【R18】人の好みは説明できない

テキイチ

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第十章 扉が閉じて別の扉が開く

267 過ぎ去りし禍いを歎くは ③

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「じゃあ、私から質問よろしいでしょうか」

 司会の先生がマイクを通してそう言ってくださった。人のよさそうな年配の男性。司会はタイムキーパーも兼ねているから、一番手の私を気遣ってくださったのだと思う。

「緑川と申します。私は服飾史の分野は素人なので、的外れなことをお訊ねしていたら申し訳ないんですけども。身分によって着るものが制限されたというお話でしたけれど、庶民は本当に素直に命令に従っていたんですか?」

 質問の意図がよくわからなくて、思わず私は緑川先生の目をじっと見て固まってしまった。挙動不審な態度の私に、緑川先生は優しい笑みを浮かべて続けてくださる。

「日本でも奢侈禁止令しゃしきんしれい、俗にいう倹約令が出されて、庶民の着物の色は茶色・鼠色・藍色の三色に限られたことがありましたけれども。四十八茶百鼠ですか? その時期にものすごく茶色と鼠色のバリエーションが増えたっていうじゃないですか。そんな風に抜け道を探すようなことはなかったんかなあと思いまして」

 分野外の人だからこその、素朴な疑問。資料に書いてあったから、私はそれ以上疑わなかった。盲点で、考えていなかったため、少し思考が止まってしまう。でも、せっかく質問してくださったのだから、しどろもどろでも答えた方がいい。

「きちんと調べていないので、あくまでも推測にすぎませんが」

 裏付けがないことを堂々と正しいことのように言う訳にはいかないから、せめて前置きをして、続けることにする。

「見えない部分でおしゃれをする、ということはあったかもしれません。例えば、外套の裏地やシャツの台襟に柄をあしらうなどです。それらは現在も上級者のおしゃれとして残っています。抜け道を探すというのは、校則の範囲内で工夫しておしゃれを楽しむ中学生や高校生のようで、とても興味深い視点だと思いました」

 私の回答に緑川先生は頷きながら返してくださる。

「うちの娘も高校生の頃、校則に引っかからないようにいろいろやってました。こっちから見たら違いなんかわからないですけどねえ。制服といえば、最近はズボンとスカートを選択できるようにする学校も増えてきているらしいですね。ズボンは女性が、スカートは男性が穿く方が理にかなっている、みたいなことを言ったのは誰だったかな……。ちょっと忘れてしまいましたけれども、北村さんは男性と女性の服はどうして違いが出たとお考えですか?」
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