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ヴォルフィ視点
30 薬師ヴォルフィの理想と現実・その2 ②
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ヴォルフィが警邏隊に納品した薬の評判は上々で、それからも犬獣人は頻繁に薬局へやってきた。注文書を持ってくることもあれば、怪我をして個人的に訪れる場合もあった。
「ヴォルフィ、警邏隊の納品以外に余裕ある?」
「ありますけど」
「じゃあさ、薬の卸先、増やせる?」
未だに一般客はほとんど来店しない。ヴォルフィは二つ返事で話を請けた。
警邏隊の犬獣人が紹介してくれたのは、主に獣人と亜人が働いている病院だった。
「よい薬を納品してくださってとても助かります!」
人のよさそうな病院長が嬉しそうな笑顔でヴォルフィに言う。これまでは粗悪なのに高価な薬を納品する薬師にばかり当たっていたらしい。足元を見られる。それはヴォルフィも同じだ。新参者だからだろう、薬師ギルドで紹介された薬剤原料の卸業者は少し吹っ掛けてくるか質の悪いものを平気で売りつけてきている感があった。
「フェルディナントさん」
「何?」
犬獣人の脚の打撲に湿布を貼りながらヴォルフィは訊ねる。
「薬の原料を仕入れたいのですが、よい業者をご存じないですか?」
「え? 困ってたの? なんかこだわりがあるのかと思ってた」
「いえ、そんなものはあまりないです。薬師ギルドの紹介も、市場も、どうも今一つで……」
「もっと早く言ってくれればよかったのに。助けを求められたら、すぐ動くぜ、俺は」
「ありがとうございます」
手当てが終わったので、犬獣人はヴォルフィに問いかける。
「今日の代金はいくら?」
「今日は結構です。紹介していただくので」
「そんなこと言って、スタンプカードが九個からなかなか進まないんだけど! 俺、割引、結構楽しみにしてんのに!」
森の奥深くに警邏隊の犬獣人が紹介してくれた卸業者の家はあった。ヴォルフィが扉を叩くと、中から出てきたのは蛇獣人で「ご足労おかけしました」とヴォルフィに丁寧に礼を言った。蛇獣人はヴォルフィに温かいお茶と菓子を出してくれ、取り扱っている原料を見せながらとても丁寧に説明をしてくれた。原料はかなり良質なもので、種類も豊富だったので、調剤できる薬の幅が広がりそうだ。
「ナータンさん、ぜひ取引をお願いしたいのですが、料金を教えていただけますか」
蛇獣人のナータンが持ってきた料金表を見て、ヴォルフィは思わず眉をひそめる。
「本当に、このお値段ですか?」
「あ……あの、量を多めにお買い求めいただけたら、もう少し勉強いたしますが……」
ナータンがとても困った声で言うので、ヴォルフィは胸ポケットからペンを取り出し、急いで注文書を記入し、渡した。蛇獣人は目を通すと、信じられないという表情で、何度も注文書とヴォルフィの顔を見比べる。発注量が多いばかりでなく、単価の部分が二重線で訂正され、価格が上がっていたからだ。
「ちょっと安すぎますよ。これまでもっと粗悪な原料しか仕入れられなかったので、これくらいは出させてください」
「いや……ですが……」
「これからも長くお付き合いいただきたいんです」
蛇獣人はぶんぶん頷くと、「いい原料が手に入りましたら、ヴォルフィさんへ真っ先にお知らせしますね!」と嬉しそうな声で言ってくれた。
話がまとまったのでヴォルフィが挨拶をして出ようとすると、ナータンがあわてて声を掛けてきた。
「ああ、ヴォルフィさん! 胸ポケットにインクが!」
シャツの胸ポケットを見てみると、青インクが滲んでいる。注文書を急いで書いた時に、ヴォルフィはペンの蓋をきちんと閉めそびれていたのだ。
「びっくりさせてしまってごめんなさい。僕は本当にうっかり者で……。家へ帰ってすぐ落とします!」
気を遣わせたくないと思ったヴォルフィは、蛇獣人ナータンの家をそそくさと後にした。
「ヴォルフィ、警邏隊の納品以外に余裕ある?」
「ありますけど」
「じゃあさ、薬の卸先、増やせる?」
未だに一般客はほとんど来店しない。ヴォルフィは二つ返事で話を請けた。
警邏隊の犬獣人が紹介してくれたのは、主に獣人と亜人が働いている病院だった。
「よい薬を納品してくださってとても助かります!」
人のよさそうな病院長が嬉しそうな笑顔でヴォルフィに言う。これまでは粗悪なのに高価な薬を納品する薬師にばかり当たっていたらしい。足元を見られる。それはヴォルフィも同じだ。新参者だからだろう、薬師ギルドで紹介された薬剤原料の卸業者は少し吹っ掛けてくるか質の悪いものを平気で売りつけてきている感があった。
「フェルディナントさん」
「何?」
犬獣人の脚の打撲に湿布を貼りながらヴォルフィは訊ねる。
「薬の原料を仕入れたいのですが、よい業者をご存じないですか?」
「え? 困ってたの? なんかこだわりがあるのかと思ってた」
「いえ、そんなものはあまりないです。薬師ギルドの紹介も、市場も、どうも今一つで……」
「もっと早く言ってくれればよかったのに。助けを求められたら、すぐ動くぜ、俺は」
「ありがとうございます」
手当てが終わったので、犬獣人はヴォルフィに問いかける。
「今日の代金はいくら?」
「今日は結構です。紹介していただくので」
「そんなこと言って、スタンプカードが九個からなかなか進まないんだけど! 俺、割引、結構楽しみにしてんのに!」
森の奥深くに警邏隊の犬獣人が紹介してくれた卸業者の家はあった。ヴォルフィが扉を叩くと、中から出てきたのは蛇獣人で「ご足労おかけしました」とヴォルフィに丁寧に礼を言った。蛇獣人はヴォルフィに温かいお茶と菓子を出してくれ、取り扱っている原料を見せながらとても丁寧に説明をしてくれた。原料はかなり良質なもので、種類も豊富だったので、調剤できる薬の幅が広がりそうだ。
「ナータンさん、ぜひ取引をお願いしたいのですが、料金を教えていただけますか」
蛇獣人のナータンが持ってきた料金表を見て、ヴォルフィは思わず眉をひそめる。
「本当に、このお値段ですか?」
「あ……あの、量を多めにお買い求めいただけたら、もう少し勉強いたしますが……」
ナータンがとても困った声で言うので、ヴォルフィは胸ポケットからペンを取り出し、急いで注文書を記入し、渡した。蛇獣人は目を通すと、信じられないという表情で、何度も注文書とヴォルフィの顔を見比べる。発注量が多いばかりでなく、単価の部分が二重線で訂正され、価格が上がっていたからだ。
「ちょっと安すぎますよ。これまでもっと粗悪な原料しか仕入れられなかったので、これくらいは出させてください」
「いや……ですが……」
「これからも長くお付き合いいただきたいんです」
蛇獣人はぶんぶん頷くと、「いい原料が手に入りましたら、ヴォルフィさんへ真っ先にお知らせしますね!」と嬉しそうな声で言ってくれた。
話がまとまったのでヴォルフィが挨拶をして出ようとすると、ナータンがあわてて声を掛けてきた。
「ああ、ヴォルフィさん! 胸ポケットにインクが!」
シャツの胸ポケットを見てみると、青インクが滲んでいる。注文書を急いで書いた時に、ヴォルフィはペンの蓋をきちんと閉めそびれていたのだ。
「びっくりさせてしまってごめんなさい。僕は本当にうっかり者で……。家へ帰ってすぐ落とします!」
気を遣わせたくないと思ったヴォルフィは、蛇獣人ナータンの家をそそくさと後にした。
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