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第2章「裏世界」

第67話「内気な少女」

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 作戦は順調に進んで行った。
 まさに灯台下暗しかのように盲点的な弱点により、ブルードラゴンの難易度は格段に下がった。

 最近まで、俺にはこだわっていたものがあった。

 1人で状況を打破することだ。
 そのことばかりに突出していて、彼女たちの意見を聞かずすべて俺だけで倒そうとしていた。

 ただ、この1週間で分かったことがある。


 やはり独りよがりのソロプレイには限界があるということだ。
 いわば自慰行為的な行動には限界があるのだ。

 人間の強みを生かさずして状況は打破できない。
 個は大切だ。いついかなる時もそれが大切なことに何も間違ったことはない。


 ただ、それを生かすのはではなくだ。


 最初にクリスタルドラゴンと対峙した時なんか全くと言っていいほど連携が取れていなかった。

 結果的に戦ったのは俺だけで、全く歯が立たなかった。

 それに比べて2回目の対峙は最初の防戦一方から逆転するに当たって、2人が俺の手助けをしてくれた。

 その違いだ。

 仲間がいることで精神的にも物理的にも余裕があるというだけでもやりやすい。

 それがあるとないとではおそらくこれから降りかかるであろう高ランクの迷宮区ではやっていけないと今の俺は踏んでいる。

 こうして、Aランクの迷宮区でBランク以上の魔物の異常な大量発生に渡り合っていけるのだから。

 最初よりも余裕があって感がる時間も生まれ、呼吸が整ってくる。

 MPが切れそうになってもそこを補い、俺が合間を抜けて確実な弱点にとどめを指していく。

 何かが崩せれば最初の戦っていたアックスホーンやゴブリンと大差はなかった。

 さすが探索者パーティ、何より優秀な仲間のおかげだ。

「黒崎さん!! 次右からです!!」

「後ろから来てる、一気に押し返すわよ!!」

 ただ、ブルードラゴンもバカというわけではない。魔物の中ではかなり頭のいい部類に入る。

 今までの作戦が見極められたように一気にバラバラになった。
 円のように広がり、そのままギロリと目つきを変える。

 左右から取り囲むように黒崎さんと下田さんを押し返す。

 しかし、俺たちだって負けてはいなかった。
 いや、俺ではなく彼女たちか。

 いきなりの習性、動きで驚く俺に対して黒崎さんも下田さんも斎藤さんも全員が冷静沈着だった。

 そこには俺には持ち合わせていない類稀なる経験があったのだ。

 魔物の動きに合わせるように、まるで最初からわかっていたかのように方向転換し声を掛け合った。

「タイフーンの風魔法使ってこっちに追いやって!!」

「はいっ!!」

 風脚がブルードラゴンの足元にぶつかり、抑えていた一匹が体勢を崩す。

 そこにさっきも合わせた風の魔法が炸裂する。

『台風《タイフーン》!!!!!!!』

 吹き荒れる風、嵐。
 轟音と共に勢いづく嵐がブルードラゴンに突き刺さる。

 囲まれていたのはこっちだったはずなのに、それすらも逆手にとって状況は一気に逆転する。

 横から中央へ、流れが変わる。
 
 そして黒崎さんが大声で叫ぶ。

「今よ!! 範囲攻撃で倒しなさい!!」


 その瞬間、俺は反射の如く飛び跳ねた。体が勝手に動く流れが染み付いていたのか、理由はよく分からなかったが横を囲んだブルードラゴンが中央に集まっていた。

 彼女が言うような好機。

 俺は反動を溜め込み、一気に放とうと拳を構えた。


 ーーーーそんな瞬間だった。


 目の前?そのドラゴンの影に1人の少女が怯えたように座り込んだでいた。

「!?」

 溜め込んだ力を瞬時に発散させる。
 突如として、俺の力一気に発現した。

「國田くん!?」
「え!?」
「!?」

【神様の悪戯により、ステータスが5%解放されました】

 加速する思考と体を制御しながら俺は一気のその女の子の元へ。

 間をくぐり抜け、残ったブルードラゴンに対して風を斬る蹴りを喰らわせ、被害を最小限にとどめて、彼女を抱きしめ飛び立った。

 全てを薙ぎ払い、少し離れた場所に着地すると彼女は涙目で俺を見つめてきた。
 
「き、君は?」

「……わ、私は……涼宮……莉里……」

 震えた声で俺に何かを訴えかけるかのように言ってくる彼女に、なぜだか分からないけど胸が痛んだ。

 痩せ細った体、俺よりも小さく、雫と同じくらいの背の丈。

 薄赤色の髪の毛に、翡翠色の瞳。
 容姿は可愛らしく、妹のように保護欲を掻き立てる。

 そして、そんな彼女は俺を見つめる。

「……りり、ちゃん?」

「うん」

「どうしてここに?」

「分からないの……」

 悲しそうに俯いた。
 するとなぜか流れてくる景色。

 どんなものかは語れなかったけど溢れてくる感情が見えてくる。

 怒りや憎しみ、そして哀れみ。

 まるでなにかを見せられているようで、喉が詰まるような気分だった。

 後からやってきた3人も心配そうに見つめ、俺は彼女に近づき、いつのまにかつぶやいていた。

「この子、ひどく弱ってる」

「え、えぇ」
「でもなんであんなところに?」
「……わかりません」

「でも置いて行けないですよ」

「そうね……」

 頷く皆。
 結局、その日の探索はそこで打ち切りになり、俺たちはこの女の子をギルドへ連れて行くことになったのだった。












 あとがき
 大変遅れました。いつも読んでくださる方には大変申し訳ございません。大学が始まり忙しくなり長い間投稿できなかったことをここにお詫びします。
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