ブルガリブラックに濡れる〜恋人の元・セフレ(攻)を優しくじっくりメス堕ちさせる話〜

松原 慎

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抱かれたくて堪らない僕だけにウケな君を絶対に抱けない看護の夜⑦

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 居心地の悪さを誤魔化すために唇を合わせようとしたら、ふいっとそっぽを向かれてしまった。
 あんなにダメって言っていたもんなとため息をついて、頬に口づける。

「なんか…………くらくら、する……喉渇いた……」

 事は終わったのに荒い息のまま真っ赤な顔をして訴えられ、高ぶっていたあらゆる気持ちにチクリと氷柱が突き立てられた。
 熱が上がってしまっただろうか、早く片付けないと、熱を計って、寝かせて、ああそうだ薬を買いに行けてない。
 焦る。胸を上下させながら呼吸するのが視界に入るだけで気が急いて、ヘッドボードに設置されたティッシュを二度ほど取り損ねてしまった。やっと掴んで、精液まみれの互いの手を拭って、隼人のあらゆる体液で汚れた自分の太ももの水分も拭き取って、バスルームへと急ぐ。
 フェイスタオルとバスタオルが二枚ずつか、追加でレンタルしないと足りないだろうか。とりあえずフェイスタオル一枚はお湯で濡らして身体を拭いて、バスタオル一枚で汚れたベットをどうにかして。毎回隼人が汚してしまうから予めタオルを敷いておくのに今日はこんなつもりなかったから忘れていた。いやでもその前に買っておいたスポーツドリンクを飲ませた方が。
 ダメだ。何をこんなに焦っているんだか……冷静にならなければ。

「みなわぁ……?」

 しかしベッドから弱々しく自分を呼ぶ声が聞こえてくると、胸がそわそわしてしまって落ち着けなかった。
 蛇口から出てくる水が温かくなるのを待っているだけでイラだってトントントントンと爪先を鳴らしてしまう。一秒でも早く顔を見せてあげたい。
 あんなに辛そうにしている子がいて、どうして放置などできるのだろう。
 痛々しくて、早くどうにかしてあげたくて僕まで苦しくなるくらいなのに。
 けれども……気持ちが全くわからない訳ではない。
 近くに人がいたところで体調が変わることはない。症状に合わせた処置さえすればあとは寝かせておけば問題はないのだ。
 気持ちがどうこうで体調が変わるわけない。
 僕も養護教諭時代はそう思っていたからわかる。
 よく絞ったタオルと、スポーツドリンクを手にベッドへ戻る。隼人はゆらりと視線を動かして僕を見上げるとゆっくりと表情を変えてふわりと笑った。思わず笑みを返してしまうような、いじらしくなる顔だ。

「ごめんね。少しだけ、起きようか」
「だっこ……」
「うん、掴まって」

 ぎゅっと抱きしめて、肩にしがみついた隼人を支えながら身体を起こす。よほど喉が渇いていたのだろう、ペットボトルの蓋を開けて渡してやると、んくっんくっと喉仏を上下させて一気に半分ほど飲んでしまった。水分を摂取できるのはいいことなので安心した。

「少し、身体拭こう」
「う……転がりたい……」
「ごめんね。少し、我慢しようね」
「んん……」
「いいこだね、頑張ろうね」

 濡れたところにバスタオルを敷いて、全身をよく拭いて。やっと身体を横に倒した隼人は何がおかしいのか「へへへ」と笑っていた。

「どうしたの?」
「みなわ、ずっとすっぽんぽん……でっけーちんこちょーぶらぶらしてて、へへ、面白かった。ふふ」
「ああ…………ガウン…………あ……落ちてる」

 ベッドの上に置かれていたのだろう、無惨にもベッドの足元にガウンはぐしゃりと転がっていた。二枚拾って片方は羽織り、片方はベッドへ。

「みなわ……」
「うん?」
「今日、は、俺寝るまで……なんか話、してくれよ……なんでもいーから……」
「え……はなし……? 得意じゃないのだけど……」

 ベッドに腰掛けながら、隼人の方を振り返る。すると何度も瞼が落ちては目を開いてを繰り返している。

「俺さ、体調悪くても……いつも、すんなり寝れねぇから……」

 声も小さくて、吐く息の音と混じって眠たそうだ。額に手を当て、眉の方へ流すように繰り返し撫でる。その度に瞼は落ちて、やがて目を閉じたままになった。

「うん。わかった。何、話そうかな」
「ん……」

 そうしてすぐ、すぅすぅと小さな寝息が聞こえてくる。

「もう、寝ちゃった……」

 可愛い。呼吸は荒く辛そうなのに、薄く微笑んでいる表情からは安心して眠りについていることがよく窺える。
 頬を撫でて、首筋に手を当てる。脈が少し早い。体温も計ってみて、まだギリギリ空いてるドラッグストアがないか調べてみるか。
 そう、思ったのだが。
 隼人から目が離せなくて。少しもここを離れたくなくて。
 熱のこもった額に手を当てたまま、動けなくなる。
 目を覚ました時に僕が居なかったら不安に思うだろうな。この瞼が開いた時にすぐに微笑んであげたいな。そしたらホッとした顔をして笑ってくれるかな。
 その顔を想像して、口元が綻んで、虚しくなった。
 隼人が体調を崩した時には自分がそばにいてあげたい。
 何でもしてあげる。
 今日みたいに気持ちよくしてあげてもいいし、添い寝してあげたって、手を握っていてあげたって。今日は準備がないけれど、感染対策は完璧にとって、隼人が何も気に病まないように看病してやりたい。

『俺のこと嫌いになんないで、ンッ、嫌いになりたくなんないでぇ……っ! いい子に、ぁ、するから……あっ……ぁっ……』
『みなわ、しゅき、すき、すき、だいすきぃ、すきぃ』

 あんなに。
 あんなに必死で求めてくれる。僕がいないと生きていけないというほど求めてくれる。
 僕より素直にたくさん、君は僕を求めてくれる。
 それでも僕はこの子の恋人ではなくて、一番ではなくて、今回はたまたま得た機会であって本来は看病する立場にはない。
 隼人の僕を求める声が耳にこびりついて離れない。いつでも、どんな時でも、その声に応えてあげたい。あげたいのに。
 実家暮らしの隼人の家に、恋人を差し置いて僕が看病をしに上がり込むなんておかしいだろう。何もない時だとしても違和感があるのに。
 彼の義両親はまだ四十代のはずで、もしかしたら僕は隼人より彼らに年齢が近いのではないか。少し考えただけでも面倒くさいことになりそうで、紹介してほしいとも思わない。
 ホテルで看病なんて特例だし、僕の家に連れ去ろうにもそこには出雲がいる。
 出雲。
 出雲は僕が体調を崩した時、そわそわとしながらもそっとしておいてくれる。僕がそうしてほしいからだ。
 そうしながらも時折様子を見に部屋を覗いてきて、僕が動きを見せなければそのまま物音を立てずに立ち去り、目が合えば声をかけてくれて欲しいものを用意してくれる。
 そのついでにひんやりと冷たい手を額に当てたりして、具合はどうかと気遣って、微笑みかけてくれる。特に不安など感じていなかったはずなのに、なんだかホッとしてよく眠れるような不思議な感覚。それはとても心地いい。養護教諭時代と違って僕はそれを知っている。
 隼人にもそんな心地良さを知ってほしいと思う僕は、別の角度から見れば薄情な男なのだろう。わかってる。最低だ。
 それでも隼人が僕に泣きながら訴える、嫌いにならないでと好きだ大好きだと言う声が頭から離れない。
 ずっとずっと僕に呼びかけてくる。求めてくる。
 嫌いになるわけない。僕だって大好きだ。
 君とずっと一緒にいたいって、何年も一緒にいるとかそんな話じゃなくて、いつだって君と一番一緒にいたいって思っている僕が、僕の方が、君に嫌われたくないし、君が大好きだよ。
 虚しい。
 あんなに、求めてくれるのに。
 どうして。
 声が止まない。

 ――嫌いにならないで。
 嫌いになれないよ。

 ――好き。好き。大好き。
 僕だって大好きだよ。

 ――水泡、好き。ずっと一緒にいて。
 僕だってずっといつだって一緒にいたいよ。

 虚しい。
 どうしてそんなに求めてくるのに僕は君の何者にもなれない。
 セフレ。そう呼ぶのはもう嫌になってしまった。君は敢えてそれを強調したりしてくるけれど、自分への戒めなのか僕への牽制なのか僕にはもう客観的な判断がつけられない。
 顎に引っかかったままのマスクを外し、頬に触れる。親指で唇を撫でる。はむ、と親指を唇で挟んできて、頬を擦り寄せてくる姿に堪らない愛しさが込み上げてくる。
 どうしてこんなに求めてくるくせに、僕を本当の意味で愛してはくれないの。
 煙草に手を伸ばす。一本を唇で挟んで、火を点けようとしたが、眠る隼人をチラと見てやめる。
 煙草を箱に戻しながら君の泣き顔を思い返していたら、肺からしゃくりあげて息苦しさを感じた。
 そうして気がついた時には彼からもらい泣きをしてしまったかのように、僕は嗚咽を漏らしていたのだ。
 何かと思って自分の頬に触れ、濡れてるのを確認し、少しだけ驚いて。大きく開いた目を閉じて、目尻を拭って、ため息混じりに笑うしかなかった。
 それは一筋垂れれば引いたが、脱力感が強く、煙草も吸えず、ただぼんやりと天を仰ぐ。
 そうやって考えていたのは隼人のことではない。

 ――……出雲と、話をしなきゃ。

 何を、なのかはわからない。ただ話をしなくちゃいけない、もう逃げていてはいけない。自分の中でその決意が固まったことだけがハッキリとわかったのだった。








 寝汗が気持ち悪くて目が覚めたが、水泡に抱き枕の如くぎゅうぎゅうに抱きしめられており、なかなか抜け出すことができなかった。

「んだよ、もぉッ……このっ……」

 腕を掴んでぐーっと外側に引っ張って、身体を左右に振りながらスポンと下からなんとか抜け出す。髪の毛はすっかりぐしゃぐしゃになってしまったが、空気が肌に触れる感覚と開放感でスッキリとした。ふぅ、と手の甲で額を拭ってベッドから離れる。
 なんか身体だる。シャワー浴びよ。
 つかなんだっけ俺、なんか疲れてんなーって思ってたら熱あったんだっけ。せっかく時間作ってくれたのに水泡には悪いことをしてしまったな。
 シャワーの前に時間とかいろいろ確認しておこうとスマホを探していたら、テーブルの上の灰皿が目に入ったがスルーした。でもやっぱり妙に気になって二度見する。
 なんか違和感あるな。なんだろ。水泡の煙草とライターはあるけど、あ。
 灰皿、空っぽじゃん。
 マジかと思ってベッド脇にあったゴミ箱を覗く。くっさ。クセェ。イカ臭い。水泡め。しかし吸殻はない。
 そのままユニットバスに行って、そこのゴミ箱も見たが吸殻は見当たらず。
 マジか、あいつ。
 あんまり驚いてそのままスマホを見つけることをせずシャワーを浴びた。
 マジか、あいつ。
 マジかー。
 俺の体を気遣って?
 まじ?
 頭に浮かぶのはそればかり。



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