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本編
09 夏の麻 ④
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あれから一年ちょっと。俺達はまだ一緒に過ごしている。
「翼。用意できた」
普段から名前で呼んでくれと美羽に頼んだら、あっさり、わかったと言われた。本当は自発的に呼んでほしかったんだけどと少し拗ねると、頼まれない限り誰のことも名字でしか呼ばない、そう、さらりと言われた。
具体的に言えば、美羽は大抵やってくれるのだ。
今日はお互い三品ずつ用意することにした。俺達は週末、そんな風に過ごすことがある。ちょっとしたパーティーみたいな。
美羽が用意したのは、冷奴と、解凍した枝豆と、厚めにスライスしたアボカドにオリーブオイルと醤油をかけたもの。美羽の出してくるものは、簡単なはずなのに、なんだか癖になる。アボカドは手の込んだ料理でしか食べたことがなかったので、このシンプルな味にはまってしまった。旨い。
俺が用意したのは、ささみと大根のサラダに梅ドレッシングをかけたものと、薬味を添えたそうめんと、茄子の揚げ煮。美羽はそうめんの薬味を冷奴にもかけて楽しんでいる。俺も真似をする。この豆腐、ちょっと高いやつだ。味が濃くて旨い。
「そうめんは正義」
「夏だしな」
「サラダ、おいしい」
「だろ? さっぱりしてるし、梅の酸味もいいだろ」
「うん。茄子もおいしい」
「だろ? 茄子は油と合うよな」
「うん。かりっとしてじゅわっとして、おいしい」
乱切りにした茄子を揚げて、出汁と醤油で軽く煮た。面倒な時はごま油で炒めてもいいけど、揚げた方が断然旨い。
今日の料理は、さっぱりしたものと油物の塩梅がよく、組み合わせても相性がいい。ビールが旨い。
美羽がにこにこしていて、とても穏やかな気持ちになる。平和な夏の夜。
「今日、暑いね」
食事と後片付けを終え、美羽が手をぱたぱたさせる。そんなことをしても、温度は変わらないだろうに。
「暑い?」
「うん」
確かに、美羽はうっすら汗をかいていて、鎖骨のあたりが光って見えた。
「それなら、脱いじゃうか」
ワンピースの前ボタンを外し、そっと鎖骨にくちづける。
「そういうつもりじゃ、なかったんだけど」
「じゃあ、そういう気になって。俺はなった」
「まあ、いいけど」
俺は自分の服を脱ぎ捨て、ベッドに雪崩れ込み、美羽の服を腰まで下げた。
「今日の下着、初めて見た」
「こないだ買ったやつ」
「ピンクのレース、可愛い」
美羽は少し目を泳がせている。
この一年ちょっとで、いくつか変わったことがある。美羽の下着もその一つだ。最初は本当にシンプルなものしか持ってなかった。飾りが全くなく、色はベージュか黒。ベージュは透けないように、黒はうっかり見えても比較的目立たないという色気のない理由。機能性重視。
だから、レースがあしらわれたオフホワイトの下着を纏った美羽を初めて見た時、俺は興奮して褒めまくった。すごくいい。似合う。可愛い。
そんなに絶賛されると思ってなかったみたいで、本人は少しぽかんとしてたけど。
綺麗な下着はもちろん俺も大歓迎だ。でもそれ以上に、ネットで下着を見ている美羽が、なんだか嬉しそうで。そう言ったら、今までは興味なかったけど楽しくなってきた、と返ってきた。
喜んでる美羽が増えるのは、とても嬉しい。
「せっかく可愛いのに脱がすのもったいないけど」
「手は全然名残惜しんでないけど」
確かに俺は、美羽の返事を聞いている間に肩紐を下げ、ホックを外し、取り去っていたけど。
「ほら、プレゼントは包装紙よりも中身が大事だし」
「またよくわからないたとえを……」
胸をそっと揉みしだくと、美羽は声を上げた。
「あっ……」
「直接さわった方が美羽もよさそうだし」
「さわりたいだけでしょ」
「うん。やわらかくて気持ちいい」
「翼。用意できた」
普段から名前で呼んでくれと美羽に頼んだら、あっさり、わかったと言われた。本当は自発的に呼んでほしかったんだけどと少し拗ねると、頼まれない限り誰のことも名字でしか呼ばない、そう、さらりと言われた。
具体的に言えば、美羽は大抵やってくれるのだ。
今日はお互い三品ずつ用意することにした。俺達は週末、そんな風に過ごすことがある。ちょっとしたパーティーみたいな。
美羽が用意したのは、冷奴と、解凍した枝豆と、厚めにスライスしたアボカドにオリーブオイルと醤油をかけたもの。美羽の出してくるものは、簡単なはずなのに、なんだか癖になる。アボカドは手の込んだ料理でしか食べたことがなかったので、このシンプルな味にはまってしまった。旨い。
俺が用意したのは、ささみと大根のサラダに梅ドレッシングをかけたものと、薬味を添えたそうめんと、茄子の揚げ煮。美羽はそうめんの薬味を冷奴にもかけて楽しんでいる。俺も真似をする。この豆腐、ちょっと高いやつだ。味が濃くて旨い。
「そうめんは正義」
「夏だしな」
「サラダ、おいしい」
「だろ? さっぱりしてるし、梅の酸味もいいだろ」
「うん。茄子もおいしい」
「だろ? 茄子は油と合うよな」
「うん。かりっとしてじゅわっとして、おいしい」
乱切りにした茄子を揚げて、出汁と醤油で軽く煮た。面倒な時はごま油で炒めてもいいけど、揚げた方が断然旨い。
今日の料理は、さっぱりしたものと油物の塩梅がよく、組み合わせても相性がいい。ビールが旨い。
美羽がにこにこしていて、とても穏やかな気持ちになる。平和な夏の夜。
「今日、暑いね」
食事と後片付けを終え、美羽が手をぱたぱたさせる。そんなことをしても、温度は変わらないだろうに。
「暑い?」
「うん」
確かに、美羽はうっすら汗をかいていて、鎖骨のあたりが光って見えた。
「それなら、脱いじゃうか」
ワンピースの前ボタンを外し、そっと鎖骨にくちづける。
「そういうつもりじゃ、なかったんだけど」
「じゃあ、そういう気になって。俺はなった」
「まあ、いいけど」
俺は自分の服を脱ぎ捨て、ベッドに雪崩れ込み、美羽の服を腰まで下げた。
「今日の下着、初めて見た」
「こないだ買ったやつ」
「ピンクのレース、可愛い」
美羽は少し目を泳がせている。
この一年ちょっとで、いくつか変わったことがある。美羽の下着もその一つだ。最初は本当にシンプルなものしか持ってなかった。飾りが全くなく、色はベージュか黒。ベージュは透けないように、黒はうっかり見えても比較的目立たないという色気のない理由。機能性重視。
だから、レースがあしらわれたオフホワイトの下着を纏った美羽を初めて見た時、俺は興奮して褒めまくった。すごくいい。似合う。可愛い。
そんなに絶賛されると思ってなかったみたいで、本人は少しぽかんとしてたけど。
綺麗な下着はもちろん俺も大歓迎だ。でもそれ以上に、ネットで下着を見ている美羽が、なんだか嬉しそうで。そう言ったら、今までは興味なかったけど楽しくなってきた、と返ってきた。
喜んでる美羽が増えるのは、とても嬉しい。
「せっかく可愛いのに脱がすのもったいないけど」
「手は全然名残惜しんでないけど」
確かに俺は、美羽の返事を聞いている間に肩紐を下げ、ホックを外し、取り去っていたけど。
「ほら、プレゼントは包装紙よりも中身が大事だし」
「またよくわからないたとえを……」
胸をそっと揉みしだくと、美羽は声を上げた。
「あっ……」
「直接さわった方が美羽もよさそうだし」
「さわりたいだけでしょ」
「うん。やわらかくて気持ちいい」
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