ドラゴンに転生したら少年にテイムされました 〜心優しいマスターの夢を叶えるため、仲間と共に戦います〜

白水廉

文字の大きさ
8 / 32

第8話 強くなるために

しおりを挟む
「じゃあ父さん、母さん。僕はアイズをピピ達のところに送るから、先に行くね」
「おう。ピピちゃん達にもよろしくな」
「うん! また後で。じゃあ、行ってきます!」

 カイルはいつもより一回り大きいバッグを背負い、俺を肩に乗せて家を出た。

 そうしてたわいもない話を聞きながら数十分が経った頃、とある豪邸の前でカイルは足を止め、立派な門扉を開いて敷地の中へと入った。

 もしかしてここがリリの家? 凄いな、大金持ちが住む家じゃないか。
 カイルは特に驚く様子も見せず家の扉の前まで歩くと、取り付けられている金具で扉を軽く叩いた。

 すると大きな扉がゆっくりと開かれ、モモ達が俺とカイルを出迎えてくれた。

「おはよう、ピピ、モモ、ポポ。それじゃあ、アイズのこと頼むね。このお礼はいつか必ずするから」
『ええ、おはよう。お礼なんて別にいいわ。って言っても、伝わらないけど』
『任せときな、カイル。六日後までにアイズを一人前にしてみせるさ』
『カイルも……お仕事頑張って……』
「じゃあアイズ、僕はもう行くね。また六日後の夕方頃に迎えに来るから」
『おう! またな!』

 カイルは俺とバッグを地面に降ろし、リリの家から出ていった。

『それじゃあ、ピピ、モモ、ポポ。今日からお世話になります』
『任せてちょうだい!』
『昨日も言ったけど、これはカイルのお祝いだからね。あんたは気にせず、強くなることにだけ集中すればいいさ』
『アイズ……ごめん……。ポポは……』

 ピピとモモとは対照的に、ポポは悲しそうに俺に謝ってきた。

 えっと、謝られることなんて何もないけどどうしたんだろう?
 そう疑問に感じていると、モモが説明してくれた。

『ポポは補助魔法が中心でね。今日からの特訓であんたにしてやれることは特にないのさ。だから、ポポは力になってあげられないと昨日から落ち込んでいてね』

 補助魔法って動きが早くなったり、攻撃が強くなったりする、あれのことか。
 確かにこれはトレーニングだから、そういった魔法に頼ることはないけど、ポポが気にする必要全くないのに。

 そもそも、こういう話になったのもポポがリリに伝えてくれたお陰だからこそだし、それで十分過ぎる。

『ありがとう、ポポ。ポポには昨日お世話になったから、それで十分だよ』
『でも……ポポだけ何もしないのも……』

 困ったな……。気にしなくていいと伝えると、却って逆効果になりそうだ。
 こうなったら――

『それじゃあ、ポポには応援していてもらおうかな!』
『応援……?』
『ああ! ポポみたいな可愛い魔物が応援してくれれば、俺も一層頑張れるからさ!』
『……分かった……。頑張る……!』

 少しの沈黙が流れた後、ポポは明るい声でそう返してくれた。

 ほっ。上手くいったみたいだ。キザ過ぎて恥ずかしいけど、こればかりは仕方ない。
 そう自分自身を納得させているとピピとモモが近づいてきて、内緒話をするようにコソコソと話掛けてきた。

『やるねぇ、アイズ』
『よっ、色男!』

 くっ、からかいやがって……。そう言われると、余計に恥ずかしくなってくるじゃないか!

『まあ、それは置いていて……。その荷物は何だい?』
『ああ、これは――』

 俺はカイルが置いていったバッグを開き、中から鉤爪を取り出した。
 昨日カイルが用意してくれたんだよな。

『それが昨日言っていた武器ね。流石リリ、アイズにピッタリだわ』
『よし、それなら早速付けな』
『えっ、でも、これを付けたらモモが危ないんじゃ……』
『大丈夫よ。傷ついても、あたしが魔法で回復してあげるから』

 ピピは傷を癒す魔法を使えるのか。
 多分、カイルが使った薬と同じような効果があるんだろうな。それだったら大丈夫か。

『そういうこと。だから遠慮はいらないよ。まずはあんたの実力を知りたいから、本気でかかってきな』

 モモは中庭に移動し、どっしりと腰を落としてそう言った。

 よし、そういうことなら――

 俺は鉤爪を装備した後、思いっ切り地面を蹴った。
 そしてモモの元にまで駆け寄ったところで、力任せに腕を振り下ろしてみる。

 しかし、鉤爪はむなしく空を切り、そのまま地面に突き刺さってしまった。

 くそっ! もう一度だ!

 俺は再びモモに向かって走り出す。近づき、今度は横に腕を振るうと、

『甘いよっ!』

 太く立派な三本の爪で受け止められてしまった。

『さあ、どんどん来な!』
『頑張れ……! 頑張れ……!』

 モモは後ろに飛び退き、次の攻撃を促してくる。
 言われるがまま突進しては腕を振るうも、いかにも余裕といった様子でかわされてしまう。

 その後も何度か一撃を浴びせようと試みたものの、かわされたり、爪で防がれたりして難なくいなされてしまった。

『はぁはぁ……』
『おや、もうバテたのかい? 仕方ない、ここらで少し休憩にしようか』

 ふぅ、もう限界だ……。
 こんなに疲れたのは、学生の時に体育の授業で持久走やシャトルランをした以来だ。

 ドラゴンになったからといって、体力が増える訳じゃないんだな。
 それとも、ドラゴンとしての体力がこれなのかもしれないけど。

『はい、アイズ。お水どうぞ』

 座り込んで息を整えていると、ピピが木製のコップを手渡してくれた。

『ありがとう! ――って、ピピ。何も入ってないんだけど……』
『今から入れるのよ。えいっ!』

 可愛らしい掛け声が聞こえた直後、ピピが伸ばした手の先に水の塊が現れる。
 その水はふわふわと浮かび、コップの中へ入ると液体に変化した。

『おお! 凄いな、こんなことも出来るんだ』
『まあね。あたしは光と水の魔法を使えるから』

 俺はコップを口に運び、注いでもらった水をグイっと飲み干す。

『ぷはぁ! 生き返ったよ、ありがとう。そういえば、その魔法って俺も使えるのかな?』
『うーん。今まで魔法を使えるドラゴンなんて聞いたことないから使えないんじゃない? 実際はどうなのか分からないけど』
『そっか……』

 もしかしたらと思って聞いてみたけど、やっぱり使えないみたいだ。
 まあ、そんな力を感じた試しもないから、きっとそうなんだろうとは思っていたけど。

『何、気にすることはないさ。アタシの種族も魔法なんか使えないし。あっ、ピピ、アタシにも水もらえるかい』

 離れたところに座っていたモモがポポを連れ、こちらに近づきながらそう言った。

『へえ、そうなんだ』
『魔力は流れているけど、魔法を使えるかどうかってのは別の話だからね。魔法を使えない種族は多いし、落ち込む必要はないよ。その分、肉体で頑張ればいいさ』
『そ、そうだね。ありがとう』

 落ち込んではいなかったけど気遣いを無駄にするのも悪いし、お礼を言っておいた。

『さて、そろそろ再開するとするかね。今度はアタシに傷を負わせるまで休憩はナシだよ!』
『ああ、分かった! それじゃあ行くぞ!』
『アイズ、頑張れ……! モモも頑張れ……!』

 俺はモモに胸を借りて、何度も攻撃を仕掛けた。
 振り下ろした鉤爪はことごとく防がれてしまうものの、試行錯誤を重ねること数十分、ある作戦を思いつく。

 それを実践するため、一気にモモの間合いに踏み込んだ。
 そして右腕を高く振り上げると、その動作に反応したモモが腰の辺りに爪を構える。

『ダメだね! 予備動作で丸わかり……って、あら?』

 背後からモモの驚いたような声が聞こえた直後、俺は腕を伸ばしたままクルリと振り返る。
 それによって、遠心力が加わった鉤爪がモモの背中を引き裂き、三本の傷を残した。

『うっ! あ、あんたいつの間に背後に!』
『話は後! ほらっ、傷を治すからジッとして』

 駆け寄ってきたピピが手を伸ばすと、モモの背中が眩く光る。
 そうして十秒ほど経って光が消えると、痛々しい裂傷が時を巻き戻したかのように綺麗に塞がっていた。

 これが回復魔法というやつか。いやはや、本当に見事だな。

『ありがとさん。それでアイズ、あんたは一体どうやって背後に回ったのさ?』
『股を……くぐり抜けてた……』

 ポポの言う通りだ。
 俺は腕を振り下ろすと見せかけて、そのまま股下をくぐっただけ。

 サッカーで言うところの股抜きだ。
 この場合、俺がサッカーボールになるけど……。

『そうだったのかい。全く気が付かなかったよ。やるじゃないかアイズ』

 モモは俺の予備動作を見て攻撃を防いでいたからな。
 意識をそっちに取られていたから気が付かなかったんだろう。

『ありがとう、モモ!』

 ただ、これは俺とモモに体格差があった上に、モモが攻撃しないという条件があったからこそ通用したに過ぎない。
 俺自身が強くなった訳じゃないから、もっともっと頑張らないと。

『ああ! そうしたら次に移りたいけど、その前に休憩を挟むかい?』
『いや、このまま続けてくれ!』
『そうかい、良い心意気だ! じゃあ今度はアタシから攻撃するから、あんたはそれをかわしな。もちろん力の加減はするけど、当たれば深手は避けられないから真剣に避けるんだね』
『……えっ?』
『行くよっ!』

 言葉と共に、モモはその太い腕を俺に向かって振り下ろしてくる。

『ひぃっ!』

 思わず情けない声が漏れてしまったものの、横に飛び退いたことで何とかかわすことが出来た。

『大丈夫よ、アイズ。傷を負っても元通りにしてあげるから』
『頑張って……!』

 いくら治せるといっても、あれを食らうのはごめんだ!

 俺はモモと一度距離を取り、彼女の攻撃に備えた。
 それを確認したモモは腰を深く落とすと、地面を力強く蹴ってこちらに近づいてくる。

 そうして俺の間合いにまで入ると、右腕を大きく振り払ってきた。

 ――これなら、後ろに飛び退けば避けられる!

 両足に力を入れて後方にジャンプすると、直後、俺の目の前を勢いよく爪が横切る。
 新たな攻撃に備えるため顔を上げると、既にモモの左腕が振り下ろされていた。

 もう避けられない! こうなったら!

 俺は咄嗟とっさに鉤爪を頭の上でクロスさせ、攻撃に備えた。
 すぐ後、ガキン! という金属同士がぶつかったような音が聞こえたと同時に、腕に強い衝撃が走る。

『よく受け止めたじゃないか! さあ、どんどんいくよ!』

 モモはそう言って少し離れた後、再び距離を詰め腕を振るってくる。
 それに対して、俺は寸前のところでかわす。

 そんな流れを続けること一時間ほど経った頃、モモが口を開いた。

『流石小さいだけあって身軽だね。それなら防御面は心配なさそうだ。少し休憩したら、また攻撃面を鍛えようか』
『ぜえぜえ……。……分かった、ありがとう』
『お疲れ様、モモ、アイズ。はい、お水』
『二人とも……頑張った……!』
『ピピとモモもありがとう』

 数分だけ休ませてもらった後、再度モモに相手をしてもらった。

 その稽古は数時間続き、完全に日が落ちたところで今日の特訓は終えることとなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

処理中です...