【R18】呪い、叶え、給え！

03 婚約が決まった時のこと

　ヴィクトール殿下の呪いの件が落着するまで、私は王城に留まることになりました。
　おいしい夕食をご馳走になり、立派な客室に案内され、一人になってほっと息を吐きます。いつ問題が解決するかわからないので、無理はせず、規則正しい生活をすべきでしょう。とても立派な寝台に横になりますが、なかなか寝つけません。

　私はヴィクトール殿下との婚約が決まった時のことを思い返しました。そもそも婚約者候補は私だけではなかったのです。

　十年前、ヴィクトール殿下の十二歳のお誕生日に、お祝いという体で近隣諸国の王女達が招待されました。ヴィクトール殿下と近い年齢の近隣諸国の王女は私以外にも四人いたのです。他国の王女達はみな美しく、豪華なドレスを纏い、素敵なアクセサリーを着けていました。私のドレスも普段よりはよいものでしたが、地味で見劣りしたことをよく覚えています。

　お祝いの最中に『王女殿下が最も大切にしているものをお貸しください』というご依頼がありました。お誕生祝いにおうかがいしただけだったので、特に用意などございません。
　困った私は一冊の本を提出いたしました。フローランスとの行き来に数日かかるので、暇つぶしにと荷物に入れておいたものです。我が国に口伝で残った民話を編纂したものだったので、「自国の文化を大切に思っております」と説明をした記憶がございます。実際は、恋物語ばかりが集められた本でした。まだ幼かったですし、そういうものに憧れる時期はあるものでしょう。

　他のみなさまが大切にしているものもお見せいただきましたが、どれも素晴らしく貴重なものでした。父王様から賜ったエメラルドの指輪、先祖代々伝わる真珠の首飾り、薔薇の金細工に貴重なルビーを嵌め込んだブローチ、透けるほど繊細な蝶を琥珀に彫り込んだ耳飾り。どれも女の子が一度は憧れるような、美しいもの。

　フローランス王国からヴィクトール殿下の婚約者にと申し込みがあったのは、私でした。「ブランシュ王女殿下は最も豊かな財産をお持ちだ。身についた知識は失われないから」という理由で。
　私は特段勉学に熱心だった訳ではありませんし、秀でた才があった訳でもございません。ですが、そのような理由で指名された以上、期待を大きく裏切ることはできないでしょう。勉学に励まざるを得ず、いつしか周辺諸国一の賢姫と呼ばれるようになりました。この二つ名が虚飾であることは私自身が一番よく知っていて、知識人とお会いするたびに身の縮む思いをしておりましたけれど。