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ヴォルフィ視点
28 薬師ヴォルフィの理想と現実・その1 ②
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「おそらくこれで大丈夫だと思いますが、痛みが続くようでしたら、医者に診てもらってください」
「ありがとな。支払いするよ、いくら?」
ヴォルフィは傷薬一個分の料金を警邏隊の獣人に請求し、小さな缶に入れた軟膏を渡した。経過が順調ならこれだけあれば充分だろう、と考えて。警邏隊の獣人は金額を聞いて少し不思議そうな表情を浮かべたが、素直に支払った。
「ここらへん、今はまだ不便だから、薬局ができて助かるなー」
「……それはよかったです」
当のヴォルフィは全然客が入らなくて困っているのだが。思わず苦笑いしてしまったヴォルフィの目をじっと見て、警邏隊の獣人は訊ねる。
「お兄さん、人狼だろ?」
「……いえ」
面倒なことになると思い、ヴォルフィは咄嗟にごまかしたが、嘘を吐き慣れていないので目が泳いでしまった。相手も獣人なのだから、正直に言った方がよかっただろうか、とヴォルフィが思った時に、警邏隊の獣人は淡々と言った。
「隠してもバレてるから無駄。俺、犬獣人だから、鼻が利くし」
「はあ……」
「それに人狼だってことを是が非でも隠し通したいのなら、どうして『ヴォルフィ薬局』なんて名前にしたんだよ?」
「本名の愛称で……。あと、本名よりも人狼だとバレにくいかと思ったので」
「本名は?」
「ヴォルフガンク」
ヴォルフィの言葉を聞いて、警邏隊の犬獣人はカラカラと笑う。
「本名の方がよっぽどバレないだろ。よくある名前だし。Wolfieなんて、まんま狼じゃん!」
「あ……。どうしよう、もうこの屋号で役所に登録しちゃったのに……」
ヴォルフィは「呼ばれ慣れているし書くのが楽」という安易な理由で店の名を選んだことを後悔した。しまったという表情を浮かべるヴォルフィを見て、警邏隊の犬獣人は笑いながら言う。
「賢そうな顔して、案外うっかり者だなあ! ヴォルフィ!」
この犬獣人、なんだかえらく馴れ馴れしいな、とヴォルフィは思う。さりげなく愛称で呼ばれた。
「どうしてわざわざここに店を構えたんだ? なんか伝手でもあんの?」
「いえ……。王都に出ればなんとかなるかと思ったのと、所持金と相談しつつ近くに競合店がない場所で絞り込んだら、消去法でここに……」
「いきあたりばったりだなー!」
警邏隊の犬獣人はますます大声を上げて笑った。なに、この、デリカシーのない犬、とヴォルフィは内心苦々しく思う。
「でもヴォルフィ、お前、運いいよ。今は不便だけど、この辺りは再開発計画が決定してるから、もう少ししたら道が整備されるし、いろんな建物もできて、栄える」
「もう少しって、どれくらいですか?」
「うーん……五年。遅くとも七年もすれば」
それまでこの店が生き延びられるかが問題だ。
ヴォルフィは会員登録とスタンプカードのことを思い出し、警邏隊の犬獣人に用紙を渡す。
「よかったら、登録しませんか」
犬獣人は笑顔で用紙を受け取り、必要事項を記入し、ヴォルフィに返す。ヴォルフィは代わりにスタンプカードを渡しながら伝えた。
「印が十個貯まったら割引しますので……フェルディナントさん」
「堅いなー! みんなディーノって呼ぶから、それで」
言われても書かれてもいない愛称を知っている訳がないだろう、とヴォルフィは内心思いながら返答する。
「またのお越しをお待ちしております。フェルディナントさん」
犬獣人は少しの間ぽかんと口を開いていたが、カラカラと笑いながら「また来る」とヴォルフィに告げ、店を出て行った。
「ありがとな。支払いするよ、いくら?」
ヴォルフィは傷薬一個分の料金を警邏隊の獣人に請求し、小さな缶に入れた軟膏を渡した。経過が順調ならこれだけあれば充分だろう、と考えて。警邏隊の獣人は金額を聞いて少し不思議そうな表情を浮かべたが、素直に支払った。
「ここらへん、今はまだ不便だから、薬局ができて助かるなー」
「……それはよかったです」
当のヴォルフィは全然客が入らなくて困っているのだが。思わず苦笑いしてしまったヴォルフィの目をじっと見て、警邏隊の獣人は訊ねる。
「お兄さん、人狼だろ?」
「……いえ」
面倒なことになると思い、ヴォルフィは咄嗟にごまかしたが、嘘を吐き慣れていないので目が泳いでしまった。相手も獣人なのだから、正直に言った方がよかっただろうか、とヴォルフィが思った時に、警邏隊の獣人は淡々と言った。
「隠してもバレてるから無駄。俺、犬獣人だから、鼻が利くし」
「はあ……」
「それに人狼だってことを是が非でも隠し通したいのなら、どうして『ヴォルフィ薬局』なんて名前にしたんだよ?」
「本名の愛称で……。あと、本名よりも人狼だとバレにくいかと思ったので」
「本名は?」
「ヴォルフガンク」
ヴォルフィの言葉を聞いて、警邏隊の犬獣人はカラカラと笑う。
「本名の方がよっぽどバレないだろ。よくある名前だし。Wolfieなんて、まんま狼じゃん!」
「あ……。どうしよう、もうこの屋号で役所に登録しちゃったのに……」
ヴォルフィは「呼ばれ慣れているし書くのが楽」という安易な理由で店の名を選んだことを後悔した。しまったという表情を浮かべるヴォルフィを見て、警邏隊の犬獣人は笑いながら言う。
「賢そうな顔して、案外うっかり者だなあ! ヴォルフィ!」
この犬獣人、なんだかえらく馴れ馴れしいな、とヴォルフィは思う。さりげなく愛称で呼ばれた。
「どうしてわざわざここに店を構えたんだ? なんか伝手でもあんの?」
「いえ……。王都に出ればなんとかなるかと思ったのと、所持金と相談しつつ近くに競合店がない場所で絞り込んだら、消去法でここに……」
「いきあたりばったりだなー!」
警邏隊の犬獣人はますます大声を上げて笑った。なに、この、デリカシーのない犬、とヴォルフィは内心苦々しく思う。
「でもヴォルフィ、お前、運いいよ。今は不便だけど、この辺りは再開発計画が決定してるから、もう少ししたら道が整備されるし、いろんな建物もできて、栄える」
「もう少しって、どれくらいですか?」
「うーん……五年。遅くとも七年もすれば」
それまでこの店が生き延びられるかが問題だ。
ヴォルフィは会員登録とスタンプカードのことを思い出し、警邏隊の犬獣人に用紙を渡す。
「よかったら、登録しませんか」
犬獣人は笑顔で用紙を受け取り、必要事項を記入し、ヴォルフィに返す。ヴォルフィは代わりにスタンプカードを渡しながら伝えた。
「印が十個貯まったら割引しますので……フェルディナントさん」
「堅いなー! みんなディーノって呼ぶから、それで」
言われても書かれてもいない愛称を知っている訳がないだろう、とヴォルフィは内心思いながら返答する。
「またのお越しをお待ちしております。フェルディナントさん」
犬獣人は少しの間ぽかんと口を開いていたが、カラカラと笑いながら「また来る」とヴォルフィに告げ、店を出て行った。
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