ドラゴンに転生したら少年にテイムされました 〜心優しいマスターの夢を叶えるため、仲間と共に戦います〜

白水廉

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第2話 第二の人生

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「兄ちゃん……。僕、天国に行けるかな……?」
「行けるに決まってるさ! 勇斗はこんなに頑張ったんだから!」
「そっか……。それなら怖くないや……。兄ちゃん達のことはちゃんと天国から見守ってるから、僕の分まで精一杯生きてね……」
「……おう! 男と男の約束だ! 俺が死んじゃった時は土産話をうーんと持って行ってやるから、いい子に待ってるんだぞ!」
「あはは……。ありがとう、兄ちゃん。それじゃあ僕はもう行くね……。じゃあね、兄ちゃん。お父さん、お母さん」


「ガァァァァルッ!」


 何だ、今の声は!?

 って、俺の声か……。また、あの頃の夢を見ていたんだな。

 ところで、ここは一体どこなんだ?
 真っ暗で何も見えないぞ。そもそも俺は何をしてたんだっけ。

 ――あっ、そうだ、少年に矢で射抜かれたんだ!
 早くも死んだと思ったけど、どうやら生きているみたいだな。
 またあの少年に見つかる前に、早くここから逃げなきゃ。

 そう考えて暗闇の中を歩き出した瞬間、

「グルァ!」

 何か硬いものに頭をぶつけた。

 手を伸ばして調べてみると、冷たく硬い棒状の物が何本もあることに気付く。
 なんなんだ、これは。
 どうやら棒に囲まれているみたいだけど――ん、何だ!?

 急に明るい光が視界を覆い、思わず目を閉じてしまった。

「オ、ネダンタキオ! タッカヨ!」

 その直後、聞き覚えのある声が耳に届く。
 恐る恐る目を開けると、俺のことを矢で撃ってきた少年が笑顔で立っていた。

 同時に周囲を見渡すと、俺は銀色の棒に囲まれているのが分かる。
 この縦格子の形状と目の間にぶら下がっている南京錠からして、これは檻に違いない。

 くそっ! 気を失っている間に捕えられてしまったのか。
 このクソガキ! 一体俺をどうするつもりなんだ!

「ギャ! グルルァォォォン!」
「ン? アッ、タッカワ! ネダンハゴ! テテッマトッヨチ」

 おっ!? 言葉が通じたのか?

 少年は何か喋った後、どこかへ走っていった。
 鍵を開けてくれると信じて戻ってくるのを待つ間、改めて周りを見てみると室内にいることが分かる。

 あのクソガキめ、俺を倒した後にここまで運んできたのか。
 遠慮なく撃ってきやがって。
 傷もこんなに……って、これは?

 矢で撃たれた右腕を見ると、白い布が巻かれていた。それに今思えば、不思議と痛みもない。
 もしかしてあの少年が手当てを? それなら何で撃って来たんだ。
 うーん、意図がよく分からんな。

「セタマオ! ヨダンハゴ、アサ!」

 戻って来たか。さあ、ここから出してくれ!
 ……ん? 何してるんだ?

 少年は跪いて俺と目線の高さを合わせた後、檻の隙間から棒を突き出してきた。その先端には茶色くて、見るからにフワフワとした物体が刺さっている。

 これってパンだよな……。もしかして餌のつもりとか?
 俺は(おい! ここから出せ!)って言ったんだけど……。やっぱり伝わってないか。

 ――きゅるるるるる。

 あっ、パンを見てたらお腹が。
 そういえば、この姿になってから何も食べてなかった。
 せっかくだし貰っておくか。

 俺は棒からパンを抜き取り、口へと運んだ。

 うん、普通にパンだな。
 別に美味くも不味くもなく、本当にただのパンだ。

 にしても、ドラゴンにパンを与えるって中々変わった子だな。
 普通、生肉とかなんじゃないのか。
 いや、生肉だと抵抗があるからパンでいいんだけど。

「ラカルアイパッイダマダマ、ネテベタンドンド」

 少年は何かを口にしながら、再びパンを与えてきた。
 素直にそれを食すと、またもやパンを突き出してくる。

 これを繰り返している内に、もしかして悪い子じゃないのかもと感じ始めた俺は少年の顔を見上げた。
 すると少年は、優しげな笑顔を浮かべながら俺を見つめている。

 ――この笑顔、勇斗が見せてくれていた笑顔にどことなく似ている。
 それに多分、年も同じくらいだ。
 さすがに勇斗の生まれ変わりって訳じゃないだろうけど、見ていると何だか幸せな気分になるし、守ってあげたくなる。

 そんなことを考えていると、突然少年から笑みが消え、何やら緊張した面持ちで口を動かし始めた。

「ネノア、ノア、ナカイナレクテッナニマウュジノクボラタッカヨ。ドケダレボコチオイナエカツモウホマノクヤイケハクボ、テクタリナニーマイテモテシウド。ナカメダ?」

 いやいやいや、何を言っているのか全く分からん!
 ただ、こんなにも真剣な表情で話してる以上、無視する訳にもいかないよな……。

「ギャオ!」

 何が正解なのか悩んだ挙句、とりあえず声を上げてみる。
 すると、少年の顔がぱぁっと明るくなっていき、あからさまに喜び出した。

「ダウソ! ヤキナケツヲグンリ!」

 そして何かを思い出しだかのように言葉を発すると、机の引き出しから大きなリングを取り出し、俺に近づいてくる。
 何をしようとしているのか全く予想が付かず、ただ様子を眺めていると、驚くことに少年は檻の扉を開いた。

 そのまま俺を両手で優しく持ち上げると檻の外へと出し、俺の右足にリングを通している。
 直後、そのリングは自動的に縮小し、俺の足首にピッタリと収まった。
 それと同時に、リングに見慣れない文字が浮き上がる。

 おお! これは凄いな。一体どんな技術なんだろう。
 あんなに大きかったリングが俺の足にジャストフィットしたぞ。

「どう? キツくない?」

 ……えっ? 今日本語が聞こえたような。

「大丈夫っぽいね! 良かった!」

 間違いない。少年の言葉が理解出来るようになっている。
 このリングには翻訳機能が備わっているのか。原理は全く分からないけど、こいつはスゲーや!

 待てよ? それなら俺の言葉も通じるかも。

『えーっと、こ、こんにちは!』
「んー……、何て言ってるんだろう。まだご飯が足りないのかな。でもごめんね、さっきのでもう終わりなんだ。明日餌を買ってあげるから、今日は我慢してね」

 俺の言葉は通じないのか。まあ、こればかりは仕方ない。
 言葉が理解出来るようになっただけでも十分だと思おう。

「そうだ、名前を付けてあげなきゃ! うーん、何がいいかな」

 名前か……。俺には黒岩翔っていう名前があるけど、それは人間だった頃の名前だしな。
 今はドラゴンだし、新しい名前をこの子に付けてもらうのもいいかもしれない。

「決めた! 君の名前はアイズだ! 今日からよろしくね、アイズ!」

 アイズか。
 いきなり横文字ってのも気恥ずかしいけど、この子が一生懸命考えてくれたんだ。
 よし、これからの俺はアイズとして生きよう。

 それより、今日からよろしくってことは俺を飼ってくれるのか?
 平原でのんびりと暮らそうと思っていたけど、ペットとして生きられるのならそれはそれで悪くないよな……。

 ――よし、今日から俺は君のペットだ!

『こちらこそよろしく!』

 多分、ギャオオオンとしか聞こえていないだろうけど、とりあえず意思だけ伝えておくことにした。

「カイルー、もう遅いし今日はそろそろ寝なさい。あら、その子目が覚めたのね」

 声が聞こえたほうに目をやると、綺麗な女性が立っていた。
 同じ家に居るってことはお姉さんかな?
 あとカイルって呼んでいたけど、それがこの子の名前だなきっと。

「うん、母さん! 僕にテイムされてくれたんだ! 名前はアイズだよ」

 母さん!? 二十代前半にしか見えないけど、この年の子供が居るってことは少なくとも三十は超えているはず。
 カイル、お前は幸せ者だな……。

「まあ! お父さんにも伝えてあげないと! すぐに連れてくるから待ってて!」

 カイルのお母さんはそう言い残して、部屋から飛び出していった。
 中々賑やかな家庭なんだな。

「聞いたぞ、カイル! ドラゴンをテイムしたんだって!?」
「そうだよ父さん! この子はアイズ、僕の従魔になってくれるって!」

 カイルのお母さんが連れて来たのは、こちらも二十代前半にしか見えない若くて爽やかな男性だった。
 この世界の人達、外見が若すぎるだろ……。

 それより、さっきから口にしているテイムってどういう意味だ?
 それにジュウマ? ってのも聞き覚えがない。
 この世界ではペットのことをそう言うのだろうか。

「本当に良かったな! これでお前も一人前のテイマーだ! ただ今日はもう遅いし、そろそろ寝なさい。テイム出来たってことは明日出掛けるんだろ?」
「えっ、でも畑が……」
「子供が気を遣うもんじゃないぞ! 明日は俺達だけで十分だから、畑のことは気にせず出掛けてこい!」

 話を聞く限り、カイルの両親は農家なのか。
 それでカイルは畑仕事を手伝っているってところだな。

「父さん……、ありがとう! じゃあ今日はもう寝るね! おやすみ」
「おう、おやすみー」

 両親はカイルが部屋から出て行った後、扉を閉めた上に何故か鍵まで掛けていた。
 そして真剣な表情をしながら、二人とも俺のほうに近づいてくる。

 えっ? 口では喜んでいたけど、実はペット厳禁とか?
 もしかして、このまま捨てられたりしちゃうのか?

「君は……アイズ君だったか。本当にありがとう、カイルにテイムされてくれて」
「ええ、本当に……。何てお礼をしたらいいのか。あの子があんなに喜ぶ顔、久々に見たわ。これからカイルのこと何卒よろしくお願いします」

 えっと、これは一体どういう状況なんだろう……。
 何か凄く感謝されているのは分かるけど、俺は特に何もしてないぞ。
 そんなにペットが欲しかったのか?

 ま、まあ、とりあえず返事しておかないとな。

『はい! よく分かりませんが、どういたしまして!』

 そう返すと二人は俺に頭を下げた後、笑顔になって部屋から出ていった。

 本当に何だったんだ……。
 まあ、受け入れられているみたいだし、別に気にする必要ないか。

 はぁ~、色んなことがありすぎてドッと疲れたな。
 まさかドラゴンに生まれ変わった上に、異世界でペットとして飼われることになるなんて。でも、これが現実だし受け入れるしかない。

 今日からの俺はアイズ。カイルのペットとしての人生、いや竜生というべきなのか?
 とにかく新たな日々の始まりだ!
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