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02 呪いをかけられて
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「呪い……?」
「はい。三日前、ヴィクトール殿下がなかなか部屋から出てこられないので、お声掛けしましたところ、少年の姿に戻っておいでだったのです。この紫の瞳は王家の者にしか現れないですし、魔道具も殿下にしか扱えないものです。我が国最高峰の魔法使いも殿下に間違いないと判断しましたし、呪いも解呪できませんでした」
無邪気に笑うヴィクトール殿下は、私の記憶にある少年時代の彼とはずいぶん違います。ヴィクトール殿下は、初めてお会いした十年前から現在に至るまで、常に無表情で感情をあらわになさらない方でした。将来、王として国を統べるお方ですから、なにごとも理性で判断しなければならないと教育されてきたのでしょう。それは王族として当然のことかと存じます。
ヴィクトール殿下のお部屋には、次のような文言が残されていたそうです。
『呪い、叶え、給え!
王太子ヴィクトールの時を戻し留めよ
元の姿に戻す鍵は
白く輝く金の姫君が握っている』
私はお母様譲りの白い肌と金の髪を持って産まれたので、ブランシュと名づけられました。ヴィクトール殿下の婚約者でもありますし、確かに文言と符合するかのように思えます。けれども、ヴィクトール殿下がなぜ呪われてしまったかなんて、私には皆目見当がつきません。
「誰が、どのようにして、何の目的で、ヴィクトール殿下に呪いをかけたのでしょう?」
私の問いにアドヴィン様が首を振りながら答えてくださいました。
「何もわかりません。この城には選ばれた者しか入ることはできませんし、特にヴィクトール殿下の部屋には厳重な保護魔法がかけられております。相当強力な魔法の使い手によるものかと」
ヴィクトール殿下は私と目が合うと、にこにこ笑ってこうおっしゃいました。
「なかよくしようよね!」
小国とはいえ私も王族として生まれた身です。婚姻は国同士のつながりのために交わすものだと幼い頃から言い聞かせられてきたので、覚悟を決めておりました。
ただ、私の父母も政略結婚であったにもかかわらず、本当に仲睦まじいのです。どなたに嫁ぐことになったとしても、父母のようにお相手の方と心を通わすことができたらと、私はひそかにずっと憧れていました。
「ヴィクトール殿下もそう思ってくださるのなら、とても嬉しいです」
私が微笑み返すと、ヴィクトール殿下は嬉しそうに私の手を取り、握手してくださいました。
「はい。三日前、ヴィクトール殿下がなかなか部屋から出てこられないので、お声掛けしましたところ、少年の姿に戻っておいでだったのです。この紫の瞳は王家の者にしか現れないですし、魔道具も殿下にしか扱えないものです。我が国最高峰の魔法使いも殿下に間違いないと判断しましたし、呪いも解呪できませんでした」
無邪気に笑うヴィクトール殿下は、私の記憶にある少年時代の彼とはずいぶん違います。ヴィクトール殿下は、初めてお会いした十年前から現在に至るまで、常に無表情で感情をあらわになさらない方でした。将来、王として国を統べるお方ですから、なにごとも理性で判断しなければならないと教育されてきたのでしょう。それは王族として当然のことかと存じます。
ヴィクトール殿下のお部屋には、次のような文言が残されていたそうです。
『呪い、叶え、給え!
王太子ヴィクトールの時を戻し留めよ
元の姿に戻す鍵は
白く輝く金の姫君が握っている』
私はお母様譲りの白い肌と金の髪を持って産まれたので、ブランシュと名づけられました。ヴィクトール殿下の婚約者でもありますし、確かに文言と符合するかのように思えます。けれども、ヴィクトール殿下がなぜ呪われてしまったかなんて、私には皆目見当がつきません。
「誰が、どのようにして、何の目的で、ヴィクトール殿下に呪いをかけたのでしょう?」
私の問いにアドヴィン様が首を振りながら答えてくださいました。
「何もわかりません。この城には選ばれた者しか入ることはできませんし、特にヴィクトール殿下の部屋には厳重な保護魔法がかけられております。相当強力な魔法の使い手によるものかと」
ヴィクトール殿下は私と目が合うと、にこにこ笑ってこうおっしゃいました。
「なかよくしようよね!」
小国とはいえ私も王族として生まれた身です。婚姻は国同士のつながりのために交わすものだと幼い頃から言い聞かせられてきたので、覚悟を決めておりました。
ただ、私の父母も政略結婚であったにもかかわらず、本当に仲睦まじいのです。どなたに嫁ぐことになったとしても、父母のようにお相手の方と心を通わすことができたらと、私はひそかにずっと憧れていました。
「ヴィクトール殿下もそう思ってくださるのなら、とても嬉しいです」
私が微笑み返すと、ヴィクトール殿下は嬉しそうに私の手を取り、握手してくださいました。
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