ブルガリブラックに濡れる〜恋人の元・セフレ(攻)を優しくじっくりメス堕ちさせる話〜

松原 慎

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メス堕ちさせた元タチへの愛のあるセックスの教え方⑫

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「はぁ……?」

 目を伏せて、乱れた浴衣の襟をいじる。

「俺じゃねぇよ。お前らだろ。勝手に触って、勝手に求めてくるんだろ」
「ちゃんと嫌だって、言えばいい。マネージャーに相談、すればいい。今までだって誘われてもあしらってきたんじゃ」 

 感情的にならないよう、淡々とした語り口で話すように心がけてはいたが、俯く隼人の顔色はみるみるうちに青白くなっていった。もしかしたらこれは逆効果で余計に怒っているように見えてしまったかもと、僕の方こそ落ち着かなければと煙草に口をつける。
 僕が吸うのに合わせて火種が煙草をチリチリ焼いて僅かに縮めていくのを見つめながら、自分の気が沈むのを待つ。
 しかしその時、視界の端に映ったテーブルに置かれた手がカタカタと小さな音を立てているのに気がついた。指の骨と木製のテーブルがぶつかる音。顔を上げると、ギュッと自分の二の腕を抱くようにして身を縮め、まるで倒れてしまわないようにテーブルに体重を預ける、隼人の痛ましい姿があった。
 それを見た瞬間、走馬灯のように過去の記憶が脳内を巡る。そしてそれが終わると真昼の太陽を急に浴びた時のように目の前が真っ白になって、強い光が瞬いて、頭痛に襲われた。
 これは紛れもない罪悪感だ。
 テーブルに拳を叩きつけるような勢いで煙草を灰皿に押し付け、カランカランと灰皿が浮いて回転しながら騒ぐのも無視して、隼人の震える腕を掴んで立ち上がる。

「やっぱり僕、君に痴漢した人……探す」
「顔覚えてねぇっつったろ?」

 ぐいと腕を引っ張っても、隼人は一緒に立ち上がることはしなかった。

「見たら……思い出す、かも。あんまり人に暴力を振るったことはないけど、殴る。ほっぺがいいかな」
「何言ってんだよ、いいって……離せよ」
「やだ!」
「は……」
「行くよ」
「行かねぇよ」
「行こう」
「いいっつってんだろ!!」

 最初は力なく戸惑い気味にやんわりと拒否していた隼人だったが、問答の末に声を荒げて投げ捨てるように僕の手を払った。

「いやだ」

 それでも、ちっとも引く気にはなれなかった。
 片膝をついて、駄々をこねるように身体を揺らして抵抗する両肩を掴む。隼人は僕の手首を掴んで引き剥がそうとしたが、左手の甲に浮かぶ引っ掻き傷を見ると攻撃的だった彼の手から途端に力が抜けていった。
 空中で行き場を失った手は躊躇いがちに僕の手の甲を覆い、そっとさすってくるのだった。

「……僕らがはじめ、どうしてセックスしたか……覚えてる?」
「あ……?」
「君が……性的に見られるのが、怖いって。固まって、動けなくなるって、言ったから。だから、抵抗……できるように。経験して、大したことないって、思えるように。君が君を守れるようになるために、僕に抱かれたんだよ」
「あっ…………そう、か。そうだ。そうだったよな……」

 一度怒りの火がついた瞳は切り傷を見つけた時点でほぼ鎮火していたが、ハッとして見開いたまま今度は表面が濡れていく。落ちるほどではない潤いは、大きな目が乾かないためなのか、感情から溢れたものなのかはわからない。

「俺、駄目じゃん……でも別に怖かったわけじゃねぇんだよ」
「ほんとう?」

 瞳を覗き込んで聞くと、丸くしたままの目をそらす。こんなの答えを言っているのと同じだ。

「僕の……せい。かな」

 隼人の反応に、また罪悪感でチカチカする。辛い。どうして今まで忘れていたんだろう。
 僕が浮かれているのは何もついこの間始まったことじゃなかったんだ。君に初めて触れた時から、ずっと僕は浮かれてる。

「抱かれるなんて、大したことじゃない……そう思えるようにって、君を抱いたのに。僕の勝手な欲望で、君をめちゃくちゃに……した。僕が一番、君を汚してる」

 君の全てを知りたくて、君の何もかもに触れたくて。快楽を徹底的に教えこんで、人類の頂点にだって立てそうな君でも立場の弱いメスにもなり得るのだと貶めた。
 少し触れられればとろけて、穴の中を抉られらばおしっこだって漏らしちゃうだらしない身体だと自覚させておいて、大したことないのだからちゃんと抵抗しろというのはあまりに残酷じゃないか。怖いに決まってるだろう。
 そんな身体なのだからこそ本当はしっかり守って欲しいけれど、性的に見られるだけでも“汚い自分”を見透かされたような気になって自分を嫌悪してしまうのかもしれない。脅えてしまうのだ。
 なんて事ないと感じないようにして、受け流してしまう。受け流して、ひっそりと傷つく君を見過ごしたくはない。

「責任…………とる」
「あぁ?」
「僕が、守る」

 首を傾げて僕を見上げる顔に、自然と口角が上がってしまう。腹が立ってるのに、目の前の君は可愛くて、そっちが勝ってしまう。
 でも怖い顔より笑顔を向けてあげたほうが安心するだろう。表情が変わらないと言われる僕を簡単に和らげてしまう君に自然な表情で語りかける。

「君が君を守れない代わりに……僕が君を、守る。君が怒れないなら、僕が怒る。僕が許さない。怒りに行くよ。殴りつけてやる。君が何も感じなくても、僕が怒るから」

 僕をじっと見つめ返す隼人の瞳が時折左右に揺れる。僕の右目と左目を交互に見ることで揺れるんだ。一生懸命に僕を見つめ言葉を聞いてくれているのが伝わる。僕の言葉がちゃんと伝わってる。

「僕はね、君が……大好きなんだよ?」

 だからとっておきの大好きを伝えて、抱きしめた。

「汚れてる部分も全部、大事にする。君が大事に思えないところは、僕が大事にする。まるごと」

 片膝をついたまま、いつもより高いところから、君の全部を包めるように胸の中で、抱きしめた。

「だから、僕だけのものでいて」

 何故だろう、隼人を抱きしめている僕の手が震えそうになって、指先にぐっと力を込める。密着しているせいで跳ね返ってくる自分の心臓の音が大きく早く感じる。
 原因が分からなかったけれど、僕の背に腕を回して抱き締め返してくれた隼人の言葉でその理由がわかった。

「……プロポーズかよ」

 プロポーズ、というわけではない。でも純粋な愛の告白であったことは間違いない。
 身体でいうことを聞かせるわけではない、無理にでもわからせたいとか押し付けたいとか、そんなものではない、純粋な。

「プロポーズ……君と、ずっと一緒にいたいから。間違いではない……?」
「……お前、心臓バクバクいってね? なに、緊張してんの? 興奮?」
「わかんない……」

 僕の胸に頬と耳をぴったりとくっつけて、心臓の音をよぉく聞かれている。なんだか恥ずかしいと落ち着かないでいたら、腕が伸びてきて頭を撫でられた。

「君の体温、あったかくて気持ちいい」
「じゃあ早くぎゅーってすりゃ良かっただろ。俺はくっつきたかったし早くセックスしたい」
「さっきまで震えてたのに……えっち、嫌じゃ……ない?」
「……お前なんか勘違いしてるよ」

 頭を撫でていた手は僕の腕の中へ戻ってきて、やや肌蹴た浴衣の胸もとから指先が入ってくる。指の腹が肌を撫でながら、ゆっくりゆっくりと奥へ侵入してくる。
「当初の目的果たせてんじゃね? ケツ掘られるのなんざ大したことねぇって今は思うし。言ったろ? 俺、嫌じゃねぇんだよ? 怖くなくなった。すげぇじゃん、大成功」
 指先が僕の胸の先に触れてくる。ホテルについてずっとお預けを食らった状態の男性器がぴくりと小さく跳ねて反応した。

「ん……うそつき」
「嘘じゃねぇよ」
「話しながら……顔色悪くして、震えてたのに?」
「それは……」

 言葉を選んでいる間、床にのの字にを書く代わりにずっと転がされ、我慢できなくなりそうでぎゅっと下唇を噛む。
 乳首が、というより下半身がムクムクと起き上がっていき、熱くなっているのが堪らない。隼人のお尻に擦りつけたい。

「そんな自分が気持ちわりぃなぁって思うから。吐き気すんだよ、自分に」

 そんな僕を見て目を細めながら、そんなこと言わないでくれ。お願いだから。

「お前だけがいいけど……」

 胸をいじる手はそのままに、密接した二人の腹の間、さらにもっと下を左手が探る。僕を見つけた指先が触れた時、声が漏れた。それを見て隼人はハッと意地悪く口の端だけを吊り上げて笑う。

「俺たぶん、もう他の奴に抱かれても平気。むしろさー、やっぱ俺ってこんなだよなって安心するかもな」
「はやと……ちゃんと、聞きたいから。手、止めて」
「だめ。聞きたかったら理性と戦ってろよ」
「いじわる、だな」
「襲っていいんだぜ、このギンギンにおっ立てたチンポぶち込めよ。さっきおっさんに穴んとこぐりぐりされてからケツ疼く……」

 ああもう最悪だ、そんなこと聞かせないでくれ。でも内緒にされるのも気に入らない。本当に殴りに行きたい。僕の可愛い子だ、こんなに、こんなに傷つけて。許せない。
 相手にとっては些細な悪戯に過ぎないのかもしれない。
 それでもこの子は性的に求められてしまう自分に何度でも絶望してしまうんだ。
 いや、違う。
 求められて、答えるのが正しいのかもと思ってしまう自分に、絶望する。
 僕も君を絶望させた一人だと考えると闇に溶けてしまいそうになる。
 それだけでなく未経験だという君の最後の抵抗を奪ってしまったのは僕なのだから、尚更たちが悪い。あのエレベーターで僕が君にしたことは今と違って愛しさなどなく、紛れもなく悪戯心や好奇心だったのに。
 でもこんな僕だったのに君は腹の中まで唯一受け入れて、最初からずっと僕しか受け入れたくないと言ってくれていた。
 学生時代ほんの少し助けた僕を信頼してくれた。あれからずっと心地好い距離にいてくれたのと同じように。
 ねぇ、お願いだから君を守らせてほしい。
 それを償いだと言いたいところだけど、ただただ僕が、君がしてくれたことが嬉しくて仕方ないから。

「やだよ……こんな、て……なに。僕だけって、ずっと言ってくれてる。君のほんとうは、そっちだ」

 瑞生の隣にいることだけ求めているのが本当の君。
 それでも僕に甘えたい一心で、一生懸命に僕を中へ受け入れてくれるのが本当の君。
 僕はそうだと信じてる。

「ははっ……お前じゃないとヤダ、お前にしか見せたくないってずっと思ってたけどさ……疲れるよな。なんか緊張する、ずっと。いつか壊れたらって怖くてびくびくしてるのが嫌だから、いっそ自分の手で壊しちまいたくなる。諦めたくなる」

 でも僕の想いは君にとっては重荷なのだろうか。
 隼人の柔らかい髪を撫でつけて耳にかけ、頬を寄せる、唇を寄せる。細い首に手のひらをくっつける。僕の手が収まるように反対側の肩を縮め、首筋を伸ばしてくれる。綺麗に伸びた筋を、手のひらを少しづつ移動させて一箇所だけではなく自分の手の至る所で感触を味わい、覚える。
 触れている首から脈がドクドクと早く打っているのが伝わってくる。一分間に百回ほど、運動している時や緊張している時にも見られる早さだ。

「……絶対、後悔するのに?」

 ゆっくりと瞼を下ろして、直後細かい瞬きを繰り返した隼人は、最終的に目を閉じた。
 そうして僕の性器を握る手をゆるく上下させながら、下へ吸い寄せられるような低く沈んだ声で静かに話す。

「後悔するだろうな、死ぬほど。でももう終わるじゃん」
「終わる?」
「そうだよ、楽だろ。その後は誰に抱かれるのもどうでも良くなるわけだ。セックスすりゃみんな優しくなる、シンプルだろ。痴漢はどうでもいいけど、カメラマンならさ、いい仕事してくれるようになって親しくもなれるだろ? セックス上手かったら気持ちよくって一石三鳥だぜ?」

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