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おまけ
20 おうちが一番 ②
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そんなに広い遊園地じゃないから、昼前にあらかたアトラクションは回ってしまった。ジェットコースター、フリーフォール、水上コースター、バイキング、ミラーハウス。メリーゴーランドとコーヒーカップは勘弁してくれと断った。さすがにメルヘンが過ぎる。
「観覧車に乗りたい!」
「はいはい」
フードコートでお昼を食べ、次に乗りたいものを翼に訊ねると、予想通りの答が返ってきた。消去法で後はそれくらいしか残っていないし、翼は好きなものを最後に食べるタイプだ。
観覧車はさすがに人気で、十五分ほど並んで、ようやく乗り込むことができた。私が先に座ると、翼は向かいに座る。あれ? 四人乗りのゴンドラなんだから、向かい合わせだと遠いだろう。
扉が閉まり、ゆっくりゴンドラが動き出す。
「向かい合って座るのって、意外と距離あるんだ……」
「ほんとにデートしたこと、ないんだね」
「……美羽はデートで、観覧車、乗ったことある訳?」
だから、どっちだと答えても不機嫌になるようなことを、聞くな。面倒くさい。
ないよって答えたら「嘘吐くな」って顔するだろうし、あるよって答えたら嫉妬が滲み出た顔するだろうし。
乗ったことあるけど。遊園地はデートの定番だし、観覧車は普通外さないだろう。
「ほら、今のうちに、こっち来といたら。本格的に動き始めたら移動しにくいよ」
「……そうかも」
ごまかすように答えると、翼は素直に私の隣に座り直した。翼はゆっくり動いたけれど、少しがたっと傾いた気がして焦る。四人乗りなんだからこのくらいの移動で不安定にならないでほしい。不安定なのは隣の男だけで充分だ。
「確かに横に座ってる方が、いちゃいちゃできていいな」
「はいはい」
翼は私の手を握った。そしてやっぱり指を絡める。どうも恋人つなぎにものすごく思い入れがあるらしい。二人で外を歩く時、やたらそうされる。夏は大変暑苦しい。女子を食い散らかしていた割に、精神的に童貞だし、とんでもロマンティック乙女だ。
いちゃいちゃできていい、なんて言う割に、翼は全然私の方を見ず、やたら窓の外を気にしている。手がそわそわして落ち着かない。
「そんなに外の景色が気になる?」
「うん、まあ」
「もしかして、てっぺんでキスしたいとかそういう……」
翼の手の動きがぴたりと止まった。図星か。
「翼」
「な、何……?」
少し気まずそうな顔で振り向かれた。思わず笑ってしまう。
「そんな厳密にてっぺん狙わなくても」
翼に顔を近づけて続ける。
「もうちょっとかなっていうところから、過ぎたかなってところまで、キスし続ければいいんじゃない?」
「えっ……」
目を見開いた翼に私からくちづけた。唇がふれるだけの軽いキス。
ちょうど三個前のゴンドラが向かい側に見えたのを確認した。この遊園地のゴンドラの色、どうして統一されてないんだろうと思っていたけど、こういう利便のためもあるのかもしれない。
一旦唇を離された。翼の顔に朱が走っている。ああ、グロスが移った。お昼食べて、化粧直ししたばっかりだしなあ。まだ日が高くて明るいから、色がはっきり見える。頬の朱と唇のモーブピンクの合わせが、なんだか妙に綺麗だ。
そんなくだらないことを考えていると、今度は翼からくちづけられた。舌を探られるような、官能的なキス。目をつぶって、じっくり味わう。巧みなくちづけと対照的に、なでてくる背中に回された手が妙にぎこちなくて、その必死さが却って興奮をかきたてる。
てっぺんからゴンドラが二つほど過ぎた頃、唇が離れ、ぎゅっと抱きしめられた。
「美羽にはいろいろバレてるな」
「まあ、翼、わかりやすいし」
「夢が叶って嬉しい」
夢。なんて大袈裟な、と言いたくなるけど。まあ、やりたかったことができたのならめでたい。
翼のしたがることはいつもかなり型にはまっているけど、つまりそれはわかりやすいってことだし、こんなに喜ばれるなら、まあ、いいか、と思う。そして、やりたかったことの相手は私がいいんだなと思うと、ちょっとぐっとくる。もう少し望みを叶えてやりたくなるではないか。
「別々の家に住んでないと、待ち合わせデートできないってことは、ないと思う」
「え?」
「同じ家に住んでても、別々に行動して、待ち合わせ場所で会えばいいんじゃない?」
「え……っと」
「またしようよ。待ち合わせデート」
少しの間、翼は固まっていたけれど、こくりと小さく頷き、背中に廻した腕に力を込めた。
観覧車の周回を終え、ゴンドラから出る。
翼から「もう思い残すことはない」と言われたので、帰ることにした。翼の自室はすっかり片付いていて、引っ越し当日に荷物を回収するだけなので、私の部屋に。
「帰るのが一緒の家って、やっぱりいいな」
翼はぼそりと、でも少し嬉しそうに、つぶやいた。
「観覧車に乗りたい!」
「はいはい」
フードコートでお昼を食べ、次に乗りたいものを翼に訊ねると、予想通りの答が返ってきた。消去法で後はそれくらいしか残っていないし、翼は好きなものを最後に食べるタイプだ。
観覧車はさすがに人気で、十五分ほど並んで、ようやく乗り込むことができた。私が先に座ると、翼は向かいに座る。あれ? 四人乗りのゴンドラなんだから、向かい合わせだと遠いだろう。
扉が閉まり、ゆっくりゴンドラが動き出す。
「向かい合って座るのって、意外と距離あるんだ……」
「ほんとにデートしたこと、ないんだね」
「……美羽はデートで、観覧車、乗ったことある訳?」
だから、どっちだと答えても不機嫌になるようなことを、聞くな。面倒くさい。
ないよって答えたら「嘘吐くな」って顔するだろうし、あるよって答えたら嫉妬が滲み出た顔するだろうし。
乗ったことあるけど。遊園地はデートの定番だし、観覧車は普通外さないだろう。
「ほら、今のうちに、こっち来といたら。本格的に動き始めたら移動しにくいよ」
「……そうかも」
ごまかすように答えると、翼は素直に私の隣に座り直した。翼はゆっくり動いたけれど、少しがたっと傾いた気がして焦る。四人乗りなんだからこのくらいの移動で不安定にならないでほしい。不安定なのは隣の男だけで充分だ。
「確かに横に座ってる方が、いちゃいちゃできていいな」
「はいはい」
翼は私の手を握った。そしてやっぱり指を絡める。どうも恋人つなぎにものすごく思い入れがあるらしい。二人で外を歩く時、やたらそうされる。夏は大変暑苦しい。女子を食い散らかしていた割に、精神的に童貞だし、とんでもロマンティック乙女だ。
いちゃいちゃできていい、なんて言う割に、翼は全然私の方を見ず、やたら窓の外を気にしている。手がそわそわして落ち着かない。
「そんなに外の景色が気になる?」
「うん、まあ」
「もしかして、てっぺんでキスしたいとかそういう……」
翼の手の動きがぴたりと止まった。図星か。
「翼」
「な、何……?」
少し気まずそうな顔で振り向かれた。思わず笑ってしまう。
「そんな厳密にてっぺん狙わなくても」
翼に顔を近づけて続ける。
「もうちょっとかなっていうところから、過ぎたかなってところまで、キスし続ければいいんじゃない?」
「えっ……」
目を見開いた翼に私からくちづけた。唇がふれるだけの軽いキス。
ちょうど三個前のゴンドラが向かい側に見えたのを確認した。この遊園地のゴンドラの色、どうして統一されてないんだろうと思っていたけど、こういう利便のためもあるのかもしれない。
一旦唇を離された。翼の顔に朱が走っている。ああ、グロスが移った。お昼食べて、化粧直ししたばっかりだしなあ。まだ日が高くて明るいから、色がはっきり見える。頬の朱と唇のモーブピンクの合わせが、なんだか妙に綺麗だ。
そんなくだらないことを考えていると、今度は翼からくちづけられた。舌を探られるような、官能的なキス。目をつぶって、じっくり味わう。巧みなくちづけと対照的に、なでてくる背中に回された手が妙にぎこちなくて、その必死さが却って興奮をかきたてる。
てっぺんからゴンドラが二つほど過ぎた頃、唇が離れ、ぎゅっと抱きしめられた。
「美羽にはいろいろバレてるな」
「まあ、翼、わかりやすいし」
「夢が叶って嬉しい」
夢。なんて大袈裟な、と言いたくなるけど。まあ、やりたかったことができたのならめでたい。
翼のしたがることはいつもかなり型にはまっているけど、つまりそれはわかりやすいってことだし、こんなに喜ばれるなら、まあ、いいか、と思う。そして、やりたかったことの相手は私がいいんだなと思うと、ちょっとぐっとくる。もう少し望みを叶えてやりたくなるではないか。
「別々の家に住んでないと、待ち合わせデートできないってことは、ないと思う」
「え?」
「同じ家に住んでても、別々に行動して、待ち合わせ場所で会えばいいんじゃない?」
「え……っと」
「またしようよ。待ち合わせデート」
少しの間、翼は固まっていたけれど、こくりと小さく頷き、背中に廻した腕に力を込めた。
観覧車の周回を終え、ゴンドラから出る。
翼から「もう思い残すことはない」と言われたので、帰ることにした。翼の自室はすっかり片付いていて、引っ越し当日に荷物を回収するだけなので、私の部屋に。
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