【R18】人の好みは説明できない

テキイチ

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第八章 人の数だけ気持ちがある

193 神を愛したい者の回旋曲 ⑥

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「夜目が利くって気づいたのは、小学四年の時なんだけどさ」

 キーボードで「夜の海辺にて」を弾いた後、二人でお茶を飲んでいると、響が唐突に話し始めた。彼の話はいつでも突然始まる。

「担任の先生がベテランでさ。当時もう学校での色覚検査は廃止されてたんだけど、受けた方がいいって親に言ってくれて。検査の結果、他の人と見え方が違うことがわかった。赤と緑が見分けられないし、ピンクとグレーも同じに見える。昨日作ってもらったピーマンの肉詰めも、すいかも、茶色の濃淡にしか見えなかった」

 寝耳に水だ。

「……全然気づいてなかった」
「玲美に気づかれないように心掛けたから。ある程度はパターンで切り抜けられる」
「どうして言わなかったの?」
「言いたくなかったから」

 答になってない。けど、これ以上の答もない気がする。
 それ以上問う気はなかったのだけど、響は続ける。

「玲美は同情してしまうだろ。なんだかんだで見捨てられないおひとよしだから。寄り添ってもらえるのは嬉しいしありがたいけど、それと、同情で一緒にいてもらうのは違う。俺は玲美を同情で縛りつけるのは嫌だなと思った」
「……どうして教えてくれたの?」
「玲美と一緒に夜の海辺を歩きたくなったからかなあ」

 やっぱり答になってない。けど、これで充分な気もする。

「他の人とは見え方が違うってわかったから、パイロットは諦めたけど。今でも空への憧れはあるし、飛行機は好きだ。俺はそれでいいと思ってる」

 なんとなく、ごめんと言ってはいけないと思った。今まで一生懸命生きてきた響に失礼な気がして。
 恵まれていて、なんでも叶ってきたように見える、そんな人でも、多かれ少なかれ、挫折は経験していて。
 人は自分のつらかったことばかり考えてしまいがちだ。

「今見える世界も気に入ってるよ。でも、見分けられなくて困ることはあるから、その不便はなくなると助かる」
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