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最終章 ジャックにはジルがいる
344 時に世界は一瞬で変わる ⑦
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割れてしまった鏡は、正しい姿を映さない。
鏡。鏡像。
鏡が映し出すのは、正反対のもの。
いくら顔が似ていても、この人は絶対に新くんじゃない。
「若葉ちゃんも、恋人の僕も、合意していない」
後ろから声がしたから、思わず振り向くと、ここにはいないはずの、誰よりも側にいてほしい人が、いて。
「コンセンサス」
「そう。合意」
私を挟んで、二人が会話する。
「アグリーメントならいけそうだったのになあ」
「agreementは『喜んで賛同すること』が本来の意味だ。無理矢理丸め込んで黙らせることではない」
新くんがきっぱり言い切ると、ハジメくんはくすりと笑った。
「若葉ちゃんにはなかなか手強い番犬がついているんだね。海を越えてやってくるなんて、たいした忠犬だ」
「新くんは……ボーダーコリーで、勇者だよ」
「野暮な真似は美学に反するから、失礼するけれど」
ハジメくんは立ち上がって去ろうとし、私の後ろの新くんに目を向け、ため息を吐いてぼそりとつぶやいた。
「噂の彼、僕とは全然似てない」
足音が遠ざかるのを聞いて、私もほっとして思わず下を向いて息を吐く。顔を上げると新くんが私の向かいに座っていた。
「あ、新くん……来てくれるの明日じゃ……」
「飛行機、キャンセル待ちのチケット取れたから、来ちゃった」
「び、びっくりした……怖くて動けなかったの……」
「大丈夫。僕はボーダーコリーだから、ちゃんと助けに来るよ」
「どうしてここに……?」
「うん。若葉ちゃんのスマホに連絡してたんだけど、全然つながらないから、アリスちゃんに連絡したんだ。イギリスはスマホが使えるし、WiFiスポットもたくさんあって便利だね」
そう言われて、私は自分のスマホを確認した。充電が切れてる。
「コンセンサスとアグリーメントの違いなんて、あんまり考えたことなかった」
「consensusは『一緒に感じる』が本来の意味だけど、全員の意見が一致することみたいだね。お会いするたびに語源を教えてくださる先生がいて、覚えちゃった」
驚きで声を出せない私に、新くんがにこにこ笑って続ける。
「仕事が少し早く終わって。夜の便だったらもしかして、と思ったら体が空港に向かってたんだ。飛行機に乗れるかどうかすらわからないし、運よく乗れても、若葉ちゃんと連絡が取れなかったら会えないのに」
新くんの言葉が、なんだか新くんの言葉に聞こえない。以前の新くんだったら、そういう選択はしない。無駄なく手堅い行動を取ったはず。
「本当に無謀だよね。確証なんかないけど、とにかく、少しでも早く若葉ちゃんに会いに行きたかったんだ」
新くんがイギリスに来てくれるのは、私のためだと思っていた。誕生日だし、不安がる私を安心させるために。
新くん自身が私に会いたいと思って来てくれたことが、本当に本当に、嬉しい。
「新くん……新くぅん……!」
「よかった。僕は間違わなかった」
新くんの大きな手が私の頭を優しくなでてくれて、とても安心した。
鏡。鏡像。
鏡が映し出すのは、正反対のもの。
いくら顔が似ていても、この人は絶対に新くんじゃない。
「若葉ちゃんも、恋人の僕も、合意していない」
後ろから声がしたから、思わず振り向くと、ここにはいないはずの、誰よりも側にいてほしい人が、いて。
「コンセンサス」
「そう。合意」
私を挟んで、二人が会話する。
「アグリーメントならいけそうだったのになあ」
「agreementは『喜んで賛同すること』が本来の意味だ。無理矢理丸め込んで黙らせることではない」
新くんがきっぱり言い切ると、ハジメくんはくすりと笑った。
「若葉ちゃんにはなかなか手強い番犬がついているんだね。海を越えてやってくるなんて、たいした忠犬だ」
「新くんは……ボーダーコリーで、勇者だよ」
「野暮な真似は美学に反するから、失礼するけれど」
ハジメくんは立ち上がって去ろうとし、私の後ろの新くんに目を向け、ため息を吐いてぼそりとつぶやいた。
「噂の彼、僕とは全然似てない」
足音が遠ざかるのを聞いて、私もほっとして思わず下を向いて息を吐く。顔を上げると新くんが私の向かいに座っていた。
「あ、新くん……来てくれるの明日じゃ……」
「飛行機、キャンセル待ちのチケット取れたから、来ちゃった」
「び、びっくりした……怖くて動けなかったの……」
「大丈夫。僕はボーダーコリーだから、ちゃんと助けに来るよ」
「どうしてここに……?」
「うん。若葉ちゃんのスマホに連絡してたんだけど、全然つながらないから、アリスちゃんに連絡したんだ。イギリスはスマホが使えるし、WiFiスポットもたくさんあって便利だね」
そう言われて、私は自分のスマホを確認した。充電が切れてる。
「コンセンサスとアグリーメントの違いなんて、あんまり考えたことなかった」
「consensusは『一緒に感じる』が本来の意味だけど、全員の意見が一致することみたいだね。お会いするたびに語源を教えてくださる先生がいて、覚えちゃった」
驚きで声を出せない私に、新くんがにこにこ笑って続ける。
「仕事が少し早く終わって。夜の便だったらもしかして、と思ったら体が空港に向かってたんだ。飛行機に乗れるかどうかすらわからないし、運よく乗れても、若葉ちゃんと連絡が取れなかったら会えないのに」
新くんの言葉が、なんだか新くんの言葉に聞こえない。以前の新くんだったら、そういう選択はしない。無駄なく手堅い行動を取ったはず。
「本当に無謀だよね。確証なんかないけど、とにかく、少しでも早く若葉ちゃんに会いに行きたかったんだ」
新くんがイギリスに来てくれるのは、私のためだと思っていた。誕生日だし、不安がる私を安心させるために。
新くん自身が私に会いたいと思って来てくれたことが、本当に本当に、嬉しい。
「新くん……新くぅん……!」
「よかった。僕は間違わなかった」
新くんの大きな手が私の頭を優しくなでてくれて、とても安心した。
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