F級スキル持ちのモブ陰キャ、諦めきれず毎日のようにダンジョンに潜ってたら【Lv.99999】まで急成長して敵がいなくなりました

藍坂いつき

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第2章「裏世界」

第68話「莉里という少女」

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 あれから1週間が経った。

 あの後、俺たちは弱った莉里抱えて冒険者ギルドへ駆け込んだ。

 いろいろあったが無事で、今は俺たちの家に居候してもらっている。
 
 いろいろと不明な点が多いがわかっているのは以下の通り。
 名前が涼宮莉里《すずみやりり》だということ。
 年齢が13歳ということ。
 そして、何かのスキルを保持しているということ。

 この3点。

 あまりに謎が多い。

 とはいえまだ子供。
 ここで引き取り手がいないのならば、冒険者ギルドとしてはギルドが運営する保育施設に生かせる流れになっていたが彼女の辛そうな視線を見ているとどうしてもいたたまれなくなり、俺は黒崎さんやギルド長に直談判をした。

 結果的になんとか話を通してもらい、今は雫との仲がいい友達になってくれている。

 

「莉里ちゃんは何が好きなの?」

「わ、私は……その、覚えていない……の。好きなものとか……」

「あ、そ、そっか! そうだったよね……じゃあカレーは大丈夫?」

「カレーライスのこと……ですか?」

「そうそう! いけるかな?」

「多分……大丈夫ですっ」

 一緒にソファーに座る黒崎さんとともに振り返り台所を見ると、雫と莉里が楽しそうに会話をしているのが見えて、少しほっとした。

 なぜかと問われたらそれは単純。
 雫がいつにもまして楽しそうだからだ。

 嬉しそうに笑みを浮かべる雫とその横でごまかすように頭をかく莉里。
 こんな姿は俺が今みたいな交友関係を持たないと生み出せないものだし、今までだったら雫はご飯を作るために毎日のようにバイトへ行って遅く帰ってきて、友達と遊ぶ暇さえなかった。

 それがこうして、新しい友達と笑っていられるなんてと考えるとうれしいことはない。

 そんな風に考えながら見つめていると黒崎さんが呟いた。
 
「あの二人、仲いいわよね。雫ちゃんも前にもまして元気そうだし」
「莉里は記憶喪失らしいですし、ストレスのある中で楽しく話してくれる相手がいるだけでもいいんですよ。それに雫も同学年の話し相手ができるのはうれしいんですよ」

「それも……まぁ、そうね」

 納得しながらそれでも少しだけ不服そうに返答する黒崎さん。

「どうしたんですか? 不服そうですけど?」

「いや、不服とかじゃないんだけど……なんであそこにいたのかが不思議っていうか」

「まぁ、それはきっと――迷い込んだんじゃないんですか?」

「迷い込んだって……あれはA級の迷宮区なのよ?」

「まぁ、でも。未知な迷宮区ですよ? ほら、黒崎さんだって到達したことない階層で戦ったわけですからあんな風に何が起こるかわからないですよきっと。もしかしたらまだ未発見の入り口から入り込んでしまった……なんてことも可能性としてはあるわけですし」

「……そんなこと言われたら何でも言えるわよ」

「はははっ。まぁ。それは否めないです。確かに何か怪しいのは理解してます。ただ、彼女はまだ13歳です。俺や黒崎さんのように探索者ができるような歳でもありませんし、記憶喪失だってあってほっとけるわけないですよ」

「お人よし……」

「俺のことを組織に誘ってくれたお人よしが何を言ってるんですか」

「……わ、悪かったわね。あれは謝る。私はひどいことしてるわよね……いっつも」

「そういう意味で言ったわけじゃないですよ。でも、こうして恵まれた仕事を受けられて、おかげでいじめられることもないですし。救ってくれたのは黒崎さんですからね」

「そ、そうだったわね……」

「ありがとうございます」

「え、えぇ」

 甲鉄の氷姫。
 なんていう二つ名が懐かしく思えるほどに今の彼女はとげが柔らかくなっていて、そっぽを向いてほほをポリポリかく姿はそそられるほどにかわいかった。

「でも……莉里って名前で呼ぶのね」

「え?」

「いや。私のことは……苗字だし……っ」

「あ、あぁ……それはだって、莉里ちゃんはこどもですしなんか苗字呼びおかしいかなって……」

「そ、そうね」

 ぼそっと付け足すように黒崎さんはつぶやいた。
 そんな顔を見て、ふと気が付く。

 もしかして、黒崎さんは嫉妬しているのか?
 俺が名前で呼んでくれないことに。

 いやいや……でも、いやまぁ。
 確かに、かれこれよく一緒にいるし名前で呼んでもおかしくないのかもしれないけど……とそこまで考えて体が動いていた。

「ツカサ」

「っ!?」

 ポロっと出ていた名前に、黒崎さんは心底驚いた視線を俺に向けてきた。
 無論、無意識だったので俺も予想できなかった。

「あ、いや、名前で……呼んでほしいのかなって」

 瞬時に思い付いた言葉を言い訳のようにならべて言うと、彼女はまたしてもそっぽを向いた。

 さすがにまずったかなと思っていると、横目に髪をくるくると指に巻き付けながら呟いた。

「……や、やっぱり、いい」

 どうやら俺たちはまだ次のステージに進めないらしいな。



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