【R18】人の好みは説明できない

テキイチ

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第六章 まだ願いごとが叶った頃

140 気配り下手と干天の慈雨 ④

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「新くん!」

 旅行初日の五月四日、アパートの前へ迎えに行くと、嬉しそうに駆け寄ってきた若葉ちゃんから声を掛けられた。

「荷物たくさんあるね。後部座席に乗せる? トランクに積む?」
「えっとね、後部座席がいい!」

 若葉ちゃんはバッグを二つ後部座席に置くと、助手席に座り、シートベルトを締めた。
 今日も若葉ちゃんはとても可愛い。菫色のワンピースに白いカーディガンがよく似合っている。初めて見る服。新しい感じがするし、買ったのかもしれない。

「ラジオつける? それとも何も流さない?」
「じゃあ、今日はラジオつけて!」
「わかった」

 二人ともそこまで音楽を聴かないので、大抵この二択になる。
 僕はラジオをつけ、ピーターラビット号を軽快に走らせた。



《……ところによっては交通情報をお送りします》

 ラジオから交通情報が流れる。30キロの渋滞。事故があったらしく、速度規制がかけられているらしい。ああ。
 ゴールデンウィークを舐めていた。ここまで渋滞するとは思ってなかった。考えてみると、四日は移動が多い日かもしれない。今年はゴールデンウィークが五日までだし。

《十三時です》

 アナウンサーが時刻を告げ、ラジオは新しい番組に切り替わる。十三時?

「あ、お昼……」

 ちょうどいい頃合いに目に入ったお店で食べようと思っていたけど。高速で渋滞に入ってしまったから、お店がない。高速を降りて、近くにあるお店を調べて行くだけでも、時間がかかるだろう。そして、すごく渋滞しているから、一度ここを出たら再び流れに入るのは至難の業のような気がする。というか、出るだけでも一苦労なのでは。でも食べずに目的地までもつとは、到底思えないし。どうすればいいんだろう。

「新くん」

 若葉ちゃんがにこにこ笑って僕に声を掛ける。

「何?」
「あのね、私、おやつたくさん買ってきたの!」
「え?」

 若葉ちゃんは助手席の背もたれを倒し、後部座席に手を伸ばしてバッグを取った。

「玲美ちゃんにも『修学旅行じゃないんだから』って笑われたんだけど、つい、買いたくなっちゃって! 最初に食べちゃうとお昼入らなくなっちゃうかなって思ったんだけど、渋滞まだしばらく続きそうだし、食べよう!」
「若葉ちゃん……」

 烏龍茶のペットボトルを手渡される。お礼を言って口に含んだ。思っていたよりも喉が渇いていたことに気づく。僕にとって烏龍茶はやっぱり、干天の慈雨。

「何がいいかなあ? 一口で食べられるものならチョコとキャラメルがあるし、お腹にたまるパウンドケーキとマドレーヌもあるし、おせんべいやポテトチップスみたいにからいものもあるよ!」

 バッグの中を見せてもらうと、確かにたくさんある。迷っていると、後ろから軽くクラクションを鳴らされ、前の車が進んでいることに気づく。あわててピーターラビット号を進めた。

「じゃあ、おせんべい」
「新くん、あーんして」

 反射的に口を開くと、若葉ちゃんはそっとおせんべいを入れてくれる。おいしい。

「せっかくの長距離ドライブだし、こういうの、やってみたかったの!」

 若葉ちゃんはそう言うと、少し照れたように笑った。
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