【R18】呪い、叶え、給え!

テキイチ

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07 勝つためには手段を選ばない

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「お忙しいところ大変恐縮ですが……」
「ちょうど休憩しようと思っていたところなので、差し入れ、とても嬉しいですよ。ブランシュ殿下」

 私が相談にうかがったのはエミール殿下でした。いきなり本題から入るのは不躾かと思いましたし、情報を得るためだけにエミール殿下を利用するようで気が進みませんでしたので、手土産に焼き菓子を持参し、まずは雑談をすることにいたしました。エミール殿下ともなかよくなりたいと思っていたので、ちょうどいい機会でもありました。

「兄上の趣味ですか?」
「はい」
「チェスですね。ポーンの使い方が上手い」
「ああ、わかる気がします」

 小さなものにもまなざしを向ける方だなと思っておりましたので、最も弱い歩兵ポーンの使い方がお上手というのは、なんだか非常に納得いたしました。

「勝つためには手段を選ばないので、僕は兄上に勝てたことがないです」
「そんな卑劣な技を? 意外です」
「卑劣ではないのですけど、意表を突くのが上手いというか……。ずいぶん幼稚な手だなと舐めてかかっていたらそれはハッタリブラフで、ポーンからいつのまにか成った、、、クイーンに奇襲攻撃されていた、みたいなこともありました」

 ここでエミール殿下は私が持参した貝を模した焼き菓子を口になさいました。

「とてもおいしいですね!」
「お口に合いましたか? 久しぶりで自信がなかったので安心しました」
「え? まさか、これ、ブランシュ殿下の手作り……」
「はい。厨房をお借りしたかいがありました」
「それはまずい……。僕は兄上に刺されるかもしれない……。いや魔法攻撃が炸裂するかも……」

 エミール殿下が大変悲愴な表情を浮かべられたので、気になってお訊ねしました。

「何か問題でも?」
「……ブランシュ殿下、兄上にはお菓子を振る舞ったこと、まだないですよね」
「ええ。甘いものがお好きかわかりませんでしたし」
「あの人、甘いものは大好きですし、なによりブランシュ殿下の作ったものならなんでもものすごく喜ぶはずなので、僕は今日いただいたお菓子の記憶を消しますから、早急に作ってあげてください」
「わかりました」

 エミール殿下のおっしゃる言葉の意味は正直わからなかったのですが、ヴィクトール殿下と親睦を深めるためにお菓子を差し上げるというのは、悪くない手だと思いました。

「ヴィクトール殿下はやはり実戦もお強いのですね」
「兄上本人は戦略を立てる方が好きみたいですけどね。……やはり?」
「剣捌きを拝見したことはないのですが、とても鍛錬なさっているのだろうとは思っていました。剣ダコがたくさんあったので」
「それ、兄上に伝えたら、喜びますよ」

 エミール殿下がお茶を口にされたので、私もいただきました。落ち着く香りでほんのり甘みが感じられる、一口で高級なものだとわかる味。フローランス自慢の特産品だそうです。
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