【R18】人の好みは説明できない

テキイチ

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第四章 走る前に歩くことを学べ

097 進め、ボーダーコリー! ①

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 二月一日。僕は今、向井とインド料理店に来ている。一か月遅れの誕生祝いだそう。口だけかと思ったら、本当に祝ってくれるなんて、律儀な奴だ。

「なんでビリヤニ?」

 もっと無難なものにするんじゃなかろうか、普通は。

「渋沢、なんでもいいって言うし、好き嫌いもないから、俺が食べたいものにした」
「確かに好き嫌いはないけど。最初に食べに行ったのがファミレスだったから、落差が大きいなと思っただけだ」
「ファミレスだったら、和洋中なんでも揃ってるし、料理の種類も豊富だろ。それでも文句言うやつはもう知らん」

 ファミレスはそういう視点からの選択だったのか。

「下手に何がいいか訊ねられても困るだけだから、決めてもらえるのは助かる」
「こっちも助かる。渋沢のなんでもいいは、ポーズじゃないから。なんでもいいって言いながら、本当はなんでもよくない人間なんてごまんといる」

 つい、昔の彼女達との付き合いを思い出してしまい、渋い顔をしてしまったのだろう。向井が僕を見て笑いながら言う。

「渋沢が若葉ちゃんを好きになったの、なんとなくわかる気がするわ。若葉ちゃんは自分の意見、ちゃんと言ってくれるもんな」
「それが……」

 元日の何時に実家を出発したか、訊ねた時の若葉ちゃんの表情が脳裏をかすめ、落ち込んでしまう。

「……僕は、ボーダーコリー失格だ」
「なに、その、ボーダーコリーへの異常な思い入れ」
「アイデンティティ」
「アイデンティティ?」

 向井が何を言ってるんだという表情で首をかしげる。

「今まで人に頼られることなんて全力で避けてきたのに、若葉ちゃんの役に立てるのは、すごく嬉しくて」
「ほう」
「でも……向井の言った通りで。元日、若葉ちゃんは寒い中、五時間近くさまよってた。そのことに、僕は全然気づけてなかった」

 役に立ってるつもりだったのに、むしろ負担をかけていたのが、つらい。
 僕の話を聞いた向井は少し上を向き、何を言おうか考えている様子だった。

「あー……。渋沢、たしかお姉さんだけなんだよな?」
「きょうだい? うん。姉だけだ」
「俺は妹と弟がいるからなあ。面倒みるの慣れてるし。もし、妹がその時間から出ていくなんて言ったら、不審者に襲われるんじゃないかものすごく心配だから止める。五百歩譲って男と会うのは許すから、引き渡すまで送らせろと思う」

 五百歩は譲歩なんだろうかと少し笑ってしまったけれど。
 言われてみて、姉を心配することなんかなかったな、と気づいた。好き放題やってるから、あの人はそんなタマではない、と無意識に思っていた。キャラ的に。
 でも、それだけじゃなく。やっぱり僕は他者を思いやる気持ちが、本質的に希薄な気がする。
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