ディスコミュニケーション

テキイチ

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 環境で全てが決まってしまうなら、私はここで朽ち果てるということだ。ここから抜け出すための、違う未来に進むための、切符がほしい。ずっとそう思いながら生きてきた。



 ここにいることは本当に現実なのか。時々真剣に考える。
 私は今、初等部から大学までエスカレーター式のお嬢様学校に在籍している。私でも名前くらいは知っていたんだから、相当知名度が高い学校なんだろう。今年の一月、高等部の一年に編入した。母の再婚相手がなかなかの金持ちで、転校を強く勧められたからだ。

 編入して三か月ほどは、異世界へ飛ばされたような気分だった。
 金持ちの彼女達も私達庶民とさほど変わらないと思ったのはごく最初だけで、しばらく話すうちに、それは大きな誤りだとわかった。口調はくだけていても、端々に混じる教養。歌舞伎や能などの伝統芸能や古典の書物、美術や音楽といった芸術が小さい頃から身近にないと、あの台詞は出ない。今まで、できる限り知へのアンテナを張ってきたつもりだったけど、当たり前に与えられてきた人間とは蓄積が違うと思い知らされるばかりだった。私がアプローチの方法すら知らなかった存在に、彼女達は自然にふれてきたんだから。この状況を表すのにうってつけな、文化資本という言葉も、この頃知った。

 知らない話を振られたら、あんまり詳しくなくて、と言ってお茶を濁し、帰宅後すぐ、義父に買い与えられたパソコンで必死に調べた。少しずつ知識は蓄積されていったけど、周囲もあいつは何も知らないと察し始めたんだろう、次第に話を振られなくなった。品のいい彼女達は、あからさまにいじめるような真似はしなかった。でも、ちょっとした瞬間に垣間見えてしまう蔑みの表情はなかなかにきつく、私の方も必要最低限しか話さないようになった。まあ、社交に費やす時間を勉強に充てられるんだから、それでいい。割り切りは得意だ。

 「苦労をバネにして」なんて大嘘だ。苦労が多いと、欠落を埋めることばかりに必死になって、人を信じることができない、卑屈な人間ができあがるだけだ。苦労は顔に滲み出る。そんな奴とわざわざ関わろうとする人間は少ないし、一人で生きるにはバネが伸びきっていて脆い。金と愛情を溢れんばかりにかけられて、大事に育てられてきた人間の強靭さに、かなう訳がない。
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