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第八章 人の数だけ気持ちがある
210 さらばセンメルヴェイス ①
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正しい方法がわかっているのに実現できない。
俺はこのパターンの挫折が、人よりも圧倒的に多いような気がする。
「エリアーデ、聖と俗。登録番号4819146145」
「……聖と俗……番号は4819、146、145。合ってる」
「次の書名、言ってもいいか」
「……記録してるから、少し待ってほしい」
俺は今日、三浦先生の研究室でバイトをしている。研究室の蔵書チェック。三浦先生と仲のよい、俺のゼミの先生に頼まれたのだ。人手が足りないらしいので協力してくれないかと。
三浦先生は、俺の元彼女、若葉のゼミ担当教員だ。若葉と一緒だったら気まずい。だから他のメンバーについて訊ねた。先生は「誰かは知らないが男子だと聞いている」とおっしゃった。だから受けた。
「……次、いいよ」
「デュルケム、宗教生活の原初形態(上)。登録番号3050030018」
「……宗教……あ、番号から探した方がいいのかな……番号は……」
「3050030018」
「3050、030、018。宗教生活の原初形態(上)。……隣に『宗教生活の原初形態(下)』はある?」
「ある」
「番号は3050、030、026で、合ってる?」
「……3050、030、026。合ってる、と思う」
さらさらとシャープペンシルで書き込みをする音が途絶えたので、次の本を読み上げることにする。
「登録番号3012、885、368」
「番号3012、885、368」
「香水。ジャン=クロード・エレナ」
「合ってる。サブタイトルは『香りの秘密と調香師の技』だよね」
「ああ」
サブタイトルを読み上げている間に書き込みの音が止まったので、今度は遠慮なく続きを読み上げる。
「登録番号3014、258、002」
「番号3014、258、002」
「シャネルNo5の謎。大野……サイコでいいのかな」
「斉子さんだね。サブタイトルは『帝政ロシアの調香師』」
「……合ってる」
一緒に作業を行う相手が、まさか、若葉の次の彼氏の渋沢だとは。
もちろんバイトを引き受けたので責任は果たすが、気まずいことこの上ない。
「次、大丈夫だよ」
「……すまん。登録番号3013、482、082」
「番号3013、482、082」
「フランス公衆衛生史。大森……コウキかな。弘法大師の弘に喜ぶ」
「弘喜さんだね。サブタイトルは『19世紀パリの疫病と住環境』」
「合ってる」
なんとなく渋沢の呼吸がつかめてきた。番号から読み上げると見つけやすい。登録番号もそのままでは長すぎて覚えられないから、三桁ないし四桁で区切る。逆に読み上げられた時、確かに一度では把握できなかった。シャープペンシルの音が途絶えたら、次に進んでいい。
「登録番号1011、634、886」
「番号1011、634、886」
「銃・病原菌・鉄 上巻。ジャレド・ダイアモンド」
「……下巻の番号は1011、634、894で合ってる?」
「……1011、634、894。合ってる」
そこまで進んだところで、ガチャリと研究室のドアが開かれる音がした。この部屋の主、三浦先生が戻ってきたのだ。
俺はこのパターンの挫折が、人よりも圧倒的に多いような気がする。
「エリアーデ、聖と俗。登録番号4819146145」
「……聖と俗……番号は4819、146、145。合ってる」
「次の書名、言ってもいいか」
「……記録してるから、少し待ってほしい」
俺は今日、三浦先生の研究室でバイトをしている。研究室の蔵書チェック。三浦先生と仲のよい、俺のゼミの先生に頼まれたのだ。人手が足りないらしいので協力してくれないかと。
三浦先生は、俺の元彼女、若葉のゼミ担当教員だ。若葉と一緒だったら気まずい。だから他のメンバーについて訊ねた。先生は「誰かは知らないが男子だと聞いている」とおっしゃった。だから受けた。
「……次、いいよ」
「デュルケム、宗教生活の原初形態(上)。登録番号3050030018」
「……宗教……あ、番号から探した方がいいのかな……番号は……」
「3050030018」
「3050、030、018。宗教生活の原初形態(上)。……隣に『宗教生活の原初形態(下)』はある?」
「ある」
「番号は3050、030、026で、合ってる?」
「……3050、030、026。合ってる、と思う」
さらさらとシャープペンシルで書き込みをする音が途絶えたので、次の本を読み上げることにする。
「登録番号3012、885、368」
「番号3012、885、368」
「香水。ジャン=クロード・エレナ」
「合ってる。サブタイトルは『香りの秘密と調香師の技』だよね」
「ああ」
サブタイトルを読み上げている間に書き込みの音が止まったので、今度は遠慮なく続きを読み上げる。
「登録番号3014、258、002」
「番号3014、258、002」
「シャネルNo5の謎。大野……サイコでいいのかな」
「斉子さんだね。サブタイトルは『帝政ロシアの調香師』」
「……合ってる」
一緒に作業を行う相手が、まさか、若葉の次の彼氏の渋沢だとは。
もちろんバイトを引き受けたので責任は果たすが、気まずいことこの上ない。
「次、大丈夫だよ」
「……すまん。登録番号3013、482、082」
「番号3013、482、082」
「フランス公衆衛生史。大森……コウキかな。弘法大師の弘に喜ぶ」
「弘喜さんだね。サブタイトルは『19世紀パリの疫病と住環境』」
「合ってる」
なんとなく渋沢の呼吸がつかめてきた。番号から読み上げると見つけやすい。登録番号もそのままでは長すぎて覚えられないから、三桁ないし四桁で区切る。逆に読み上げられた時、確かに一度では把握できなかった。シャープペンシルの音が途絶えたら、次に進んでいい。
「登録番号1011、634、886」
「番号1011、634、886」
「銃・病原菌・鉄 上巻。ジャレド・ダイアモンド」
「……下巻の番号は1011、634、894で合ってる?」
「……1011、634、894。合ってる」
そこまで進んだところで、ガチャリと研究室のドアが開かれる音がした。この部屋の主、三浦先生が戻ってきたのだ。
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