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第2章「裏世界」
第59話「Aランク迷宮区の攻略③」
しおりを挟む「任務自体はいたって単純。二人にこなしてもらうのは敵の潜伏地への工作――」
いたって単純。
その言葉に俺の胸の内は心配でいっぱいだった。
敵の潜伏地、つまりはアンチスキルの潜伏地と言うことであっているだろうか。さきの戦闘で駒とは言え、戦闘員と戦った俺からしてみればその言葉の重みはずっしりとのしかかってくる。
やつらの殲滅、それは願ってもないことだが実際のところ、そんなに簡単とも言えないだろう。
あの薬と言い、色々と厄介なのは確か。俺も自分の力にかまけていてはどうなるかだって分からないのだ。
「っ」
隣から黒崎ググっと拳に力を入れて息を吐きだすのが聞こえた。
おそらく、彼女の反応からも伺えるようにやばい話なんだろうな。俺も気を引き締めていかなければ――なんて考えているところ。
そこまで言って口を止めたギルド長は深刻そうな声で呟いた。
「——ではなく」
そんな任務ではなかったらしい。
「「っていやおい!」」
俺と黒崎さんのダブルツッコミが突き刺さる。
「ぶははははっ‼‼‼‼‼ 騙されたかぁ~~それじゃあうちの機関の人間は務まらないぞォ!?」
早速。
全く反省していないギルド長と言えば腹を抱えながら馬鹿笑いを上げる。
いやはや、確かに俺の呑み込みの良さも良くないが正直ウザいと思ってしまった。憧れの人という名のフィルターが前から少しずつ剥がれつつあったが、今回ばかりはそれが明白なものになったに違いない。
「あの、真面目に本題を聞いているんですけど?」
「ん、あぁ、そうだな。すまんすまん。驚かせるのが俺の趣味なんだ」
「軍歌とか銃火器なんじゃないのかしら、馬鹿」
「馬鹿って聞こえたんだけど~~?」
「なんも言ってないから早くして」
「あぁ~うちの娘は恐いですね~~」
親子コントが始まったかと思えば、黒崎さんは真面目に怒っていたようでそれを見分けたギルド長は咳払いをしてこう言った。
「——ってことで、それじゃあ本題だな。ちなみに単純なのは本当だ。特に捻っているわけでもなく、言葉の通りに受け取ってほしい。とにかく、二人にはパーティを組んでAランク迷宮区の攻略に行ってもらいたい」
「Aランク迷宮区、ですか?」
「あぁ、そうだ」
真面目に頷くその顔を見て嘘ではないと悟ったが少しだけ俺はびっくりしていた。もちろん、隣の黒崎さんも心配そうな表情を浮かべている。
理由は色々とあるだろうが、俺的には一つだけ懸念があった。
「あの、質問いいですか?」
「あぁ、いいぞ?」
「俺ってその、まだ迷宮区の攻略自体——Dランクまでしか行ったことがないんですけど」
そう、俺はまだ迷宮区の攻略自体進んでやれていないのだ。
Eランクは前に特訓がてら入り、最近Dランクを黒崎さんと一緒に入って攻略した。というのも、魔物との戦いをしてきただけであって俺はまだCランクもBランクも経験できていないのだ。
それが、そんなあからさまに経験不足な俺が多くの死者も題しているようなA以上の迷宮区に簡単に入っていいのか、正直不安しかない。
「あぁ、知ってるとも?」
しかし、ギルド長の目は変わらない。
それは考慮している――特に何か言い返すわけでもなく、彼はすんなりと俺の疑念を消し去った。
「え……いやでもっ。黒崎さんですら完璧にAランク迷宮区を攻略できていないんですよねっ」
「それもそうよ……いきなり、こんな二人で攻略だなんて無茶苦茶すぎるわよ。私だって心の準備って言うものがあるんだし」
その通りだ。この前の荷の前になるのは避けなくちゃいけない。
いくら装備を新調したと言っても、二人で行くのはあからさまな本末転倒。
そんなこと、素人目でも分かるほどに意味がない。
ただ、そう反論してもギルド長は声色一つ変えようとしなかった。
「まぁ、言わんとしていることも分かる」
「なら——」
「ただ、君たちは重大な勘違いをしている」
「「え?」」
急な突き付けるような言葉に俺も黒崎さんも喉が詰まった。
「重大な勘違い?」
「あぁ、そうだ。元春君も、黒崎さんもどちらもしているな。確かに元春君はその迷宮区を攻略していない。ただ、一つ言わせてもらえば君は前代未聞の存在なんだ。自分の凄さにはあまり気付いていない、いや気づかないように、もしくは油断しないようにしているのだろうが事実、君は凄い。君の影響力は本来、ギルドにとどまらず世界各国まで情報が言ってもおかしくないんだ」
「俺の、情報がそこまで……」
「あぁ、つまり、何が言いたいかというと君の命の保証は今後しずらくなってくる。雫ちゃんが狙われたことから考えればアンチスキルは君を取り込もうとしている。そして、そこに登場した薬に、と色々と状況が厄介だ。やつらだけでそんな大層なものが作れるとも思わないし、そこで考えられるのが他国との密輸になる。いつどこで盛れてもおかしくないんだよ」
確かに、と。
言われてみればそうなのかもしれない。
そこまで大きな組織に狙われていたということはその情報も広く知られることになるということだ。
「もちろん、再び雫ちゃんにその標的がいかないようにこっちでも色々と出来ることはしているがそれも限度がある。奴らが常識から離れた対応をすれば分からない。つまり、そんな君自身により強くなってもらう必要があるというわけだ」
「ということは、Aランクで磨けと」
「あぁ。無論、黒崎君も同様にな。簡単にB以上の魔物を倒せるようになってもらいたい」
「……きついこと言うわね」
「はははっ。それがこの機関だよ?」
ニヤリと上がる口角。
ただ、今回のはさっきの馬鹿笑いとは違う何かを感じた。
「——とにかく、それも含めて。この札幌には攻略しきれていないAランク迷宮区も多い。それにAランク迷宮区に行く探索者はS以上だ。そうなると君らくらいにしか任せられないからね。だからってことだね」
「まぁ……そこまで言われたらそう、ですね」
「えぇ、きっと他の選択肢はないのよね?」
「もちろん、業務命令だね? 違反したら最悪死刑」
いや、それは重すぎる。
「まぁとにかく、行ってもらうよ?」
結局、そんなわけで俺と黒崎さんのAランク迷宮区入りが決まったのだった。
しかし。
黒崎さんは部屋を後にする前に振り返った呟いた。
「あの、でも二人はきついですけど?」
「あぁ。もう2人も用意しているから安心して明日、ここに着なさいな」
「え、いるんすか⁉」
「いるとも。こっちも馬鹿じゃない。そこら辺の配慮は完璧だよ?」
至れり尽くせり。
そうと言っていいのか、俺にはよく分からなかったが準備がなされているのはいいことだろうな。
「……用意周到ね」
「ははは……」
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