8 / 23
本編
08 夏の麻 ③
しおりを挟む
俺はそれから美羽の部屋に居ついた。
美羽は心地がよかった。踏み込んでこないけど、こちらからの投げかけはきちんと受け止めてくれる。旨いもん食わせたらごきげんになるし、第一印象ほど面倒なタイプじゃない。
悪行を責められるのも、変に同情されるのも、腫れ物にさわるように扱われるのも、息が詰まる。
美羽はどれでもなかった。中庸。清濁併せ呑む感じがありがたかった。
自分の思う善と違うとなったら即切りしてきた友人達、他者を利用することしか考えていないコンパでしか会わない奴ら、食ってるつもりが食われてた一夜限りの女子達。美羽はそのどれとも違う。こういう人間はおそらく得難い。それは直感的にわかった。
☆+゜*。:゜☆゜:。*゜+☆
はねやには楽しいものがたくさんありました。読むもの、見るもの、動くもの。
「楽しいものをたくさん紹介してくれてありがとう」
ツバサくんがお礼においしい食べ物を作ると、ミウちゃんはとても喜んでくれました。
ツバサくんとミウちゃんはお互いの身体を食べさせ合います。
ミウちゃんはどんどんおいしくなっていきます。でも、ミウちゃんはツバサくんをおいしいとは思っていないようです。
ほんとうはぼくのこともおいしく食べてほしいけど。
せめておいしいたべものを作ってあげよう。
とってもおいしいブタノカクニができました。はねやに行くと、店はがらんとしています。ミウちゃんはどこに行ったんだろう。不安になったツバサくんの目に、置き手紙が飛び込んできます。
《たびにでます。げんきでね!》
せっかくミウちゃんがおいしく食べてくれるといいなと思って作ったブタノカクニです。ミウちゃんのためのものなのだから、一人で食べる気なんて、まるで起きません。
はねやには楽しいものがたくさんあると思っていたけれど、それは違いました。
今、ツバサくんはちっとも楽しくありません。
ツバサくんは気づきました。ミウちゃんがいるから楽しかったのだと。
どこに行っちゃったんだ。ミウちゃんがいればそれでいいのに。
こんなことなら、勇気を出しておけばよかった。
ツバサくんはずっとミウちゃんにあげたいものがありました。誰からも欲しいと言われないからあげる勇気が出なかった、でももらってほしかったもの。
ミウちゃん、お願いだから帰ってきてよ。捨てられてもいい、せめてぼくは渡したいんだ――
☆+゜*。:゜☆゜:。*゜+☆
「美羽……!」
「何? どうしたん?」
美羽が俺の顔をひょっこり覗き込んできた。
「……はい」
珍しくちょっと困ったような顔で、美羽が箱ティッシュを渡してくる。
それを見て俺は、自分が泣いていると気づいた。
俺は自分の気持ちと向き合うことを恐れていた。
セックスはただの運動だと思い込もうとしていた。
美羽をイカせたいのも、ゲームをクリアしたいのと似たようなものだと。
だからセックスに気持ちを込めたことがなかった。これまでの相手には、込める気持ちもなかった。
そんなものはいらないと、美羽に、拒絶されるのが怖かった。
フラットに見てくれる美羽のような人間は得難い。一緒にいたい理由を、打算だけで言うなら、まあ、そうなんだろう。
でも本音は。美羽の楽しそうな、嬉しそうな、喜んでる顔をもっと見たい。そんな単純なこと。そう感じてしまうことに、理由なんかない。
耳が綺麗だと思ったんだ。
思わずぺろりと舐めると美羽は震えた。
もっと舐めたい。もっと食べたい。
もっと一緒にいたい。君が大切なんだ。行かないで。側にいて。
その日俺は、満たされたセックスを初めて知った。
美羽は心地がよかった。踏み込んでこないけど、こちらからの投げかけはきちんと受け止めてくれる。旨いもん食わせたらごきげんになるし、第一印象ほど面倒なタイプじゃない。
悪行を責められるのも、変に同情されるのも、腫れ物にさわるように扱われるのも、息が詰まる。
美羽はどれでもなかった。中庸。清濁併せ呑む感じがありがたかった。
自分の思う善と違うとなったら即切りしてきた友人達、他者を利用することしか考えていないコンパでしか会わない奴ら、食ってるつもりが食われてた一夜限りの女子達。美羽はそのどれとも違う。こういう人間はおそらく得難い。それは直感的にわかった。
☆+゜*。:゜☆゜:。*゜+☆
はねやには楽しいものがたくさんありました。読むもの、見るもの、動くもの。
「楽しいものをたくさん紹介してくれてありがとう」
ツバサくんがお礼においしい食べ物を作ると、ミウちゃんはとても喜んでくれました。
ツバサくんとミウちゃんはお互いの身体を食べさせ合います。
ミウちゃんはどんどんおいしくなっていきます。でも、ミウちゃんはツバサくんをおいしいとは思っていないようです。
ほんとうはぼくのこともおいしく食べてほしいけど。
せめておいしいたべものを作ってあげよう。
とってもおいしいブタノカクニができました。はねやに行くと、店はがらんとしています。ミウちゃんはどこに行ったんだろう。不安になったツバサくんの目に、置き手紙が飛び込んできます。
《たびにでます。げんきでね!》
せっかくミウちゃんがおいしく食べてくれるといいなと思って作ったブタノカクニです。ミウちゃんのためのものなのだから、一人で食べる気なんて、まるで起きません。
はねやには楽しいものがたくさんあると思っていたけれど、それは違いました。
今、ツバサくんはちっとも楽しくありません。
ツバサくんは気づきました。ミウちゃんがいるから楽しかったのだと。
どこに行っちゃったんだ。ミウちゃんがいればそれでいいのに。
こんなことなら、勇気を出しておけばよかった。
ツバサくんはずっとミウちゃんにあげたいものがありました。誰からも欲しいと言われないからあげる勇気が出なかった、でももらってほしかったもの。
ミウちゃん、お願いだから帰ってきてよ。捨てられてもいい、せめてぼくは渡したいんだ――
☆+゜*。:゜☆゜:。*゜+☆
「美羽……!」
「何? どうしたん?」
美羽が俺の顔をひょっこり覗き込んできた。
「……はい」
珍しくちょっと困ったような顔で、美羽が箱ティッシュを渡してくる。
それを見て俺は、自分が泣いていると気づいた。
俺は自分の気持ちと向き合うことを恐れていた。
セックスはただの運動だと思い込もうとしていた。
美羽をイカせたいのも、ゲームをクリアしたいのと似たようなものだと。
だからセックスに気持ちを込めたことがなかった。これまでの相手には、込める気持ちもなかった。
そんなものはいらないと、美羽に、拒絶されるのが怖かった。
フラットに見てくれる美羽のような人間は得難い。一緒にいたい理由を、打算だけで言うなら、まあ、そうなんだろう。
でも本音は。美羽の楽しそうな、嬉しそうな、喜んでる顔をもっと見たい。そんな単純なこと。そう感じてしまうことに、理由なんかない。
耳が綺麗だと思ったんだ。
思わずぺろりと舐めると美羽は震えた。
もっと舐めたい。もっと食べたい。
もっと一緒にいたい。君が大切なんだ。行かないで。側にいて。
その日俺は、満たされたセックスを初めて知った。
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】ゆるぎとはな。
海月くらげ
恋愛
「せんせえ、もうシよ……?」
高校生の花奈と、聖職者であり高校教師の油留木。
普段穏やかで生徒からも人気のある油留木先生。
そんな男が花奈にだけ見せる表情がある。
教師×生徒 禁断TL小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる