3 / 201
本編・取り違えと運命の人
002 運命の人 ②
しおりを挟む
「あ、神託の相手って証拠の魔法球!」
そう言って、リカルドさんは誇らしげに私に魔法球を差し出してきたので、とまどいつつも受け取る。魔法球なんて初めて見るなあ。思わずしげしげと眺めてしまう。私のてのひらでも収まるサイズのそれは、夜空のような深い藍色で、なんだか吸い込まれそう。
私の周囲に魔力持ちの人はいないし、お針子って職業上でも魔法のお世話になることはない。だから普段は魔法なんてほとんど意識しないけど、こういう魔力の込められたものを見ると、人知を超えたものってやっぱりあるんだな、と感じる。
魔法球に文字が表示されていることに気づいた。私の名前、生年月日、数値と方角の文字が順繰りに浮かびあがってくる。字が小さいからちょっと見にくいな。
「私の名前と生年月日と……この最後のは、なんですか?」
「うん。俺の現在地から君のいるところまでの距離とどの方向に進めばいいかの位置情報なんだって。基本はこの三つが出てきて、あとは訊ねると表示してくれる感じらしい」
「らしい?」
「んー、俺、せっかくだからジュリエッタに直接訊ねたくて、使わなかった」
「え? なんでですか? せっかくわかるのに……」
「ジュリエッタはこれ持ってないでしょ? 俺だけズルするみたいな感じで気が進まなかったし、前もって知ってしまったら会話の楽しさが半減しちゃうし」
「そういうもの、ですか?」
私なんか口下手だから、便利そうだなー、と思うけど。
「そういうもの! 俺、ジュリエッタと直接話すの、すごく楽しみだった!」
そう言って、リカルドさんはまた、にこにこ笑った。
私は、その楽しみにされていた会話が、かなり下手です。
「えーっと……」
期待に応えるべく、とりあえず口を開いた瞬間、リカルドさんの腹の虫が盛大に鳴った。
「ご、ごめん、お昼食べてなくて、お腹すいた……」
途端に、電池切れた、みたいに、しゅんとなっちゃうリカルドさん。
「こちらこそ、気がつかなくて、ごめんなさい! どうぞ!」
なんだかんだ、玄関先で立ち話になってた。長旅してきた人に申し訳ない。急いで室内に招き入れる。
「すぐお夕飯にしますけど、とりあえず、お茶どうぞ」
「ありがとうー。生き返るー」
テンション高くて気づかなかったけど、リカルドさん、結構疲れていた様子。
「ごめんなさい。長旅してきたのに……」
「ジュリエッタ、優しい!」
そんなに目をキラキラさせる要素が、あっただろうか。
「お昼食べてないのは、自分が悪いんだ。俺、うっかりものだから、列車間違えちゃって。魔法球結構便利で、位置情報のとこにどの列車に乗れとかも出るから安心しきってたんだけど、たぶん見間違えちゃったんだ。あわてて正しいのに乗り換えたんだけど、その前までにも人とぶつかったり、荷物ぶちまけたり、結構時間ロスしちゃったから、食べてる時間がもったいなくって」
「そんな、もっと遅くなったって、ちっともかまわなかったのに」
「んー。俺が、少しでも早く、君に会いたかったの!」
ど、どこまでも直球。こんな風に言われたことなんかもちろんないし、私自身もこんなにはっきり気持ちを表現することはないので、なんだか慣れない。
「あ、ジュリエッタ、照れてる! 可愛いなあ!」
にこにこ言われて、自分が赤くなっていることに気づく。
「ゆ! 夕飯の仕度、しますから!」
「楽しみに待ってるー!」
ちょ、調子狂う!
そう言って、リカルドさんは誇らしげに私に魔法球を差し出してきたので、とまどいつつも受け取る。魔法球なんて初めて見るなあ。思わずしげしげと眺めてしまう。私のてのひらでも収まるサイズのそれは、夜空のような深い藍色で、なんだか吸い込まれそう。
私の周囲に魔力持ちの人はいないし、お針子って職業上でも魔法のお世話になることはない。だから普段は魔法なんてほとんど意識しないけど、こういう魔力の込められたものを見ると、人知を超えたものってやっぱりあるんだな、と感じる。
魔法球に文字が表示されていることに気づいた。私の名前、生年月日、数値と方角の文字が順繰りに浮かびあがってくる。字が小さいからちょっと見にくいな。
「私の名前と生年月日と……この最後のは、なんですか?」
「うん。俺の現在地から君のいるところまでの距離とどの方向に進めばいいかの位置情報なんだって。基本はこの三つが出てきて、あとは訊ねると表示してくれる感じらしい」
「らしい?」
「んー、俺、せっかくだからジュリエッタに直接訊ねたくて、使わなかった」
「え? なんでですか? せっかくわかるのに……」
「ジュリエッタはこれ持ってないでしょ? 俺だけズルするみたいな感じで気が進まなかったし、前もって知ってしまったら会話の楽しさが半減しちゃうし」
「そういうもの、ですか?」
私なんか口下手だから、便利そうだなー、と思うけど。
「そういうもの! 俺、ジュリエッタと直接話すの、すごく楽しみだった!」
そう言って、リカルドさんはまた、にこにこ笑った。
私は、その楽しみにされていた会話が、かなり下手です。
「えーっと……」
期待に応えるべく、とりあえず口を開いた瞬間、リカルドさんの腹の虫が盛大に鳴った。
「ご、ごめん、お昼食べてなくて、お腹すいた……」
途端に、電池切れた、みたいに、しゅんとなっちゃうリカルドさん。
「こちらこそ、気がつかなくて、ごめんなさい! どうぞ!」
なんだかんだ、玄関先で立ち話になってた。長旅してきた人に申し訳ない。急いで室内に招き入れる。
「すぐお夕飯にしますけど、とりあえず、お茶どうぞ」
「ありがとうー。生き返るー」
テンション高くて気づかなかったけど、リカルドさん、結構疲れていた様子。
「ごめんなさい。長旅してきたのに……」
「ジュリエッタ、優しい!」
そんなに目をキラキラさせる要素が、あっただろうか。
「お昼食べてないのは、自分が悪いんだ。俺、うっかりものだから、列車間違えちゃって。魔法球結構便利で、位置情報のとこにどの列車に乗れとかも出るから安心しきってたんだけど、たぶん見間違えちゃったんだ。あわてて正しいのに乗り換えたんだけど、その前までにも人とぶつかったり、荷物ぶちまけたり、結構時間ロスしちゃったから、食べてる時間がもったいなくって」
「そんな、もっと遅くなったって、ちっともかまわなかったのに」
「んー。俺が、少しでも早く、君に会いたかったの!」
ど、どこまでも直球。こんな風に言われたことなんかもちろんないし、私自身もこんなにはっきり気持ちを表現することはないので、なんだか慣れない。
「あ、ジュリエッタ、照れてる! 可愛いなあ!」
にこにこ言われて、自分が赤くなっていることに気づく。
「ゆ! 夕飯の仕度、しますから!」
「楽しみに待ってるー!」
ちょ、調子狂う!
0
あなたにおすすめの小説
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる