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最終章 ジャックにはジルがいる
334 綺麗は汚い、汚いは綺麗 ②
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イギリスは街並みが美しい。石の文化だ。写真やネットで見るのとは全然違う。帰るまでに本物を一つでも多く目に焼きつけようと思う。
作品と作者の関係について、BBCの外壁を飾るプロスペロー像が破壊された事件に絡めて、先生が話している。
作品と作者は別というのはもちろん正しい。ただ、理屈ではそうでも、個々人で許せないラインはかなり異なるため、簡単に共通の結論は出せない。社会的にどうかの線引きも、作品がどこでどのように利用されるかによって判断が変わる、と。
プロスペローは「テンペスト」の主人公だ。「テンペスト」、空くんがコンクールで演奏していたなあ、と懐かしく思い出す。私は今、あの時踏み出すことを恐れていた、新しい世界にいる。プロスペローの娘、ミランダの言う通りだった。なんて世界は美しいのかしら。
新しい世界では、新しい出会いもたくさんあった。
イギリスには勉強に行くのだから、一年間一人でも仕方ない。そう思っていたけれど、少し意外なルートから友達ができた。私が留学することを話すと、エミリーちゃんが興奮した様子で「幼馴染と同じ学校!」と女の子を紹介してくれたのだ。
アリスちゃんは日本文学専攻の女の子。エミリーちゃんの住む日本へ遊びに行くのを目標に日本語を勉強していくうちに、日本文学にハマってしまったのだそう。
「アリスちゃんは誰を研究しているの?」
「漱石! 彼の緻密で、内省的で、でも内に秘めた情熱がロックなところがたまらなくて、惹かれずにはおれない……!」
「漱石? 偶然! 私の恋人も大学で漱石を研究していたよ!」
「へえ! ワカバには恋人がいるの?」
「うん!」
新くんがピーターラビット号を買った時の写真を見せると、アリスちゃんは不思議そうな顔で訊ねてきた。
「え! ハジメ? ワカバ、ハジメと付き合ってたの?」
「え? それ、だあれ?」
ハジメ? 誰のことか全くわからなくて、アリスちゃんに問い返す。
「ワカバと同じ、日本からの留学生。でも、デザイン系の勉強をしてると言っていたような……」
「これは新くん。日本にいるよ。そんなに似ているの?」
「ハジメは眼鏡を掛けていないけど、顔立ちはそっくりだよ。ドッペルゲンガーみたいに」
アリスちゃんは少し古風な言い方をした。さすが日本文学専攻。
「同じ日本人だから、似て見えるだけじゃないかなあ……」
「そんなことないって! 今度会わせてあげる!」
その後、アリスちゃんに「アラタとぜひ漱石について語り合いたい!」と熱望された。新くんにその旨を伝えたところ快諾してくれたので、二人は結構こまめにメールで連絡を取り合っている。お互い勉強のために、基本的なやりとりは、新くんが英語、アリスちゃんが日本語でしているそう。アリスちゃんは日本語の論文や文献を紹介してもらえてとても嬉しそうだし、新くんからも生きた英語に触れることができてものすごく勉強になっていると言われた。私を介して誰かの世界が広がっていくのは、なんだかとても嬉しい。
作品と作者の関係について、BBCの外壁を飾るプロスペロー像が破壊された事件に絡めて、先生が話している。
作品と作者は別というのはもちろん正しい。ただ、理屈ではそうでも、個々人で許せないラインはかなり異なるため、簡単に共通の結論は出せない。社会的にどうかの線引きも、作品がどこでどのように利用されるかによって判断が変わる、と。
プロスペローは「テンペスト」の主人公だ。「テンペスト」、空くんがコンクールで演奏していたなあ、と懐かしく思い出す。私は今、あの時踏み出すことを恐れていた、新しい世界にいる。プロスペローの娘、ミランダの言う通りだった。なんて世界は美しいのかしら。
新しい世界では、新しい出会いもたくさんあった。
イギリスには勉強に行くのだから、一年間一人でも仕方ない。そう思っていたけれど、少し意外なルートから友達ができた。私が留学することを話すと、エミリーちゃんが興奮した様子で「幼馴染と同じ学校!」と女の子を紹介してくれたのだ。
アリスちゃんは日本文学専攻の女の子。エミリーちゃんの住む日本へ遊びに行くのを目標に日本語を勉強していくうちに、日本文学にハマってしまったのだそう。
「アリスちゃんは誰を研究しているの?」
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「漱石? 偶然! 私の恋人も大学で漱石を研究していたよ!」
「へえ! ワカバには恋人がいるの?」
「うん!」
新くんがピーターラビット号を買った時の写真を見せると、アリスちゃんは不思議そうな顔で訊ねてきた。
「え! ハジメ? ワカバ、ハジメと付き合ってたの?」
「え? それ、だあれ?」
ハジメ? 誰のことか全くわからなくて、アリスちゃんに問い返す。
「ワカバと同じ、日本からの留学生。でも、デザイン系の勉強をしてると言っていたような……」
「これは新くん。日本にいるよ。そんなに似ているの?」
「ハジメは眼鏡を掛けていないけど、顔立ちはそっくりだよ。ドッペルゲンガーみたいに」
アリスちゃんは少し古風な言い方をした。さすが日本文学専攻。
「同じ日本人だから、似て見えるだけじゃないかなあ……」
「そんなことないって! 今度会わせてあげる!」
その後、アリスちゃんに「アラタとぜひ漱石について語り合いたい!」と熱望された。新くんにその旨を伝えたところ快諾してくれたので、二人は結構こまめにメールで連絡を取り合っている。お互い勉強のために、基本的なやりとりは、新くんが英語、アリスちゃんが日本語でしているそう。アリスちゃんは日本語の論文や文献を紹介してもらえてとても嬉しそうだし、新くんからも生きた英語に触れることができてものすごく勉強になっていると言われた。私を介して誰かの世界が広がっていくのは、なんだかとても嬉しい。
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