼女。

 何も言わないその表情が真面目に見えて、俺はギルド長に視線を向ける。

 すると。

「事実、だとも」

 その瞬間、体はまっすぐに動く。
 その場に、そしてへたり込むように綺麗な45度のお辞儀だった。

「——お、お、お父さん、俺、國田元春、い、一緒に暮らさせていただいています!! よろしくお願いします!!!」





 って、あれ、両親っていないっていってなかったっけ?
 言った同時に思いだし、色々とぐちゃぐちゃだった秘匿会議室は静かになるまで時間を要したのは言うまでもない。

「——ってわけで、俺は育ての親ってわけだな。ははは、ややこしかったかな?」

「いやまぁ、ややこしいどころじゃなかったですけど……」

「もぅ。ほんと、困らせるのはやめてよ」

「でも事実だろ?」

「うっ」

「分かりやすいな、うちの義娘は~~」

「うっさいし!! ほんと、うざい……もう」

 遅めの反抗期に手を焼くお父さん。
 そばから見て、その状況まんまだった。

「そ、それで、今日の用事は何なの?」

 まだ赤い頬を隠す様にそっぽを向きながら黒崎さんは強い口調でそう訊ねる。
 すると、ハッとしたかのように席を立つギルド長。

「って、そうだな。今日、ここに来てもらった理由を話さないとだな」

「理由、ですか?」

「あぁ、そうだとも。二人には任務を与えようと思ってな」

 ――そうして、俺にとって初めての任務作戦会議が始まったのである。

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