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最終章 ジャックにはジルがいる

346 君といちめんのなのはな ①

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 僕らは無事に、若葉ちゃんの部屋へ着いた。若葉ちゃんは扉を開け、先に中へ入ると、僕に向き直る。

「新くん。お帰りなさい」
「ただいま」

 若葉ちゃんが満面の笑みで出迎えてくれるので、僕も満面の笑みで返す。
 僕は会いに来たのだけれど、確かに、若葉ちゃんのところに帰ってきたという感覚の方がしっくり来た。

「そうだ、連絡!」

 急いで電話を掛ける。

「夜分にごめんね! 無事若葉ちゃんと会えた! とても助かったよ!」

 不思議そうな顔をしている若葉ちゃんにスマホを渡す。

「もしもし……あ! アリスちゃん! ……そうだったんだ! ごめんね! ……うん……そう、新くんと話して、スマホの充電切れてることに、さっきようやく気づいて!」

 空港に到着した僕は真っ先に若葉ちゃんに連絡したのだけれど、まるでつながらなかったので、アリスちゃんに連絡を取った。もし若葉ちゃんに会えなくても、うちに泊まればいいと言ってもらえてほっとしたのは事実。慣れない海外で無茶なことをしている自覚はさすがにあった。

 若葉ちゃんの居場所を訊ねると、「アラタが来るってわかった後だったから私は断ったけど、ハジメが『友達何人かでごはんを食べないか』と誘ってきたから、もしかしたら行き違いでワカバはそっちに参加してしまったのかも?」とお店の場所を教えてくれたのだ。現実とアリスちゃんの話に少しズレがあるような気がするけれど、考えても仕方がないし、若葉ちゃんが無事だから、もうなんでもいい。

 通話を終えた若葉ちゃんがほっとした表情で僕に向き直る。

「アリスちゃんにはお世話になりっぱなしだなあ」
「若葉ちゃんも?」
「就職のことも相談したんだけど、あっさり研究と結びつくことにすればいいのにって言われて、もう一度考え直したの」
「そうなんだ」
「うん。大小いくつか企業を当たってみたんだけど、今のところ、外資系のジュエリーブランドと、輸入住宅の業者と、輸入家具とインテリアの小売店を考えているの。お客様がずっと大切に使うものと関わる職業がいいなって」

 僕は、若葉ちゃんがどこを選んでもいいと思った。でも、それは「どうでもいい」ということじゃない。日本で就職活動をしていた頃とは違って、どこに対してもそれなりに思い入れがあるように見えたから。若葉ちゃんが若葉ちゃんらしくのびのびと過ごせること。それが一番大事。

 そんなことを考えていると、若葉ちゃんがふわっとあくびをした。

「安心したら眠くなっちゃった」
「僕も。今日はもう寝よう」

 シャワーを浴び、お互い疲れていたから、ベッドに入ってすぐ眠ってしまった。
 若葉ちゃんが僕の隣にいる。それだけで、なんだかものすごい安心感があった。
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