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ヴォルフィ視点
29 薬師ヴォルフィの理想と現実・その2 ①
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「また怪我ですか?」
「あはは、うっかり藪に突っ込んじまってさあ!」
「僕のことをうっかり者だなんて言えないですよ」
警邏隊の犬獣人の腕は棘だらけだった。ざっと見てわかる箇所は鑷子で抜いたが、小さいものが残っているかもしれない。
「まだ棘が刺さっている気がするところはありますか? フェルディナントさん」
「んー、なんか左手の人差し指がまだチクチクする」
ヴォルフィは注意深く犬獣人の人差し指を観察する。確かに茶色いものがあった。ヴォルフィは針をランプの火であぶり、犬獣人の指にそっと近づける。
「やだ、怖い」
「棘が小さすぎて、鑷子では抜けそうにないんです」
「熱っ!」
「消毒代わりだから、諦めてください」
「痛っ!」
「思っていたよりも深く刺さっていて…………取れた」
ヴォルフィは針ですくうように棘を取り出した。棘は細いものの思いの外長かったので、刺さったままでは左手を使うのがつらかったはずだ。ヴォルフィは犬獣人の指に消毒液を流し掛ける。
「沁みる!」
「藪に突っ込んだ時はもっと痛かったはずです。我慢してください」
手当てが終わり、会計を済ませると、犬獣人はヴォルフィに切り出す。
「ヴォルフィ、店は忙しい?」
「…………みなさんが健康なのは、本当にいいことですよ」
「確かにな」
犬獣人は胸元から折り畳んだ紙を取り出してヴォルフィに渡した。
「もし余裕があるなら、大量に発注してもいい?」
ヴォルフィは丁寧に紙を開き、目を通す。薬の注文書だ。
「いっつも発注がギリギリだから、薬師のみなさんから嫌がられちゃってさあ」
確かに種類が多いので、手間を考えると嫌がられるのもわかる。だが、閑古鳥が鳴いているこの店なら、なんとかこなせなくもない。
「こちらこそ、ぜひお願いします」
「できれば今後も継続して、注文受けてほしいんだけど」
「え!」
ヴォルフィはもう一度注文書を見直した。工程が単純な作り置きのきく薬も、作るのに手間がかかる割に日持ちはしない薬も、全て納期は「最短」と書かれている。
「今回はかかりきりで作るので大丈夫です。ただ、これからも続けてご注文いただくというお話なら、薬によって納品できるまでの日数が違うので、ご期待に沿えないかもしれません。納品までに何日必要かを表にまとめますから、今後はその表に基づいてご注文ください」
「へえ! それ、俺も助かる! 早く決めろってしつこく言ってるのに、なんだかんだでいっつも後回しにされてさあ! 薬師のみなさんに申し訳なかったんだわ!」
犬獣人はカラカラと笑う。少し待ってもらい、納期の表をまとめ、犬獣人に渡しながらヴォルフィは言う。
「今回のご注文分は三日後にお渡しします」
「早い!」
「……他に仕事がないですからね」
「あはは、うっかり藪に突っ込んじまってさあ!」
「僕のことをうっかり者だなんて言えないですよ」
警邏隊の犬獣人の腕は棘だらけだった。ざっと見てわかる箇所は鑷子で抜いたが、小さいものが残っているかもしれない。
「まだ棘が刺さっている気がするところはありますか? フェルディナントさん」
「んー、なんか左手の人差し指がまだチクチクする」
ヴォルフィは注意深く犬獣人の人差し指を観察する。確かに茶色いものがあった。ヴォルフィは針をランプの火であぶり、犬獣人の指にそっと近づける。
「やだ、怖い」
「棘が小さすぎて、鑷子では抜けそうにないんです」
「熱っ!」
「消毒代わりだから、諦めてください」
「痛っ!」
「思っていたよりも深く刺さっていて…………取れた」
ヴォルフィは針ですくうように棘を取り出した。棘は細いものの思いの外長かったので、刺さったままでは左手を使うのがつらかったはずだ。ヴォルフィは犬獣人の指に消毒液を流し掛ける。
「沁みる!」
「藪に突っ込んだ時はもっと痛かったはずです。我慢してください」
手当てが終わり、会計を済ませると、犬獣人はヴォルフィに切り出す。
「ヴォルフィ、店は忙しい?」
「…………みなさんが健康なのは、本当にいいことですよ」
「確かにな」
犬獣人は胸元から折り畳んだ紙を取り出してヴォルフィに渡した。
「もし余裕があるなら、大量に発注してもいい?」
ヴォルフィは丁寧に紙を開き、目を通す。薬の注文書だ。
「いっつも発注がギリギリだから、薬師のみなさんから嫌がられちゃってさあ」
確かに種類が多いので、手間を考えると嫌がられるのもわかる。だが、閑古鳥が鳴いているこの店なら、なんとかこなせなくもない。
「こちらこそ、ぜひお願いします」
「できれば今後も継続して、注文受けてほしいんだけど」
「え!」
ヴォルフィはもう一度注文書を見直した。工程が単純な作り置きのきく薬も、作るのに手間がかかる割に日持ちはしない薬も、全て納期は「最短」と書かれている。
「今回はかかりきりで作るので大丈夫です。ただ、これからも続けてご注文いただくというお話なら、薬によって納品できるまでの日数が違うので、ご期待に沿えないかもしれません。納品までに何日必要かを表にまとめますから、今後はその表に基づいてご注文ください」
「へえ! それ、俺も助かる! 早く決めろってしつこく言ってるのに、なんだかんだでいっつも後回しにされてさあ! 薬師のみなさんに申し訳なかったんだわ!」
犬獣人はカラカラと笑う。少し待ってもらい、納期の表をまとめ、犬獣人に渡しながらヴォルフィは言う。
「今回のご注文分は三日後にお渡しします」
「早い!」
「……他に仕事がないですからね」
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