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閑話 初めてのお友達(後編)
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予期せぬ事態になってしまったが、三人はこのままこの島で試験を続行したいようだった。
ランラとしても、そうしてもらえたほうがスムーズなので、兵士に聞いて他に危険な動物がいないようであれば三人の意思を尊重することにした。
それからはタズハが言った「食料になる」という理由により、わざわざイノシシを船のところまで運ぶと、兵士を呼ぶ。
聞こえてきた「はーい」と何ともお気楽な返事にランラはプッツン。
三人の手前、我慢するつもりだったが、耐えられなかった。
「これはどういうことですか?」
三次試験で使われる無人島は、生息していた獰猛な獣の駆除だったり、水や食料が潤沢にあることの確認だったりが軍によってなされている。
だから安全、安心して参加してほしい――と、試験の案内書にもそうはっきり書かれており、しかし蓋を開けてみればこの有様だ。
今回はタズハのおかげで何事もなかったが、下手すれば死人が出ていたわけで、そうなれば試験は中止。
敬愛する王族の名が、彼女ら兵士の粗末な仕事によって汚されるところだったと考えると、苛立ちが止まらなかった。
結果、ミスティに宥められるまで兵士を詰めてしまい、そこは少し反省。
本来の目的である生息している動物の種類について聞くと、イノシシ以外には特に危険な生物はいないとのことだったので、このまま試験を続行することに決まった。
ちなみに兵士は責任問題を恐れてか、この島での試験続行を嫌がったが、それはランラの「何か?」の三文字と圧によってねじ伏せられていた。
その後はミスティと一緒に洞穴を探しに行き。
事前に兵士から大体の場所は聞いていたのですぐに見つけられ、そこに皆で移動すると、夕食としてイノシシ肉を食した。
獣臭かったり、内臓ということもあって生臭かったりするのではないかと思っていたが、全然そんなことはなく。
想像よりも遥かに美味しくて、ランラは目を丸くした。
でも、それ以上に驚いたのは、誰かとわいわい話しながらする食事はこんなにも楽しいものなのかということ。
王族一人一人に、従者が最低一人は常に付き添っていなければならないため、フォルスタ家では交代で休息をとっている。
だから食事は基本的に一人。
偶然家族の誰かと食事の時間が被ったとしても、その時に話す内容はほとんどが業務連絡だ。
それ故、美味しい食事にテンションが上がることはあっても、食事という行為そのものが楽しいと思ったことは一度もなかった。
そうしてお腹がだいぶ膨れてきた頃。
タズハ、ロロネ、ミスティの順番で、お互いにこの王妃選抜試験に参加した理由について話した。
タズハとロロネの話は既に船の上で聞いていたが、二度目でもやはり胸が痛んだ。
そして語られたミスティの話については、ただただ驚いた。
ミスティ曰く、彼女の父は周囲の領主から僻まれており、根も葉もない噂を流されている。それが王族の耳にも入っているのか、功績を全く評価してもらえていないとのこと。
フォルスタ家はあくまで従者の家系なので、政治については一切関与していない。
貴族社会への関わりもないため情勢もわからず、ランラにはミスティの話の真偽はつかない。
なので話半分で聞くしかないが、本当だったら大変なことだ。
(陛下の耳に入れておくべきでしょうか。でもわたしごときがそんな出過ぎた真似をするのは……ミスティさんが嘘をついている可能性もありますし。いや、でも今のミスティさんを見てるとそんなことをするようには――)
気の毒そうに眉を下げるランラは、頭の中でひたすらに悩んでいた。
☆
日常の中でランラが接するのは、王族と家族、そして共に王家に仕えるアミール家とテテンサ家の人間のみ。
それらの家にはもちろんランラと同年代の女子もおり、時折お茶をしたりもするが、そこでの会話の内容はやはり仕事に関連すること。
お互いに仕事仲間という認識が強く、雑談に花を咲かせたり、一緒に遊んだりするような相手は一人もいなかった。
そんなだったから、タズハたちと過ごしたこの数日はとても楽しかった。
もっともっとこんな日々が続いたらいいのに、と思った。
でも、それももうおしまい。
今日で無人島生活は終了。
この後、自分は正体を明かし、三人に結果を伝えなければならない。
――タズハとミスティは合格、ロロネには不合格という結果を。
ロロネは結局、初日以降も体力不足は変わらなかった。
なので、二次試験は何らかの不正を働いて突破したのだと判断し、その方法について推理を続けていた結果、答えがわかった。
港での会話からして、恐らくタズハがロロネに花を譲ってあげたのだろう。
そしてタズハは再び自分の分を取りに走ったのだ。
そのようなお人好しがいるとはまるで思わず、その発想に至った時はまさかと苦笑したが、タズハを見ていたら彼女ならそうしてもおかしくないと思った。
そんなタズハに感化されてしまったのかもしれない。
本来、二次試験を不正で突破したとわかった時点でロロネを失格処分とすべきだったが、猶予を与えることにした。
その分、評価は厳しめにはなるが、何か人よりも秀でた点があったならば、不正の件は気付かなかったことにし、四次試験に挑むチャンスをあげようと思ったのだ。
しかし、ロロネは最後まで平々凡々としており、特に光るところは見つけられなかった。
家の名前を背負っている以上、さすがに凡庸なロロネを合格とするわけにもいかず、ランラは不合格という判断を下すしかなかった。
そんなこととは露知らず、皆で合格できるものだと思っているのだろう。
前を歩く三人は上機嫌で歩いており、そんな彼女らの姿にランラは胸が締め付けられるような思いだった。
そして船に着き、素性と結果を伝えると。
案の定、ロロネはひどく落ち込み、ミスティは強い怒りを向けてきた。
当然の反応だ。
自分は三人を騙し、その上で笑いあったロロネを落としたのだから。
昨日、タズハが『試験が終わっても仲良くしようね』なんて言ってくれたが、そんな考えもなくなってしまっただろう。
ランラは罪悪感やら寂しさやらで心がぐちゃぐちゃになっていたが、それでも試験官としての役目を果たすため、何でもないように淡々と続けた。
最終的にロロネは不合格を受け入れ、タズハとミスティがそんな彼女の願いを受け継いだ。
少しロロネのことが心配だったが、二人のおかげで元気を取り戻せたようでランラはほっとする。
そしてそんな三人の姿を見て、これが友達というものなのだなと理解すると同時、その輪に加われないことが寂しかった。
王都に帰るため船に乗り込むと、気まずさからランラは三人から逃げるように船室に向かう。
「待って!」
そこをタズハに呼び止められられた。
騙していたことへの怒りや失望をぶつけられるのだろう。
仕事とは言え自業自得、ランラは甘んじて受け入れることにし、真っ直ぐにタズハを見る。
すると告げられたのは暴言や落胆の言葉ではなく、「よかったら、みんなでお話ししませんか?」というお誘い。
ランラは驚きに目を見開く。
だって当然嫌われたものだと思っていたから。
もしも許してもらえるなら。
また仲良くしてくれるのなら。
図々しいことは理解しているが、ぜひそうしてほしい。
「……よろしいのですか?」
不安に思いながら尋ねると、三人は笑顔で受け入れてくれた。
光るところがないと、自分が落としたロロネまでもだ。
ランラは込み上げてきた涙を拭うと、三人に笑みを向ける。
その笑顔は十八年の人生の中で、最も輝いていた。
☆
王城に戻ったランラは、割り当てられている自室で決心した。
ミスティの家の件はずっとどうしようか迷っていたが、やはり陛下に伝えよう、と。
そして難民キャンプや貧民街のことも気にかけてもらえるよう、それとなく言ってみよう、と。
ゼイナスの担当を任せられ、お世話をするようになってもう八年。
従者という立場、何か聞かれたら答えるだけで、自分から進言したりなんてことは当然だが一度もない。
ゼイナスには信頼してもらえているし、そもそもそんなことで怒るような器が小さい人でもないので、話は普通に聞いてもらえるだろう。
まあ、受け入れてもらえるかは別として。
それでも言おうか迷っていたのは、やはり自分のような立場の者が陛下に進言してもいいものかという、常識的な観点からの躊躇いによるもので。
ランラは首を振ってそんな気持ちを振り払うと、「よし」と気合いを入れ、ゼイナスの私室に向かう。
その時、頭に浮かんでいたのはタズハ、ロロネ、ミスティ――初めてできた大切なお友達の顔だった。
ランラとしても、そうしてもらえたほうがスムーズなので、兵士に聞いて他に危険な動物がいないようであれば三人の意思を尊重することにした。
それからはタズハが言った「食料になる」という理由により、わざわざイノシシを船のところまで運ぶと、兵士を呼ぶ。
聞こえてきた「はーい」と何ともお気楽な返事にランラはプッツン。
三人の手前、我慢するつもりだったが、耐えられなかった。
「これはどういうことですか?」
三次試験で使われる無人島は、生息していた獰猛な獣の駆除だったり、水や食料が潤沢にあることの確認だったりが軍によってなされている。
だから安全、安心して参加してほしい――と、試験の案内書にもそうはっきり書かれており、しかし蓋を開けてみればこの有様だ。
今回はタズハのおかげで何事もなかったが、下手すれば死人が出ていたわけで、そうなれば試験は中止。
敬愛する王族の名が、彼女ら兵士の粗末な仕事によって汚されるところだったと考えると、苛立ちが止まらなかった。
結果、ミスティに宥められるまで兵士を詰めてしまい、そこは少し反省。
本来の目的である生息している動物の種類について聞くと、イノシシ以外には特に危険な生物はいないとのことだったので、このまま試験を続行することに決まった。
ちなみに兵士は責任問題を恐れてか、この島での試験続行を嫌がったが、それはランラの「何か?」の三文字と圧によってねじ伏せられていた。
その後はミスティと一緒に洞穴を探しに行き。
事前に兵士から大体の場所は聞いていたのですぐに見つけられ、そこに皆で移動すると、夕食としてイノシシ肉を食した。
獣臭かったり、内臓ということもあって生臭かったりするのではないかと思っていたが、全然そんなことはなく。
想像よりも遥かに美味しくて、ランラは目を丸くした。
でも、それ以上に驚いたのは、誰かとわいわい話しながらする食事はこんなにも楽しいものなのかということ。
王族一人一人に、従者が最低一人は常に付き添っていなければならないため、フォルスタ家では交代で休息をとっている。
だから食事は基本的に一人。
偶然家族の誰かと食事の時間が被ったとしても、その時に話す内容はほとんどが業務連絡だ。
それ故、美味しい食事にテンションが上がることはあっても、食事という行為そのものが楽しいと思ったことは一度もなかった。
そうしてお腹がだいぶ膨れてきた頃。
タズハ、ロロネ、ミスティの順番で、お互いにこの王妃選抜試験に参加した理由について話した。
タズハとロロネの話は既に船の上で聞いていたが、二度目でもやはり胸が痛んだ。
そして語られたミスティの話については、ただただ驚いた。
ミスティ曰く、彼女の父は周囲の領主から僻まれており、根も葉もない噂を流されている。それが王族の耳にも入っているのか、功績を全く評価してもらえていないとのこと。
フォルスタ家はあくまで従者の家系なので、政治については一切関与していない。
貴族社会への関わりもないため情勢もわからず、ランラにはミスティの話の真偽はつかない。
なので話半分で聞くしかないが、本当だったら大変なことだ。
(陛下の耳に入れておくべきでしょうか。でもわたしごときがそんな出過ぎた真似をするのは……ミスティさんが嘘をついている可能性もありますし。いや、でも今のミスティさんを見てるとそんなことをするようには――)
気の毒そうに眉を下げるランラは、頭の中でひたすらに悩んでいた。
☆
日常の中でランラが接するのは、王族と家族、そして共に王家に仕えるアミール家とテテンサ家の人間のみ。
それらの家にはもちろんランラと同年代の女子もおり、時折お茶をしたりもするが、そこでの会話の内容はやはり仕事に関連すること。
お互いに仕事仲間という認識が強く、雑談に花を咲かせたり、一緒に遊んだりするような相手は一人もいなかった。
そんなだったから、タズハたちと過ごしたこの数日はとても楽しかった。
もっともっとこんな日々が続いたらいいのに、と思った。
でも、それももうおしまい。
今日で無人島生活は終了。
この後、自分は正体を明かし、三人に結果を伝えなければならない。
――タズハとミスティは合格、ロロネには不合格という結果を。
ロロネは結局、初日以降も体力不足は変わらなかった。
なので、二次試験は何らかの不正を働いて突破したのだと判断し、その方法について推理を続けていた結果、答えがわかった。
港での会話からして、恐らくタズハがロロネに花を譲ってあげたのだろう。
そしてタズハは再び自分の分を取りに走ったのだ。
そのようなお人好しがいるとはまるで思わず、その発想に至った時はまさかと苦笑したが、タズハを見ていたら彼女ならそうしてもおかしくないと思った。
そんなタズハに感化されてしまったのかもしれない。
本来、二次試験を不正で突破したとわかった時点でロロネを失格処分とすべきだったが、猶予を与えることにした。
その分、評価は厳しめにはなるが、何か人よりも秀でた点があったならば、不正の件は気付かなかったことにし、四次試験に挑むチャンスをあげようと思ったのだ。
しかし、ロロネは最後まで平々凡々としており、特に光るところは見つけられなかった。
家の名前を背負っている以上、さすがに凡庸なロロネを合格とするわけにもいかず、ランラは不合格という判断を下すしかなかった。
そんなこととは露知らず、皆で合格できるものだと思っているのだろう。
前を歩く三人は上機嫌で歩いており、そんな彼女らの姿にランラは胸が締め付けられるような思いだった。
そして船に着き、素性と結果を伝えると。
案の定、ロロネはひどく落ち込み、ミスティは強い怒りを向けてきた。
当然の反応だ。
自分は三人を騙し、その上で笑いあったロロネを落としたのだから。
昨日、タズハが『試験が終わっても仲良くしようね』なんて言ってくれたが、そんな考えもなくなってしまっただろう。
ランラは罪悪感やら寂しさやらで心がぐちゃぐちゃになっていたが、それでも試験官としての役目を果たすため、何でもないように淡々と続けた。
最終的にロロネは不合格を受け入れ、タズハとミスティがそんな彼女の願いを受け継いだ。
少しロロネのことが心配だったが、二人のおかげで元気を取り戻せたようでランラはほっとする。
そしてそんな三人の姿を見て、これが友達というものなのだなと理解すると同時、その輪に加われないことが寂しかった。
王都に帰るため船に乗り込むと、気まずさからランラは三人から逃げるように船室に向かう。
「待って!」
そこをタズハに呼び止められられた。
騙していたことへの怒りや失望をぶつけられるのだろう。
仕事とは言え自業自得、ランラは甘んじて受け入れることにし、真っ直ぐにタズハを見る。
すると告げられたのは暴言や落胆の言葉ではなく、「よかったら、みんなでお話ししませんか?」というお誘い。
ランラは驚きに目を見開く。
だって当然嫌われたものだと思っていたから。
もしも許してもらえるなら。
また仲良くしてくれるのなら。
図々しいことは理解しているが、ぜひそうしてほしい。
「……よろしいのですか?」
不安に思いながら尋ねると、三人は笑顔で受け入れてくれた。
光るところがないと、自分が落としたロロネまでもだ。
ランラは込み上げてきた涙を拭うと、三人に笑みを向ける。
その笑顔は十八年の人生の中で、最も輝いていた。
☆
王城に戻ったランラは、割り当てられている自室で決心した。
ミスティの家の件はずっとどうしようか迷っていたが、やはり陛下に伝えよう、と。
そして難民キャンプや貧民街のことも気にかけてもらえるよう、それとなく言ってみよう、と。
ゼイナスの担当を任せられ、お世話をするようになってもう八年。
従者という立場、何か聞かれたら答えるだけで、自分から進言したりなんてことは当然だが一度もない。
ゼイナスには信頼してもらえているし、そもそもそんなことで怒るような器が小さい人でもないので、話は普通に聞いてもらえるだろう。
まあ、受け入れてもらえるかは別として。
それでも言おうか迷っていたのは、やはり自分のような立場の者が陛下に進言してもいいものかという、常識的な観点からの躊躇いによるもので。
ランラは首を振ってそんな気持ちを振り払うと、「よし」と気合いを入れ、ゼイナスの私室に向かう。
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