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タチカレが友達のタチカレに寝取られたので子羊の逆襲を決行します⑦
しおりを挟むじっくりと身体中に染み渡っていくような気持ちよさと、玲児くんの身体の重みが与えてくれる安心感からか眠気に誘われる。慣れないお酒のせいもあるかもしれない。
ウトウトと、瞼が落ちる感覚がまたきもちいい。
しかしオードブルやグラスが放置されたテーブルに紛れて置いてあるスマホが、ピカピカと光っていることに気がつく。ディスプレイに「水泡さん」と浮かんでいるのを見て、一気に目が覚めた。
「ご、ごめんなさい……ちょっとスマホを」
俺も玲児くんも細身とはいえ、大人の男二人がソファーに身を沈めきっているこの状況では少し腕を伸ばすのすら厳しい。
とんとんと背を叩くと玲児くんは無言のまま、だるそうに体の半分を浮かせてくれたので、目いっぱい上半身を乗り出してスマホを手に取った。
「もしもし」
『帰る』
もしもしの声に少し被るくらいのタイミングで短い用件が告げられる。
「え? 今からですか?」
『うん』
「お時間として、どれくらい……」
『ううん……三十分……?』
テレビ台の上あたりに掛けられた時計を見れば、ちょうど秒針が十時半を指すところだった。日をまたぐと思っていたのに、予想よりも随分と早い。
飲みかけ食べかけのものたちはまだしも、自分たちの状況がありえない。髪を濡らさないようにシャワーを浴びて、バレないように浴室を拭き取らないといけないし、玩具の洗浄も。三十分で片付くだろうか。
「まだ玲児くんと一緒なのですが……」
『ああ、そのままで。大鳥と、帰る。二人は、家まで送る』
あまりに予想外の返答に俺は目を丸くする。
「隼人が?! えぇ、待ってください、飲酒運転なのでは……」
『最初の一杯しか、飲んでない……もう、抜けてる。へいき。帰る』
プツリと電話が切れる音を聞いて、さらに頭を抱えた。
三十分で帰宅するというだけでも驚きなのに、隼人を連れて帰ってくる? そんなまさか。
四人で同じ空間にいるの、嫌だなぁ。水泡さんと隼人が並んでるのだって見たくない。隼人の顔、見たくない。
しかも飲みに行って一杯しか飲んでないって、何? 何してたんですか。もう本当にやだ。
「大丈夫か? 加賀見だろう? 帰ってくるのか」
倒れ込むように俺の上にいた玲児くんが、上半身を浮かせて指の背で頬を撫でてくる。
ああ、これ……隼人がよくこんな風に触ってくれた。きっと玲児くんもあの指で撫でられているから、同じように触れてくるのだろう。
自分を押し潰そうと胸を苦しめる圧力を、玲児くんの首に抱きつくことで少し逃す。
キスがしたかったし、玲児くんも唇が触れそうなくらい近づいてきたけれど……どちらもそれをしていいのかわからなくて。俺たちは額や頬をそっと擦り付けあって笑った。
「何やら隼人と一緒に帰ってくるようですよ」
「む、聞こえたぞ。こんなことをした直後で顔を合わせるのは少し気まずい……」
まだ言葉が続きそうな余韻はあったが、玲児くんはそのまま唇をきゅっと結んだ。
「しかしあいつにとって、こんなことは“よくあること”なのだろうな」
「玲児くん……」
俺がやりたかったのは隼人に対する復讐。玲児くんにはなんの恨みもないのに巻き込んでしまった。だから俺が無理矢理襲ったということにしたかったのにな。
こんな至近距離で、視線を落とせばすぐにわかる。
玲児くんは擦り寄せた額を離すと、二人の体温で少し温かくなったそこに口付けて起き上がった。
「いいんだ。そんな顔をするな。お前が少し楽になったなら俺は構わん。これは俺にとっても、一概に悪い経験だと決めつけられるようなことではないと思う」
俺も身体を起こして、玲児くんの横顔を眺める。
華やかではないが、一筆で描いたようなスッとした綺麗な横顔。
これをきっかけに玲児くんも隼人の浮気について考え直し、束縛でもしてくれないだろうか。けれど仕事柄スケジュールが掴みづらいし、いくらでも誤魔化されてしまうから諦めている部分もあるのかもしれない。
それとも……愛想を尽かされることを恐れて喧嘩を避けている俺と同じなのかな。
俺のところにいてくれるから、俺が一番だから、それで良い。そんな俺と。
「少し、スッキリしました。でもまた……辛くなったらどうすればいいですか?」
「それは……」
袖を摘んで、甘えた声の上目遣い。
いけないことなのに。
同じところまで沈めてしまいたくなる。
しかし玲児くんは眉間の皺を深めて首を横に振った。
「だめだ、やめよう。自ら進んで貴様とそんな仲になる気はない。とにかく今は片付けないといけないだろう? シャワーを浴びなければならないし、汚したものも元の状態にしなければ。俺は不器用だから指示をしてくれぬか?」
「……はい。ではまずシャワーを浴びましょう」
やっぱり玲児くんは俺と同類ではない、か。そんな玲児くんが俺は好きだからいいけれど。
寂しさと安心が同じくらいの割合で、この狭い心を満たしていった。
※※※※※
慌てて玄関の扉を開けたとき、水泡さんのお顔よりも隼人の顔が目に飛び込んだことが、頬の裏を噛み締めてしまうくらい悔しかった。
もちろん隼人が真っ先に目を向けるのは自分の恋人である。久しぶりに会う元セフレではない。
廊下に立つ玲児くんに笑顔を向けたあと、サンダルをつっかけて扉を開けた俺を見る。
その目線の動きを見ただけで、つららで刺されたような冷たさが背筋を駆け上がった。
隼人が鋭い目を細くして頬をあげた優しい笑顔をするのを、俺が正面から見ることはない。いつも左斜め下あたりから見る。
俺に向けられるのは、まず真顔。そして下から上まで視線を巡らせた後に、顔の筋肉をあまり動かすことなく口の端だけをあげて笑うのだ。
当時と同じ視線を向けられただけで昔の自分に引き戻されるような強さがある。
怖い。怖いくらい、魅力がある。
「出雲」
しかし俺の反応を一部始終眺めていただろう恋人が“今”を思い出させた。
「ただいま」
「おかえりなさい……」
顔が直視できない。けれど目を逸らすこともできなくて、俯きながらも目線だけ頑張って上へ向ける。
「今日のために……ズボン、用意したよね? どうしたの?」
「そうなのか?!」
水泡さんの指摘に真っ先に反応したのは背後にいる玲児くんだった。まぁそうなるだろう、玲児くんずっと俺の太ももをチラチラ見て気にしてたもの。
「この格好以外することないから忘れてました」
「はー? お前ずっと家でその格好なの? 加賀見の趣味? 下履いてんの?」
俺の言い訳(当然嘘だが)に今度は隼人がすかさず突っ込んでくる。4Lサイズの大きなTシャツでギリギリ隠れる部分をじろじろと見られ、つい裾を掴んできゅっと下へ伸ばす。
玲児くんと違って視線に遠慮がない。悪戯に煽ってみるなんてできなくて、ただただ羞恥心が刺激された。
「手、入れて……確認していいよ」
「まじ?」
「えっ、やめてくださいっ……!」
水泡さんの発言に驚く間もなく、躊躇いのない隼人の手が内腿に触れてきて、早口で制止する。裾を掴む手の力が強くなる。
足の間……内腿へ手が入って、そのまま性器に触れてしまうかとビクビクと怯えていれば、肌の質感や俺の反応を楽しむように、その手はお尻のほうへ滑っていく。
「や……」
なんで。やだ。なんで水泡さんの前でこんな。
助けを求めるように隼人の後方へ目を向ければ、はっきりと目が合った。俺の視線に気がついた水泡さんはなんの憂いも怒りもなく、ただ微笑む。
当たり前だ、助けてくれるわけがない。指示をしたのはこの人なのだから。
指先が、太ももとお尻のふくらみの境目をなぞる。あ、と息を飲んで身を震わせた。
「相変わらず、エロい肉のつき方してんな」
ゾクッときて、きもちいい。
俺にしか聞こえない声で囁かれた言葉が気持ちよくて、水泡さんを写したままの視界が滲む。
ぐらりと自分が崩れそうになるのを感じた時、風を感じたと同時に懐かしい指が離れていく。目の前の先生は動きを見せていない。
この体を貪る腕を掴んで俺の服から引き抜いたのは、愛しい人ではなく玲児くんだった。
「いい加減にしろ。本当に触るやつがあるか。何を考えている」
隼人は自分を睨む玲児くんを一瞥したあと、掴まれた腕を見て思い切り腕を払い除ける。払われて宙を高く上がった細い腕が痛々しい。
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