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最終章 ジャックにはジルがいる
333 綺麗は汚い、汚いは綺麗 ①
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留学について考えることを避けたのは、本当は新くんと離れたくないからだけじゃなかった。研究は真剣に取り組んでいたし、好きなことだけど、覚悟を持てなかった。ただでさえ浮いている人生なのに、日本で新卒カードを捨てるのは安定のレールから決定的に外れることで、その後の保証だってない。留学や院への進学も、学位以外の資格を得られなければ就職にはほとんど結びつかない。特に文系の場合は。
結局、三浦先生に「やっぱり留学したいです」と申し出たのが十月下旬だったから、それからものすごく大変だった。
いかに先着順といえども、研究計画書が杜撰だったらはねられてしまう。三浦先生と相良先生にかなり丁寧に添削していただき、何度も何度も書き直した。
卒論は滞っていた期間が長かったので、全然自信がなかった。ぎりぎりまで全体が完成せず、本当に焦ったけれど、三浦先生が「やる気がある学生を見捨てることは絶対にしません」と言ってくださったから、最後まで安心して取り組むことができたと思う。
大学を卒業してからも、実家に戻って語学対策の学校に通い、勉強ばかりしていた。正直、留学直前までの記憶があまりない。
新くんと最後に会ったのは、イギリスに旅立つ前日。空港近くのホテルに一緒に泊まったけれど、結局行為はしなかった。でも、それでよかったと思う。
お互いに忙しくて、会うこと自体がひさしぶりで、私は少しだけ怖くなってしまった。他者を自らの中に受け入れることは、そんなに簡単な行為ではないんだ。たとえ大好きな人であっても。
「今日はただ抱きしめてもらうだけじゃ駄目かな?」と訊ねると、新くんは笑顔で優しく抱きしめてくれて、私は安心して眠ることができた。
大切な行為だという言葉でごまかして、私はセックスに逃げている自分を見ないようにしていた。次に新くんと会って身体を重ねる時は、もっときちんとセックスの重みを受け止められる気がする。
結局、三浦先生に「やっぱり留学したいです」と申し出たのが十月下旬だったから、それからものすごく大変だった。
いかに先着順といえども、研究計画書が杜撰だったらはねられてしまう。三浦先生と相良先生にかなり丁寧に添削していただき、何度も何度も書き直した。
卒論は滞っていた期間が長かったので、全然自信がなかった。ぎりぎりまで全体が完成せず、本当に焦ったけれど、三浦先生が「やる気がある学生を見捨てることは絶対にしません」と言ってくださったから、最後まで安心して取り組むことができたと思う。
大学を卒業してからも、実家に戻って語学対策の学校に通い、勉強ばかりしていた。正直、留学直前までの記憶があまりない。
新くんと最後に会ったのは、イギリスに旅立つ前日。空港近くのホテルに一緒に泊まったけれど、結局行為はしなかった。でも、それでよかったと思う。
お互いに忙しくて、会うこと自体がひさしぶりで、私は少しだけ怖くなってしまった。他者を自らの中に受け入れることは、そんなに簡単な行為ではないんだ。たとえ大好きな人であっても。
「今日はただ抱きしめてもらうだけじゃ駄目かな?」と訊ねると、新くんは笑顔で優しく抱きしめてくれて、私は安心して眠ることができた。
大切な行為だという言葉でごまかして、私はセックスに逃げている自分を見ないようにしていた。次に新くんと会って身体を重ねる時は、もっときちんとセックスの重みを受け止められる気がする。
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